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とある『魔女』のはなし

ギンの案内のもと、雑草生い茂る悪路を進む。

シトリィの暴虐のあとから数分森の奥へと進めば、これまた別の暴虐のあとへと至る。


「こりゃひでぇや」


木々は根本から薙ぎ倒され、そこら一帯はドーム状に大きく開けていた。


先日、俺たちが蜂と交戦する最中にやってきたアッシュら「剣鬼隊」と称される一行の一人、黒ローブの魔法使いの魔法の痕跡。


蜂共々俺たちごと巻き上げ、吹き飛ばしかねない風の魔法。

風と呼ぶには生易しく、竜巻さながらの暴風だった。

あの天災をたった一人で起こせるだけで不可視の奇跡、まさに魔法といったデタラメ具合だ。


「改めて見てもひどい有り様ですね」


ローシが辺りを見回しながら言う。


「だな。環境破壊もいいとこだ。蜂の巣駆除もできてねぇうえに後始末もしてねぇ。かぁー、やだやだ。これだからお役所仕事は」

「おいタツミ、その発言はいろんなとこを敵にするからやめとけ……」


リードはおそるおそるといった体で辺りを見回す。

そんなに心配せずとも、こんな場所に人などいやしない。


「そう心配せずとも、辺り一帯に生き物の気配なんてーーストップです、皆さん」


落ち着いた様子で辺りを見回していたローシがふと一点に視線を留める。

獣の鳴き声すら聞こえぬ静寂の中、皆の視線がローシの視線の先、数十メートル先の一本の木へと集中する。


「誰かいるのか?」


ゴブリン、巨大蜂、獣。

声をかけても反応は一切なく、単なる気のせいで何もいないのか。あるいは意図的に隠れているのか。

後者であるならば知性があり、隠れねばならぬ理由があるはず。


声をかけてしばらく。

全員がそれぞれの武器に手をかけ、緊張に包まれる最中。


「待て待て。俺だ」


木の裏から姿を表したのは最早見慣れた灰色髪のツンツンハリネズミ野郎だった。


「かぁー、これはこれは。お役所のワンちゃんじゃありませんか」


俺の軽口を皮切りに、場の空気が弛緩する。

見知った奴であり、敵意がないことがわかったからだ。


「お前と言う奴は……。少しは悪びれたりせんのか」

「その言葉そっくりそのまま返すぜ、クソ野郎。

俺たちごと吹き飛ばしかねない魔法ぶっ放しておいて、どの面下げて俺たちの前に姿見せやがった。

あの魔法のせいで傷を負ったアルフのやつは……くぅっ」

「おいタツミ、呼んだか?」

「惜しい人物を亡くしました……」


アルフが反応する中、ローシが乗ってくる。

このノリの良さ、嫌いじゃない。


「……そうか、それは本当に申し訳ないことをした」


おや、意外なことにアッシュのやつさえも乗っかってきた。こいつも意外とノリはいいらしい。

嫌いじゃない。嫌いだけど。


「ううっ、アルフおじちゃん……」


ギンが涙ながらに目を逸らす。

さすが俺の娘ポジション。よくわかってる。最高。大好きだぜ、愛してる。将来は役者か。


「こんなことになるならおっぱいでも揉ませてやればよかったッス……」


おい、シトリィやめろ。ギンの前で変なこと言うな。

あとお前顔隠してるけど絶対笑ってるだろ。


「え、まじで?」


間に受けるアルフ(故人)。お前もうちょっとツッコムか自己主張しろよ、収拾つかねぇだろ。


皆が一様に涙を流すふりをしてるなかアルフはまじで?いいのか?とぶつくさ言いながら手を握ることを繰り返している。その動きやめろや。


「ーーよし!」


意を決したように顔を上げるアルフ。


「揉むか!」

「揉むか!じゃねぇよ馬鹿野郎!」

「でぇっ!」


携えた刀ーー無明の鞘でアルフの頭を小突くと大きな体を屈めて痛がるアルフ。

意気揚々と何の宣言してんだ、こいつ。


「だってよぉ!」

「だってもクソもあるか、馬鹿野郎。ボケにボケ被せてくんじゃねぇよ!収まりつかねぇだろ!

あとリード!ツッコミはお前の仕事だろ!相方のボケ拾えよ!」

「俺のせいなのか!?そもそもお前がボケなければいいんじゃないのか!?」

「あーあーあー、聞こえなーい!

