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路地裏談話

 目覚めれば、思わず「なんだこれ・・・」と呟きたくなる光景が広がっていた。

 座り込んだ自分の目線よりも下にある三人の人間のつむじが俺に向かっており、手は床につき、無抵抗をしめしていた。

 土下座である。

(ファンタジー世界での土下座・・・日本文化からの流用か・・・つうか、土下座とか初めて見たぞ・・・)

 呆然とし、もしやこれは先ほどの夢の延長なのではないかと、まぶたを擦る。

 しかし、目の前の光景は紛れもない、変わらぬ現実だった。

 もう一度言おう。

「なんだこれ・・・」


「ぁ・・・起きられましたか?」


 目の前の男三人の土下座に現実逃避をし始めようとした時、自らの胸元から可愛らしい声が掛けられる。

 見下ろすと、そこには瑞々しい白桃、いや、メロン・・・とにかく豊かな乳房が見えた。

「うおっ・・・!?」

 白磁のような肌に剥き出しになった乳房、しかし先端だけは見えそうで見えない、たった一枚の衣服でぎりぎりのチラリズムを保っている。

(くそっ、邪魔な布切れだな・・・!剥ぐぞ、ちくしょうっ!)


 自らの被せた学生服に「もう一回剥ぐぞコラ」と理不尽な文句を心中でぶつけながら状況を整理する。


 目の前には未だ顔を下げた角刈り頭に白髪頭、特徴のない短髪・・・見たことのありそうな頭たちだった。

 そして胸元には少女。

 ゆるやかなウェーブのかかった眩いブロンド髪に、未だあどけなさの残る顔とは裏腹に、惜しげもなく前面に押し出されている胸部。

 彼女は黒い学生服のみを羽織り、タツミの胸元にしなだれかかっている。寸分の隙間なく、一体化するように。

 そのせいで・・・いや、おかげで彼女の様相とは不釣合いなまでに育った豊かな双丘がタツミに幸福な感触を与えている。


(うおぉ・・・何これやわらけぇ、あったけぇ・・・むにゅうって・・・決して無じゃないのに、無乳(むにゅう)って・・・!しかもなんかいい臭いするし・・・!)


 今すぐ彼女を押し倒し、邪魔な衣類を全て剥ぎ取って、ぐちゃぐちゃに混ざり合いたい・・・!

 彼女のその豊満な胸を揉みしだき、舐めまわし、顔を埋めて彼女の香りに包まれたい・・・!

 押し寄せる情欲、いや、もはや獣欲に身をゆだねて彼女をなすがままにしてしまいたい・・・!

 思わず、「ゴクリ」と生唾を飲み込む。


「あ、あの・・・」

 どれほど見つめていたのか、俺に見つめられていた少女は俺から胸元をかばうように居住いを正していた。

 心なしか俺にかける声もか細く聞こえ、少しばかり距離を開いて座りなおした。

(まぁ・・・男に襲われかけたんだし、脅えもするわな・・・)


 少女の脅えに我を取り戻し、大げさにかぶりを振って、頬を大きな音を立てて叩く。


「あ、あぁ・・・すまない」

こっち(この世界)にきてからどうも攻撃的になったというか、欲望に忠実になった気がするなぁ・・・。あるいは、元々こういう性質(タチ)だったんかね?もう少し理性的だと思ってたんだが・・・)

 紳士を心がける自分に失望していると、先程の態度は理想とは程遠く猛省。


「それで・・・あんたらは何してんだ・・・?」

 少女の柔らかかった胸が離れ、わずかではない落胆をしているものの、おかげで冷静になることができたので、現状把握に努める。

 まずは目の前の男たち・・・ゴリラ、仙人、鼠男の三人だ。


「あんたを男と、名うての冒険者と見込んで頼みがある・・・!

 俺たちをあんたのパーティーに・・・いや、舎弟にしてくれ・・・!」


(・・・パーティ・・・シャテイ・・・舎弟?

 いやいやいや、舎弟とかいらんがな。つうか女の子が離れたのに、むさい男三人と距離が近くなるってどうなのよ・・・)


 未だに土下座したままの男三人の願いにいまいち理解をしかね、困惑した表情で隣の少女に視線で問う。

「どうゆうこと?」

 少女は「わかりません」と言わんばかりに首を横に振る。通じた。可愛い。


(状況もわからんがパーティもわからんのよなぁ・・・。冒険者・・・パーティってそうゆうことか・・・?)


