別れた後も
「蛍、どうしたの?」
電話で呼び出された新太は、蛍の家の近くの公園に足を運んだ。
(家にはまだ律季が居るのに…)
――――早く家に戻りたくて、新太は蛍に用件を聞く。
「うん、ごめんね…新太に会いたくなって」
蛍が少し困ったように微笑んで言うと、新太はすぐに背を向ける。
「そういうことなら…」
「あ、嘘!今のは冗談だよ」
引き留めるように新太の背中のシャツを掴んで、蛍が慌てて言う。
「相馬さんの事が好きなんだもんね、分かってるよ」
「うん」
新太は、振り返らずに頷く。
(分かってたけど、…キツい…)
蛍は胸が張り裂けそうな思いに堪えながら話し出す…。
「―――新太、うちの学校にファンクラブあるの知ってる?」
「知らないけど…?」
新太が蛍の方を向き直ると、蛍は新太のシャツから手を離した。
「学年でも人気の男子には中学からファンクラブが存在するんだよ」
「へぇ…律季とか?」
新太がまず、今気にかけている律季の名前を出す。
「律季も…斗亜も、中学から人気でね。ファンクラブがあった」
蛍が頷いて言う。
「律季は誰かと付き合ってもすぐ別れたりしてたし、斗亜はいつも断ってたからね…二人とも特定の彼女がいなかった」
「?蛍、何が言いたいの?」
新太がじれったそうに尋ねる。
「相馬さんの存在は、そんな彼女達には邪魔者なのよ」
蛍が新太を見つめて言う。
「―――高校に入ってから、律季のことも斗亜のことも相馬さんが独り占めするようになったから」
蛍の心臓は、ドキドキうるさく鳴り続けている。
(新太とこうして話すの…別れてから初めてかも…)
「新太のこともそうだよ、新太のこと好きな子は多いから…相馬さんのことばっかり三人でちやほやしてたら女子達が黙ってないよ?」
(やっぱり…新太、まだ好き…ーーーー)
素っ気なく言いながら蛍は、心の中で呟く。
「なんでそれを俺に話すの?」
新太が蛍を見下ろす。
「別に、相馬さんがどうなろうと蛍にはどうでも良いけど」
新太と目が合うと、慌ててそらしながら言う。
「新太は、相馬さんが泣くの見たくないでしょう?」
「蛍…」
新太の声色が少しだけ柔らかくなった。
「優しいな、蛍は」
蛍はますます新太の顔を見ることが出来なくなる。
(やめて…。優しくなんてない、だって私…ーーー)
「ありがとう、忠告してくれて」
そういうと、新太は公園から歩いて行ってしまった。
「あ…」
名残惜しくてつい声が漏れる。
(お礼なんて…要らない…)
新太の背中を見つめながら、蛍は口をぎゅっと閉じる。
(こんなの…ただ、会うための口実だよ、新太…――――)