あとシトリィ、ギンの教育に悪いからやめろ!」

「えー、おっぱいぐらいいいじゃないッスか。

タッきゅんも好きッスよね?」

「好きです!」

「タツミぃ!?」


すかさずリードのツッコミが入る。さすがだよ、そう、そういうことだよ!


「あぶねぇ!俺のボケの血が!」

「アハハハハ、タッきゅんはやっぱりおもしろいッスねー!」

「おい、シトリィ!」

「んー?なんスかー?おっぱい揉むッスかー?」


シトリィはそう言いながら、身に纏った襤褸切れの上から自身の乳房を鷲掴みにし、持ち上げる。

襤褸切れの上からでも形のわかる巨大ながらも美しい乳房が形を歪める。

それでもなお、ハリのある柔らかさは損なわれず、視線を釘付けにする。

思わずゴクリと生唾を呑み込み、視線を持ち上げる。

するとシトリィと目が合い、「ふふっ」と蠱惑的な笑みを浮かべ、更に乳房を顔へと寄せて舌舐めずりをする。


「ーーエッロ!」


我慢の限界だった。魂の叫びが漏れた。


「アハハッ!タッきゅんはウブッスねー!あとでおっぱい揉むッスか?」

「あとでな!」

「タツミぃ!」

「アハハハハ!楽しみッスねー!」

「なぁ、俺は!?」


つい漏れた本音にリードの喝が飛び込んでくる。

それに爆笑するシトリィ。アルフは変わらず無視されていた。


「おとさまおとさま」


いつの間にか隣に来ていたギンが袖をクイクイと引っ張り、俺を見上げる。


「ギンのおっぱいも揉む?」

「ほらー!」

「ほらじゃねぇよ!お前のせいだろが!」


なぜか俺が怒られた。

十数歳に見える少女におっぱい揉む?とか言われるのは犯罪臭がすごい、というか犯罪にしか見えない。

改めてギンには教育が必要だと思いましたまる


「ローシ殿、いつもこんな感じなのか?」

「おおむねこのような感じですね」

「まったく……。騒がしい奴らだな」

「ええ、まったくです」


遠巻きに眺めるアッシュとローシ。

なんで縁側の老人みたいな雰囲気醸し出してんだ、お前ら。






「で、アッシュさんよぉ、なんでお前はまーた俺たちの前にいんの?ストーカーなの?」


遭遇率半端ないよな、行く先々にいるぞ、こいつ。


「そう邪険にしてくれるな。偶然ーーではないが、女帝殿にお前たちの面倒を頼まれているのもあるが、公務中にお前たちと出くわすのは偶然だ。

今日に関してはプライベートであり、追ってきたのは事実だが」

「やっば、認めてきたよ、ガチストーカーじゃん、こっわ」

「ハハハ」

「否定しねぇし。つうかまじでお前、あのクソ野郎ふざけんなよ、死ぬかと思ったからな」

「ああ……。彼女に関しては本当にすまないと思っている」

「は? 彼女?」


俺が言っているのは件の黒ローブの魔法使いのことだ。人違いーーとは会話の流れからしてありえない。


あいつ、女なのか……。


「ああ。彼女は訳あってあのような格好をしている。

公に彼女が姿を晒したくないということ、また彼女は俺とは違う組織に属しており、今回はこちらから依頼して協力してもらった為、あのような格好だった」


成る程、道理でほぼ全員が同じような鎧姿の中、あいつだけが異質な黒ローブだったわけだ。


「ふぅん。じゃああいつが誰かって聞いても教えてもらえねぇわけか」

「その通りだ。彼女には今まで散々助けてもらったが、彼女の事を話せば今後一切の助力は乞えんし、最悪彼女の所属する組織と敵対することになりかねん。それだけは避けねばならんからな」


この話を聞くだけで組織内での女の立場、重要性というものが窺い知れる。

下手に藪を突かない方がいいだろうと判断した。


「まぁあのデタラメな力だし、あんなのがうじゃうじゃいる組織なんざ敵に回したかねぇな」

「……彼女の力は勿論、人柄も買っている。

普段は温厚で穏やか、それこそ風の魔法を操るに長けるに相応しい人なのだが、いかんせん冒険者というものを嫌っているからな。言葉だけを聞くには憎んでいるともとれる節があったが、今回の件で確信したぐらいだ」