「おいおい、待ってくれ。

 俺はパーティも舎弟も求めてないし、そもそも冒険者じゃないんだよ」


「な、なんだって!?」「冒険者じゃないのに!?」「あんなに強いのか!?」

 ゴリラ達は一斉に顔を上げ、声を荒げた。お前ら仲いいな。


「・・・あぁ。そもそも俺は此処に来たばかりだし、これから先も考えちゃいない。まずは泊まる場所を探さにゃならんしな」

(とは言ったものの、宛ては一切ない。剣と魔法の世界、RPGの世界ならば宿屋ぐらいはありそうだが、そういえば俺、金持ってんのかね?)


 所持金無しでゲームスタート。

 宿屋に泊まり休息もできず、装備品も買えず初期装備のまま。

 初期装備のまま町の外に出て、雑魚的にエンカウントし、ワンパンチでゲームオーバーというハードゲームの苦々しい経験を思い出す。

 さすがにそこまで難易度高くないよな・・・?といぶかしむものの、先程までの狭間でのクソガキとの会話を思い出す。

「チュートリアルで二回ぐらい死ぬと思ってたよ」といいながらハハハと笑うクソガキ。

 彼の考えたゲームというのならば、ありえそうだ・・・。

 うんざりとしながら、(俺って死んだら意識は狭間行くみたいだけど、体はどうなんの?放置?そしたらモンスターに食われたりしねぇ?)と冗談交じりで自嘲し、(あ、笑い事じゃねぇや・・・・)と気づく。

(そうなると遺体回収係りで仲間とか居た方がいいんかねぇ・・・。でも俺、コミュニケーション能力低いし、集団行動とか苦手なんだよなぁ・・・)

 幸い、コミュニケーション能力を必要とせず、自ら進んで仲間になりたがる奇特な集団がいる。

 道徳心に多少難有り、しかし、今は自らの意思で頭を垂れている。

(・・・あれ?)

 ふと思い出す。彼らはなぜ頭を垂れているのかを。

 彼らは頭を下げている。しかしそれは俺に(・・)だ。

 頼みごとをするために頭を下げている。

 その行いはいい。

(しかし、こいつらは彼女に謝ったのか・・・?)

 その猜疑心は徐々に膨らみを増し、いつの間にか今一度こいつらに彼女に対して謝罪をさせるという決意をさせた。

「なぁ、俺に頼むより先に彼女に言葉を掛けたのか?」

 俺は立ち上がり、未だ座り込む少女を指しながら、怒気を孕んだ声で確かめる。


「彼女に・・・?」

 先頭にいるゴリラが少女を見て首をかしげる。


「あぁ。俺が起きる前からあんた等が土下座してるのは見たが、それは俺に対してしか見てないんだ。

 彼女に何か言うことはあるんじゃねぇか?」


 その言葉で気が付いたのか、「ぁ・・・」と少女は消え入りそうなか細い声で呟く。


「どうやらまだっぽいな?」

「あ、いえいえ!ちゃんと皆さん、私に謝ってくださいましたし、私ももういいですから!」

「ん?そうなのか?でも俺はまだ謝られてねぇんだよなぁ・・・」


(まぁ正直、俺はこいつ等を殴りたいから乱入しただけなんですけどね・・・!特に被害受けてないから謝罪とかいらないんですけどね!って、あぁ、背中の傷どうなってんのかねぇ?)とふと思うも痛みはすっかり消えうせて、湧き上がるは痛みの熱よりも、目の前の男たちをとにかく謝らせたいというイジメっ子じみた嗜虐心だけだった。ニヤニヤと吊り上りそうな頬を懸命に真顔を作り、なんとか堪える。


