つらそうな君の願い
――――どうしてこんな出会い方をしてしまったんだろう。
いっそのこと、実の姉だったら良かったのに。
そうしたら、諦めがついたのかもしれないのに…。
夢の中でも、何度も考えてしまう。
どうにもできない、現実―――…。
「―――らたっ、新太!いい加減起きないと遅刻よ?」
新太の部屋に、そんな声が聞こえてくる。
「ん…美琴…?」
寝ぼけながら新太が目をこする。
視界がはっきりして、目の前には美琴ではなく母親の舞子が立っていた。
「美琴なら寝てるわよ、今日は休ませるわ」
舞子の言葉に、新太がガバッと起きる。
「え?」
「朝方帰ってきたけど、咳が酷いからね。熱は無いみたいだけど」
舞子が新太の部屋から出ていきながら、言う。
「じゃ、私も仕事遅れるから行くわね。戸締り宜しく」
「え、待って。美琴風邪引いてんのに仕事?」
新太が驚いて、母親に問いかける。
「午前だけは抜けられない会議あるのよ。午後は休んで帰るわ、新太は心配しなくて良いから早く学校行きなさい」
起きた新太は、美琴のドアの前に立って遠慮がちにノックしてみる。
「美琴…?」
「新太…入ったらダメだよ、移っちゃう」
呟くほどの声でも、美琴の耳に届いたのか、返事が返ってきた。
美琴はドア越しにそう言ったけど、声を聞いたら新太は顔が見たくなった。
「―――なにやってんの?」
そっとドアを開けた新太は、驚いて訪ねる。
美琴は寝ているのかと思ったら、出掛ける支度をしていたのだ。
「ちょっと…律季の家に行かないと…」
ゴホゴホと苦しそうに咳をしながら、制服を着て、マスクをした美琴が言う。
「は?なに言ってんの?」
驚いて、咳き込む美琴の体を支える。
「約束したから…律季のとこ戻らないと」
それでも部屋から出ようとする美琴に、新太はまたどうしようもない気持ちに襲われる。
(どうして…律季なんだよ……?)
「美琴、そんなのどーでもいいから、寝てなよ」
「どーでも良くない…よ。だって…律季が」
「美琴…」
「新太、放して。………大丈夫、だから」
そんな美琴を見ていたくなくて、新太は抱き締めていた手を放す。
(どうして…――――)