興味本位で掘り下げては見たが、組織内での彼女とやらはかなり力ある方らしい。

それとなく聞いたつもりだが、アッシュも察した上で答えたようだ。


「……彼女の事はこれぐらいにしておこう。

俺から言えるのは彼女が風を操る力ある魔法使い、冒険者を忌み嫌い、通称『颶風の魔女』と呼ばれている、とだけだ」

「へぇへぇ、ご親切にどうも。つうかお前、そんな教えてくれていいのかよ」


聞けば答えてくれる、なんというか妙な違和感だ。

そうだ、普段教えてくれるのは、答えてくれるのはローシのはずだ。

ふと視線を向けると、ローシはおろかラッド、珍しくゴリさえも何かを思案するかのように、苦々しい表情をしていた。


「どうかしたかよ」

「……いえ、なんでもありません」

「……そうかよ」

「……ありがとうございます、旦那」


そう答えたローシの表情は依然苦しげで何かあるのは一目瞭然だが、俺への信頼を寄せる奴らの事だ。


俺に不利益な隠し事をしない。

隠し事するならば、俺に対して損はない。

そう信じて問うことをしないでおく。

これが吉と出るか凶と出るかはわからないが……。




アッシュも交え、再び歩を進める。

荒れ果てた道を草木を掻き分けながら進む。

先頭のギンの案内だが、方角は定まらず目的があるとは思えないが不思議とその進路に迷いはない。


そんな中、不意にアッシュが口を開く。


「誤解するなよ。俺個人は女帝殿に好かれ、シンクレア殿にも好ましく思われているお前がいけ好かん、が、俺は彼女や隊の奴らのように冒険者を嫌ってはいないどころか、好ましく思っているからな」

「ツンデレかよ。つうかお前の隊の奴らにも嫌われてんのかよ、冒険者。風つえー、つれーわー」

「国を思うならば衛士になればいい。冒険者になる奴らは金、名声、我が身ばかりだ。だが、そんな冒険者達を俺は羨ましくも思う。国よりも民を思ってしがらみなく動ける奴らを俺は憎めず、やはり憧れてもいるんだ」

「そう思うんなら、ちったぁ俺たちに優しくしてくれてもいいんじゃねぇかねぇ」


なんで突然告白されたんですかねぇ。


少年のようにキラキラと瞳を輝かせて語るアッシュ。

歳不相応と笑うかもしれないが、こいつは確かに冒険者に対して憧れを抱いているのだ。

『剣鬼』と称され、英雄視されているアッシュでさえも冒険者への憧れを持つのだ、爪弾き者であっても冒険者の人気は絶えないだろうな。


「そうもいかんのが辛いところだな。

俺たちの隊は冒険者への抑止力としての側面も持つ。ゆえに剣に優れた者が集まる。抑止力の象徴たる俺が冒険者に友好的に接すればなめられるからな」

「へぇへぇ、真面目なこって」


なーにがつらいところ、だ。

仕事中はごりごりに嫌悪感丸出しでツンケンしてやがるくせに。やっぱこいつツンデレだわ。


「……まぁ、いいや。で、今日は何の用だよ」

「勘違いするなよ、今日は女帝殿の使いだ。なんせ聖域には案内なくせず入れんからな」

「聖域だあ?」

「おとさまー、ここー」


雑草の中を抜けると、剥き出しの地盤が見える。

直角に思えるほどの崖。どうやら俺たちは崖の下にいるらしい。

そしてその俺たちの正面、外面に掘られた穴の中に祠を見つけた。


お世辞にも綺麗とは言えない、手入れのされていない小さな小さな木の祠。


それを見つけた時に、妙な寂しさを覚えた。

誰にも知られず、見つけられることのない祠。


「話には聞いていたが、これが入り口か」

「入り口? 道なんざ見えないが…」


辺りを見渡しても道はなく、そび立つ壁がどこまでも縦横無尽に続いている。完全な行き止まりだ。


「かつて賢狼と崇められた魔物を奉った祠。それを見つけたあとは招かれた者しか入れん」

「おとさま、おじさん。あとはーー貴方」


ギンが俺とアッシュを順に指差し、一拍置いて一人、更にシトリィを指差す。


「おや、ウチもお呼びッスか。モテる女はツラいッスねー」


俺とアッシュは用があり赴いたし、招かれたのはありがたいが、シトリィなんかはついでについてきた身だ。お呼ばれする意味がわからないが、本人も満更ではないからいいだろう。


