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実は・・・な裏話

「クリア、おめでとー!わーぱちぱちぱちぃっ!」

「「「おめでとー!」」」


「ふぁっ!?なんだ、敵襲か!?」


突如けたたましく鳴り響くファンファーレと複数の拍手喝采に思わず飛び上がる。

前を見ればいつかの荘厳な白い空間で、不釣合いな生意気なクソガキがわざとらしく拍手をしていた。


「なんだ、またお前か・・・」


「なんだとは失礼だね、タツミ君。人が折角お祝いしてあげたのに」


「勝手に祝っておいて恩着せがましくしてやったとか言うんじゃねぇ。

善意なら黙ってやれ、してやったとか言うんじゃねぇ」


「わかった。黙ってやるよ!」


(なんだ、随分聞き分けいいじゃねぇか・・・)とにわかに喜ぶのも束の間。


クソガキはパッと花を咲かせたような大輪の笑みで答えると、パクパクと口を動かしている。しかし、その口から音が発せられることはない。


(何をやってるんだこいつは・・・)


うんざりしつつも口をしきりに動かす少年をじっと注視する。


オ・メ・デ・ト・ウ・・・・・・おめでとう。

祝いの言葉だった。


「ハァ・・・黙ってやれっつうのはそういう意味じゃないんだが・・・」


「おや、こういうことじゃないのないのかい?」


「ちげぇよ。っつうか、お前一人か?さっき複数の声と拍手が聞こえたと思ったんだが・・・」


「んー・・・返答に困るね。此処に居るのは僕と君だけじゃないよ。

あくまで君に見えるのは僕一人だけ、ということさ」


「なにそれ怖い。お化けなの?生と死の狭間だけあってお化けなの?

そう思ったらここってすごく寒く感じるんだけど、そういうことなの?」


なんだか背筋がゾクゾクしてきたんだが・・・。背後霊とかいねぇよな?なぁ?


「お化けってわけでもないよ。あくまで君にだけ見えないようにしているだけで、確かに存在はしているしね」


「俺にだけ見えないってなんなの。俺だけハブられてるの?いじめなの?」


「別に悪意があってしているわけじゃないよ。むしろ僕としては気になるのはそこなのかい?」

クソガキはニヤニヤとまたしても意地の悪い笑顔だ。


「そこ・・・?何のことだ?」

そこ、とはどこを、どれを指しているのか、意味がわからん。


「いやぁ、君にだけ見えない、それはどうしてなのか、どうやってなのか、とか色々気にならないのかい?」


「それはどんな理由で、どんな技術で・・・という意味か?」


「そういうこと」


「いや、もちろん気にはなるが、どうせ魔法っつうファンタジーものか、あるいは科学的に、とか言われてもそんな技術面は俺は知らん。

聞いてもわからんだろうし、聞く気もない。理由に関しては聞きたいが」


死んだと思ったら不可思議な場所にいたり、先ほどまでは西洋人が流暢な日本語を話して、俺と意思疎通が図れていたり、寝て起きたと思ったらまたしても不可思議な場所にいたりと不思議は尽きないが、どう考えても現実離れしすぎていて考えるのを止めた。たまには思考放棄だっていいじゃない。


「順応が早いと喜ぶべきか、つまらないと嘆くべきか、僕としては悩むところだねぇ。でも、理由に関してはそうだね・・・うん、嫌がらせ、いじめだね。

僕らは君が見えるのに、君には僕しか見えない。

ファンタジーってすごいね!」


クソガキはアハハと快活に笑いながら言う。


(おい、こいつ今嫌がらせって言ったよな?殴っていいかな?

悪意はないとか言ってたくせに悪意しかねぇよな?

よーし、なーぐりにいこうかー!)


脳内で有名な歌のワンフレーズを浮かべて足を進めようとするとも、相変わらず金縛りにあったように動けにない。

またしてもこの空間内では動きが縛られているようだ。


(なんだよ、ファンタジー、万能かよちくしょう!)


「さて、君で遊ぶのは大概にして本題に入ろうか。

一先ずクリア、おめでとう、タツミ君」


「おい、俺で遊ぶって言うな、せめて俺と遊ぶにしろ」


年下のガキに言いように弄ばれていい気がするわけでもなく俺は不満を漏らす。


「わかったよ。君と遊んであげるのはほどほどにして・・・」


クソガキはやれやれと肩を竦めながら、仕方ないなぁとぼやいている。


もしかしたらこいつとは仲良くなれるかもしれないと思っていたのは気のせいだ、確実に。

だってこいつ超むかつくわぁ・・・!


クソガキは俺が静かに、されど確実に怒りをこみ上げてきている様子を眺めながらニヤニヤと笑っている。むかつく。


「さて、今度こそ本題だ。

クリア、おめでとう」


「・・・おう、ありがとよ」


俺は不服ながらも、謝辞を述べる。


「これで君も晴れて天国行き・・・とは行かないのは薄々感じているんだろう?」


「・・・まぁな。あまりにも簡単すぎる、って気もしたしな」


「ご名答。君のゲームはこれからさ。今までのはいわばチュートリアル。

君の腕前を見たかっただけさ」


「ふぅん・・・。ご期待には応えられたのか?」


「上々さ。僕の予想なら、少なくとも二回は死ぬと思ってたんだけどなぁ」


「二回は死ぬ・・・ね。物騒なことを言ってくれる」


クソガキは前回、「リセットもリタイアもできない」と言っていた。

リセット・・・やりなおし。リタイア・・・自殺。

どちらもできないということはやり直しも死ぬこともない。

死なない体・・・不死。

おおよその見当は付いていたが、クソガキの言葉で確信する。

俺はあの世界では死ぬことはないのだ、目的を果たすまで。


(いよいよもってファンタジーだな・・・不二が不死、か)


自らの姓と不死を照らし合わせ、自嘲する。


(不死・(タツミ)・・・フジ・タツ・ミ アナグラムで不死身(フジミ) 起つ(タツ)ってか?)


