クリスマスの夜に【後編】(律季・美琴編)
「あ…あの…―――」
美琴が恐る恐る声をかけても、律季は沈黙で返す。
「お、怒ってる?よね…」
「別に、怒ってないよ」
そういう律季は、明らかに穏やかではない。
(―――その態度は、どう見ても怒ってるじゃん…)
美琴は心の中でツッコむ。
「シャワー浴びてくる…」
「あ…ぅん」
上半身裸の律季が、宿泊部屋についているシャワールームへと消えると、美琴は溜め息をついた。
(なんで…こんなことに…)
事の発端は、美琴が拒絶したからだと理解している。
(――――だって…あんな痛いと思わなかったんだもん)
全裸のまま布団を胸まで押し当てて、ベッドの上で美琴は体操座りをする。
有名なイルミネーションも見れたし、
手も繋いで律季と幸せな一時を過ごして…――――。
宿泊場所に着いて、ついに律季と結ばれると思った。
でも、現実はそんな甘くなかったのだ。
(途中までは、すごく気持ちよかったのに…)
バタンと扉の音がして、律季がシャワールームから出てくる。
「律季…さっきはごめん、私…」
「いや、俺もごめん。」
律季に謝られて、美琴が呆然とする。
「焦ってた…早く美琴を自分のものにしたくて」
「律季…」
(なんだろう、すごく愛おしいなぁ…)
―――律季の言葉は、美琴の心を熱くする。
「ごめん、私…次は止めてって言わないから」
「どうだか…」
からかうように律季が大袈裟に溜め息をつく。
「本当だよ、次は我慢する!」
「我慢、って…」
律季が苦笑いしながら、ベッドに入る。
「ね、今日はこうして一緒に寝てもいい?」
律季が美琴を抱き締めて、甘えるように囁く。
「うん…」
美琴もそんな律季を抱き締めて、幸せを噛み締めながら眠りにつく。
スヤスヤと寝息を立て始めた美琴を、
眺めながら、律季は美琴の髪にサラッと触れる。
(自分でも、笑えてくる…)
冷えきった家庭に生まれ育った自分は、
何に対しても執着することはなかったし、与えられたものだけ、望まれたことだけこなせば良いと思っていた。
成績も一番になれと親に言われたからそうしてきたし、
女子が付き合ってくれと言えば、付き合った。
面倒くさい関係には触れないし、
簡単で、気楽に過ごせたらそれで良かった。
美琴に近付いたのも、
『斗亜の隣に綺麗な子がいるな…つまみ食いでもするかな』
…その程度の、軽い気持ちだった。
中学からの女子に飽きて、編入生の美琴に興味を持っただけ。
(それが、知れば知るほど…ハマってるなんて…)
自由で、予測がつかなくて、強がりで、敵わない美琴に、
気づけば律季は、どんどん惹かれていった。
(――――無防備に寝過ぎだって…)
若干イラッとして律季は、
美琴の頬に手を添えて首筋に真っ赤なキスマークをつけた。