「おじさん……」


一人は妙なところでダメージを受けているが、気にしないでおこう。理由はおもしろいから。


「旦那」


ローシから声がかかる。


「どうやら私達は同行が許されないようで、ここで待機しています。お相手はギンお嬢の姉君……とはいえ先代の賢狼の巫女。ましてやその賢狼をどうゆう理由か、妹であるギンお嬢に委ねた身。くれぐれもお気をつけて」


我が身可愛さに賢狼をギンに押し付けたかもしれない姉。そんな姉を糾弾しかねない俺たち一行が快く思うわけがない。なのに、招かれたとあれば何かあると思う方が自然だ。


「わかってるよ」

「御武運を。アッシュ殿、シトリィ嬢。

どうか旦那とギンお嬢をよろしくお願い致します」


深々と頭を下げるローシ。それに続いてゴリ、ラッド、アルフ、リードの仲間全員が頭を下げる。

心配してもらえるありがたさと妙な気恥ずかしさ。

どうにも居心地が悪い。


俺に父はいなかったが、かつて友人の父に友人のことをよろしくと頼まれたことがある。

あの時の友人の気持ちはこんなものだったのだろうか。


「あー、うっせえうっせえ、ギン、とっとと行こうぜ」

「あれ、タッきゅんどうしたんスか、顔赤いッスよ。

はっはーん!もしや照れてるッスかー?」


顔を逸らしていると、シトリィが身を屈めてまで顔を覗き込んでくる。ウザい。


「……任された。全員の無事、必ず約束しよう。剣鬼、アッシュ グレイの名に懸けて」

「おー、かっちょいいッスねー!じゃあウチがその名前に傷付けるためにあえて傷付くッスね!

タッきゅんに傷モノにされるッス!」

「「おいやめろ」」


アッシュと声が被る。二人して顔を見回す。

渋い顔だ。きっと俺も同じような顔をしているんだろう。


「こっ恥ずかしい真似してんじゃねぇよ、キザ野郎」

「俺も恥ずかしいことを言ったなと後悔している。ただ……」


恥ずかしげに目を逸らし、祠へと目を向けるアッシュ。真っ直ぐに祠を見据えている。


「いい仲間を持っているな」

「……うるせぇよ、馬鹿だけど、嫌いじゃない友人だわ、あんな奴ら。ただ馬鹿なのがたまに傷だけどな」

「タッきゅーん!キズー!あるいはキスー!」


折角いい雰囲気だったのに、台無しだわ、この万年発情犬。


「おとさまー、もういいー?」


ギンがまだかまだかといった様子で祠の前でソワソワしている。

どうやらこの二人には男の情緒やロマンといったものがわからんらしい。残念だ。


「はいはい、悪うござんした。お待たせしました、もう行けますよ」

「はーい」


間延びした返事をしたギン。その直後、祠へと歩み寄る。

祠にぶつかる、その間際、ギンの姿が描き消える。

残ったのは水面に波紋が広がるかのように、まるで時空の歪みだ。


「……なんだありゃ。空間転移ってやつかね」


祠へと向かったギンの姿が跡形もなく消えた。


「はやくー」


と思ったら、またしても波紋が広がり、そこからギンの頭だけがひょっこり姿を現す。宙に浮く頭。

さながらホラーのようだ。


「これも魔法なのだろうが、つくづく魔法というものは人智を越えてくるな……。いつまで経っても慣れん」


はぁ、と嘆息を洩らすアッシュ。

なんとなく苦労がわかるな。


「わー、なんスかなんスか、おもしろー!ウチも行くッスー!」


楽しげに祠へと駆け寄るシトリィ。

祠にぶつかる間際、吸い込まれるかのようにシトリィの姿が掻き消える。


「肝が据わってんなぁ、あいつ。

ぶつかるかもとか微塵も思わず走ってったぞ」

「聞いてはいたじ、見もしたが未だに疑心暗鬼だぞ。

……俺は最後でいい」


そういいながら首を動かし、先に行けと促すアッシュ。びびってんな、こいつ。


「男は度胸、女は愛嬌、男は度胸」


覚悟を決めて、目を瞑りながら祠へと歩み寄る。

ぶつかる衝撃へと備えるが、衝撃はいつまでも来ない。

目をゆっくりと開けると、眩しいほどの陽光が目を覆う。

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