「それは・・・」「そのことは・・・」「本当に・・・」「「「すみませんでしたぁっ!」」」

 三人は口々にそれぞれの言葉を紡ぎ始め、同じ言葉で締めた。本当に仲いいのな、お前ら。息ぴったりじゃねぇか。

 三人の一糸乱れぬ言葉に驚愕を超えてもはや感動した。


「・・・だってさ、お嬢さん。本当に怖い思いをしたのは貴女だ。

 もし、実際は許せなくて、殺したいほど憎いというなら・・・」

 俺はその先を口に出すことはなく、手に持つ刀に手をかけ、「カチャリ」と鍔を鳴らせる。

 その音の表す意味は「殺す」

 この場でその音の意味がわからぬものはいなかったようだ。

 土下座するゴリラ達は顔を伏せて土下座したまま、それでも確かに一瞬肩を震わせた。脅えたのだ。

 そして俺を見上げる彼女は、顔を引きつらせた。

 この場の全員が俺が刀を鳴らせた意味を理解していた。


 この行いは一種の試金石だ。

 彼らは自らの行いを悔い改めた。そして彼女は一度は許してみせたらしい。

 しかし、それは俺の寝ているときだ。

 俺という力がないまま、力なき彼女は力ある彼らの謝罪を許してみせた。

(いじめっ子を躾ける教師の気分ってのはこんなモンかねぇ・・・)


 教師の居る前でいじめっ子がいじめられっこに謝る。

 教師の居ない前でいじめっ子がいじめられっ子に謝る。

(いったいどちらが信用できるもんかねぇ・・・)

 前者はより強い力に屈したから。後者は次なるイジメへの布石なのではないか。

 疑いはとまらない。

 それでも、この場で彼女の裁量というのを確かめてみたかった。


 ゴリラ達の謝罪を見た彼女は・・・笑ってみせた。

「フフッ・・・。ありがとう、ございます。

 確かに、皆さんに襲われて怖かったですけど、貴方に助けていただいて、皆さんにこうやって二度も謝っていたきました。それでもう十分です。

 本当に、ありがとうございました」


 少女は微笑を浮かべながら、静かに述べ、最後に恭しく一礼して見せた。

 彼女の纏う服が学生服一枚ではなく、ドレスであったのならば、貴族の令嬢にでも見えただろう。

 教養のない俺達ですら、その所作が美しいものであることはよくわかった。

 思わず、見惚れて息を呑んでいた。


「あ、あぁ・・・。貴女がいいのならば、それでいいさ。

 あんた達もそろそろ頭をあげたらどうだ?」


 俺は軽くかぶりをふり、ゴリラ達を見やると彼らは土下座のまま少女を見上げ、

「美しい・・・」「なんと神々しい・・・」「彼女がまさに・・・」

「「「「「女神か・・・」」」」

(うし!今回は俺もシンクロしたっ!あっぶねえぇ!間違えなくてよかったあぁ!)

 ゴリラ達のシンクロに混ざり合い充実した達成感を確かにかみ締めた。


 ゴリラ達は未だに見惚れたまま少女を見上げている。

「め、女神だなんてそんな・・・私は単なる酒屋の従業員ですよっ・・・」

 女神といわれた少女は恥ずかしげにイヤイヤと首を振りながらもじもじしている。可愛い。

(あとちょっと!あとちょっとでおっぱいが・・・!)

 俺は食い入るように少女の胸を見つめるものの、見えそうで見えない、ぎりぎり見えない、絶妙な妙技を見せられていた。


(くそっ!くそうっ!なんで見えないんだ・・・ッ!CERO指定か!?大人の都合が邪魔をするのか!?)

 どれほど見つめても見えない乳房を諦めて、現実に戻る。


「あぁ、そうだ。誰でもいい、この辺で宿屋とか知らないか?」

「宿屋ですか?」

 少女は正気を取り戻し、キョトンとしている。

「あぁ。俺はこの辺に来て間もないので、まずは寝床を確保せねばと思ってね」

「寝床・・・最近はこの辺の宿屋も繁盛しているみたいですし、あまり余地はないと思うのですが、予算はどれほどに・・・?」

(出たな、予算問題・・・)

 俺は、逃避できない現実問題に直面し、衣服の至る所のポケットを漁り、確かめる。

「予算は・・・ゼロだ」

 どこにも資金らしきものはなかった。残金ゼロから始まるニューゲーム・・・。

「ゼロ・・・ですか」

 少女は特別驚くこともなく、ただ落胆して見せる。

「そうなるとどこかで下宿させてもらうことになると思うのですが・・・」

(下宿かぁ・・・。泊めてもらう代わりに働くってことだよな・・・?

