偏愛
「美琴?」
律季の家から帰ってきた美琴は明らかに元気がなかった。
夕御飯を作りながら、美琴はさっきから一言も喋らない。
心配になった新太が、キッチンへと向かう。
「どうしたの?…律季と喧嘩でもした?」
(出掛けていく時はあんなに幸せそうだったくせに…)
「新太…」
料理の手を止めて新太を見上げる美琴は、目に涙を浮かべていた。
「美琴!?本当にどうしたの?」
突然泣き出す美琴に、新太は戸惑いながら尋ねる。
「私…もうだめかも…」
そう言うと、ポロポロ涙を流す。
「―――きっと律季に、愛想つかされたよ…っ」
(なんでそうなるんだよ?――――全く理解できない…)
新太は戸惑いながらも、とりあえず泣きじゃくる美琴を抱き締めて、落ち着かせるように背中をトントンと優しく叩く。
「また、出来なかったの…」
「へ?」
「エッチ、最後まで出来なかった…」
美琴の衝撃的な発言に、新太が赤面する。
(突然何を言い出すんだ、美琴は…――――)
「なんであんな痛いのに、みんな平気なの…?」
(え、それを男の俺に聞く?)
新太は心の中でたじろぐ。
「美琴…、大丈夫だよ、律季はそんな事で美琴から離れたりしないから」
新太は動揺しながらも、美琴を慰める言葉を探す。
「―――新太…」
美琴に潤んだ瞳で見つめられ、新太はクラッと目眩のような感覚に襲われる。
(――――美琴に手は出さない…)
抱き締めていた手を離して、新太は強く理性を保つ。
(そうしないと美琴に嫌われる…)
いつものように、新太は自分の気持ちに蓋をする。
それなのに、次の瞬間…新太の理性は崩壊した。
「なんで我慢できないのかな…私、律季のことそれほど好きじゃないのかな…」
美琴が吐いた弱音を、新太はなぜか真に受けた。
「美琴…」
顎に手を添えて、新太は美琴を見つめる。
「え、ちょっ…」
驚いている隙に、新太は美琴の唇を奪う。
「んっ、新、太…」
無理やりな方法で、新太は美琴の口に舌を滑り込ませる。
(美琴が悪いんだよ…、俺にそんな事言うから…――)
そんな半端な気持ちで律季と付き合うんだったら、
俺は美琴を渡したりしない…――――。




