嫌がらせ
「美琴、これ」
人気のない廊下に、新太は美琴に呼び出されて、
メールで頼まれた世界史の教科書を渡す。
「ありがとね、新太」
「でも、美琴なんか最近多くない?忘れ物」
「そうなんだよねー、最近疲れてるのかなー」
新太が何気なくそう言うと、美琴が笑って言う。
「律季には内緒ね」
「はいはい」
それだけ話すと二人はお互い教室へと戻る。
席に戻り、授業が始まると、
美琴は自分の世界史の教科書を机の中から取り出す。
ページの所々が油性のマジックで塗り潰されていた。
(新太の言ってたファンクラブの子達の仕業かな…)
溜め息をつきながら、美琴は世界史の教科書を閉じて机の中にしまう。
すでにこの何日かで、古典の教科書も、英語の教科書も、同じ被害に遭っていた。
「――――うわ、それひどいな」
「でしょ?言いたいことがあるなら直接言って欲しいですよね!」
その日の昼休み、屋上ですばるとお弁当を食べながら、
美琴は愚痴を聞いてもらう。
「俺の教科書でよかったら、あげるよ」
「え、本当?」
すばるの気遣いに、美琴が顔を向ける。
「うん、明日持ってくる」
「ありがとう、先輩!」
美琴とすばるがそんなやりとりをしていると、美琴の携帯電話が鳴った。
「もしもし?」
『美琴?今どこ?』
電話は、律季からだった。
「なんで?」
『なんでって…ーーー教室に居ないから』
「今日は、友達と食べるって言ったじゃん」
『友達って、誰?』
「十河先輩だよ、会ったことあるでしょ?」
美琴の話すことから、
何となく彼氏が自分の存在を気にしているのだと、すばるは察した。
「俺、先戻ってるから」
すばるが気を利かせて小声で言うと、屋上から立ち去る。
(あ…先輩…―――)
携帯電話を耳に当てたまま、美琴はすばるに声をかけれずに見送った。
「美琴」
教室に戻ったところを、律季に声をかけられる。
「なんで?友達とお弁当食べるだけなのにどうしてそこまで気にするの?」
美琴が、納得できないというように不機嫌そうに言う。
「美琴は俺が他の女の子と一緒にごはん食べてても何とも思わないの?」
「それは…嫌だけどーーー」
「同じだよ、俺だって」
(ただ、そんな気持ちになったのは今回が初めてだけどね…)
蛍と付き合っていたとき、
どうしてそんなに束縛するのか理解できなかったし、
それがウザかった。
(まさか、自分が“束縛する側”になるなんて…―――)
律季は心の変化に自分でも驚いていた。
「律季とは、違うよ」
美琴がボソッと言う。
「え?」
「律季は友達たくさんいるけど、私には斗亜と…すばる先輩しか友達いないんだよ?」
聞き返す律季に、美琴が涙目で言う。
「美琴、どうかした?」
そんな美琴の異変に、律季が気付いて尋ねる。
「何が?何でもないよ…」
慌てて笑顔を作って、美琴は答える。
(律季に知られたくない。ーーーー心配かけたくない)