 身分証明とかどうすんだ?履歴書書けばいいのか?いやいや、それはさすがにないだろ?

 しかも俺、出身地どこよ。地球って書けばいいの?うっわ、どこそれ、胡散臭いとか言われんじゃね?)

 俺が色々考えてるうちに、どうも苦々しい顔をしていたらしく、

 少女が助け舟を出してくれた。

「もしよければ、うちに来ませんか?先ほど言ったように、うちは酒屋ですので・・・」

「ま じ で?」

(彼女が女神か・・・!あぁ、後光が見えるよ!)

 実際には見えていないが。


「はい、まじです。助けていただいたお礼に・・・。おかあ・・・女将さんには私からなんとかお願いしてみますし、せめてものお礼に一泊だけでもしていただけると・・・」

(可愛い女の子に今日だけ泊まっていってはぁと とか言われる状況ってどんなのなの、まじで)


「いいいい、いやいやいや、一泊だけでもさせてもらえるなら是非此方からお願いしたい。

 しかし、いいのか?俺みたいな胡散臭いのが行っても・・・」

「はい、大丈夫ですよ。助けていただいたお礼ですので・・・」

 少女は笑顔で答えてくれるが、最後には少し困った表情をした。

「あの、ごめんなさい。そういえば折角助けていただいたのに、お名前を・・・」

「あぁ、そうか。申し訳ない、名乗り遅れた。タツミ。フジ、タツミだ」

「ありがとうございます・・・タツミ・・・タツミ様」

 少女は俺の名前をかみ締めるように復唱し、はにかんで見せた。何この可愛い娘。

「あー・・・、タツミでいいよ。俺みたいな若輩者に敬称なんてもったいない。貴女の名前は?」

 俺は照れ隠しに頬をポリポリと掻き、視線を泳がせる。

 少女を直視するとおかしな気分になりそうだった。

「あ、ごめんなさい。私はクレア。名前はシンクレアですが、クレアとお呼びください。タツミ様」

「わかった。よろしく、シンクレア様(・・・・・・)

 俺はニコリと笑って、握手を差し出す。

「むぅ~・・・、タツミ様はいじわるです・・・」

 少女はぷっくらと頬を膨らませた。ハムスターか。可愛い。

「様を外してくれたらちゃんとお呼びしますが、お嬢様?」

 俺は手を差し出したまま笑う。

「わかりました・・・タツミ、さん」

 クレアはおずおずと手を伸ばし、俺の手を弱弱しく握る。

 彼女の手はひんやりとし、それでも女性特有の柔らかい手をしていた。

「あぁ、改めてよろしく、クレア」

 俺達は手を握り合ったまま笑いあった。


「クレア・・・?」「酒場のクレア・・・?」「シンクレア・・・?」

 ゴリラたちが未だに土下座してクレアの名前を口々に呟いていた。

 何か心当たりでもあるのだろうか。

「「「も、もしかして・・・・」」」

 三人は同じタイミングで気づいたのか、顔を見合わせている。

(なんだ、今度は何を言うんだ?想像もつかんので、俺は参加できんぞ・・・)

 さっきの一体感はなんだったのか。今度は参加できないことに一抹の不安どころか疎外感を感じ、さみしく思っていると、三人は徐々に顔から血の気が失せていった。


「「「『女帝』の娘・シンクレア・スカーレッドぉ~~~~~!?」」」


 三人はまたしてもシンクロを披露した。かなりの大声で。

(なに、女帝の娘って、かっけぇ・・・二つ名とかいいなぁ・・・)

 すごく中二心がくすぐられた。

 女神と呼ばれたり、女帝の娘と呼ばれたり、いまいち落ち着かないクレアは、

「アハハ・・・」と困ったように笑い、頬をかいていた。可愛い。


(で、女神か女帝の娘ってどっちなん、クレアたん?

 そういえば冴えない男がクレアを「クレアタン」って呼んでたのは「クレア」たんってそういうことかぁ・・・)

 現代日本以外にも萌え文化の普及を確認した。

おっぱいについて書いていたら主人公のキャラがぶれぶれに。

おかしい、最初はちょっとスケベだけど紳士然とした男だったはずなのに・・・。

どうしてここまでおっぱいに熱い男になったんだろう・・・。

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