美緒の恋物語(Ⅴ)
――――いっそのこと…記憶喪失のまま、忘れていた方が良かったのかも…しれない。
――――あの日のことは。
「雨の中、急に来てしまって悪かったね」
流暢な日本語を話す、ジョージの父親に会ったのは、
あの日が初めてだった。
「いえ…」
「君が、ジョージと付き合ってる、日本人?」
ジョージと同じような顔で微笑むのに、なにか違和感があった。
「はい…初めまして、私の名前は…―――」
「あぁ、要らないよ自己紹介は。――――これを」
私の名前を聞くこともなく、テーブルの上に、茶封筒を置いた。
「―――なんですか…これ?」
―――嫌な予感しか…しなかった。
「手切れ金…と言うのかな、日本語で」
「え…」
「息子と別れてくれ、あの子には大事な将来がある。」
―――目の前が真っ暗になった。
「うちの会社の規模を知ってるかな?」
彼は確かにまだ19歳で…これからだ。
それに…どうやら大きな会社の大事な跡取りのようだった。
――――最初から…私なんかが関わってはいけない人だった。
「(父さん、彼女に何話してたっ!?)」
ジョージがなぜか私たちのいた店までやって来て、父親に早口の英語で話し掛ける。
「(何って別に、口説いたりはしてないさ)」
―――早口じゃないんだ…、私と話すときだけゆっくりだっただけで…。
「大丈夫?ミオ?」
ジョージが心配そうに言うから、私は精一杯明るく笑った。
「ん?何が?」
――――ジョージ、ありがとう。
この国で貴方に会えて…幸せだったよ。
そして、私は…逃げるように日本に帰ってきた。
ジョージには…なにも告げずに。
――――私には、居場所なんて無い。
日本にも、アメリカにも…。
誰の側にいることも許されず、これからも私はずっと一人だと思っていた。
それから一ヶ月後…、
お腹にあなたの存在を知るまでは…。




