ファーストコンタクト
「よし、決めた!明日勉強会やろーぜ」
昼休み、斗亜のクラスに来た律季が突然そんな提案をする。
「明日?休みなのに?」
斗亜が不審そうに言う。
「休みだから、だろー?ねぇ、相馬さん?」
斗亜の隣でごはんを食べていた美琴は、
突然現われた知らない男子に話し掛けられ怪訝な顔をする。
「お前、いろいろと唐突すぎだから」
斗亜が、そんな美琴に気付いてため息をつき、説明する。
「美琴、こいつ俺の幼馴染みの律季。隣のクラスなんだ。」
「へぇ、律季ね!私、美琴。よろしく。」
(斗亜と仲良いし、雰囲気は嫌いじゃない。)
警戒心を解いた美琴は、笑顔で言う。
「美琴ね、よろし…」「よろしくしなくて良いから!」
早速律季が距離を縮めてきたことに、斗亜は気が気じゃなかった。
「新太、ほらお前も美琴と話すの初めてなんだろ?」
律季が後ろで突っ立っていた新太の背中を押す。
「あ、こいつ俺のクラスの新太!美琴と同じ中学だよね、知ってる?」
紹介しながら律季に押され、美琴の前に新太が立たされる。
「うん、知ってる。顔ぐらいは」
美琴は座ったまま、新太を見上げて言う。
「美琴、新太に失礼だろー」
そんな美琴の発言に、斗亜が言う。
新太は、胸が痛かった。
初対面のふりをする美琴は、驚くほど自然で…。
本当に自分とは、ただの顔見知り程度なのではないかと
錯覚さえしそうになった。
「あはは、ごめんごめん?怒った?」
目の前にいる美琴は、いつもの笑顔で新太に話し掛ける。
「いや、別に…」
新太は、自分が思っているより声が出なかった。
「あらー、新太拗ねちゃったわ…」
律季は、新太を見ながら笑う。
「ってか律季、なんで突然勉強会?」
斗亜が本題に戻す。
「お前、別に勉強会とかやらんでも出来るじゃん?」
「斗亜、この勉強会はさ、新太と斗亜の為だよ!俺と美琴が教える方!」
首席で高校に入学した律季が、
編入試験を満点で突破してきた噂の美琴に“先生”を提案する。
「え、私?ムリムリ!そういうのめんどくさい!」
美琴は、そんな律季の提案を即、断わる。
「えー、美琴冷たいなぁー」
律季はショックを受けながらもバレないように笑ってごまかす。
「斗亜と新太、二人に勉強教えなきゃならない俺の身にもなってよー」
「じゃあ、斗亜と私でやればいいじゃん。そっちはそっちでやれば?」
「うわ…」
律季は、完全に言葉をうしなった。
(俺にそんなこと言う女…初めてーー。)
「美琴…」
斗亜はまた勘違いして、そして感激していた。
(そんなに、俺のこと好きなのか…)
そして…新太だけが、美琴の本心に気がついていた。
(そんなに俺との接点を持ちたくないってことか)
美琴が即断わった理由、それは…、
新太と接点を持ちたくないということ。
(こうするしかないじゃん、だって…。ごめんね、新太…。)
美琴は、心の中で謝るとお弁当を片付けて席を立つ。
「美琴?どした?」
席を立った美琴に、斗亜が声をかける。
「私、トイレ!またね、二人とも」
美琴が律季に手を振って教室から出ていく。
(だって、私…新太を“友達”のふりなんて…絶対ボロ出ちゃうもんーーー)