嫌がらせのようなネーミングに一種の悪意を感じるものの、さすがに行き当たりばったりの推測、偶然の一致だと言い聞かせ、切り捨てる。


「そうそう。一回死んでこっちに来る、そこでそれ。君の持つ刀の出番のはずだったんだけどねぇ」


クソガキは俺の右手・いつの間にか握られている黒刀を指す。

先ほどまで持っていないどころか、この場所にすらなかったはずがいつの間にか。


(今ではズシリとした重みまで確かに・・・オー、ファンタジー・・・)


「やっぱりこれ、お前のか。つうか一回死んでから渡すって、悪趣味だな。

死ぬ前に渡してくれよ}


「いやいや、僕からの贈り物で、君のものだよ。・・・いい趣味だろう?」


クソガキは間を持って問う。

武器を死んでから渡す趣味か、あるいは刀のデザインのことを言っているのか。


「まぁ・・・悪くはない」


正直黒一色の日本刀なんて俺の好みにヒットどころかホームランなのだが、ガキの意匠となると、腹が立つので嫌味も込めて返しておいた。


「それに、女の子を助けるために一人で立ち向かうとは思っていなかったしね。

本来なら正義感だけで飛び出していった馬鹿な君が、散々四人に嬲られて死んで、

復活!

それを目の当たりにした彼らが「ば、ばけものおぉぉぉ!」と脅え竦むところを君が日本刀でバッサバッサと切り捨て、女の子を助け出す。

そして彼女に感謝されたホームレスでニートな化け物の君は彼女の元でお世話になる、という筋書きだったんだよ!」


クソガキは俺を「ばけものおぉぉぉ!」と呼ぶところだけやたらと熱演し、衝撃の事実を明かす。


「な、なんだってー!?俺は彼女と同じ屋根の下で暮らしイチャイチャ生活を送るだってー!?」


俺があの美貌の少女と仲睦まじくあんなことやこんなことまで致すというのか・・・!?


「いや、そこまでは言ってない」


「・・・チッ、使えねぇクソガキだ」



「・・・君が今まで僕を心中でクソガキ呼ばわりしてたのは薄々察していたけど、とうとう口に出したね。しかも舌打ちまで。温厚の僕でもさすがに・・・」


「気のせいだ。いいから話を進めようぜ、お坊ちゃん」


俺は渾身の真顔を作り、少年を正面から見つめる。


「・・・わかったよ」


俺に根負けした少年は再び話を再開しようとする。チョロいな、クソガキ。


クソガキはしばらくジト目で俺を睨んでいるが、俺はそ知らぬふり。

いいから話をすすめろ。


「まぁ・・・最後のところはあまり変わらないと思うよ。

結果として君は彼女を助けたし、感謝もされているはずだしね」


「ふぅん・・・・」


「なんだい、さっきまでとは一転して、あまり興味なさげじゃないか」


「いやだってよ、あの娘とイチャラブできねぇんだろ?だったら・・・なぁ」


「ハァ・・・なんだい、そんなことか・・・」


そんなこととはなんだ、可愛い女の子、大事だぞ。活力だ。


「言ったろ?これはゲームであり、人生だ。

そんなのは君の努力次第でどうとでもなるよ」


「なん・・・だと・・・?」


「あの世界の住人たちは、NPC、ノンプレイヤーキャラじゃない。

彼女たちも君とは違うにしろ、立派なプレイヤーキャラだ。

自立している。

もちろん、僕も製作に携わり彼女たちを作りはしたけど、そこまで。

彼女たちが最終的にどうなるのかは僕の与り知るところではないよ」


「俺と彼女たちとの関係はお前の設定じゃないのか・・・?」


「ある程度は設定したけども、あくまで初期的な関係までだ。

彼女らが君をどう思うのか、どう思っていくのかは君次第。

君はペットを飼ったことはあるかい?」


クソガキは突然謎の質問に移行する。


「ペット・・・?いや、ないが・・・」


「そうかい。じゃあより伝わりにくくなるかもしれないけど、念のため。

ペットを躾けても、君の理想通りのペットになるわけではないだろう?

物を作ったとしても、完璧な理想どおりとは行かないもんだろう?

そういうものだよ、ままならないものさ・・・」


少年はまたもやヤレヤレと肩を竦めている。


・・・うん、さっきの説明いるか?

要はお前の理想とは違うということか・・・?わからん。


「とりあえず、あの世界は僕が作ったんだけどね。

剣と魔法溢れるファンタジー、男のロマンだよね・・・」


「お、おう・・・」


少年のよくわからぬ温度に気圧されながらも曖昧に頷く。


「ああいう世界に生まれたなら、色々知りたかったよね・・・。

たとえば、魔力、MPがあるとするならばそれは如何なエネルギーなのか・・・。

たとえば攻撃力、STRがあるとするならばどこの筋力にまで影響あるのかとか、数値1と2の違いで何のモンスターが殺せて、何が殺せなくなるのか・・・。

スライムの個体差はどう見分けるのか、火の魔法はいったい何℃なのか、水の魔法の水の出現量は何の数値で変動するのか、臍で湯を沸かせるのか・・・」


クソガキは空ろな目をしながら虚空を見つめてぶつくさと文句を並べている。

その姿にかなり引いているものの、聞けば聞くほど興味が引かれる・・・!


「なるほど・・・!それはおもしろいな・・・!

じゃああれか、風の魔法は風速がどれほどあるとか、風速を早めるにはどうすればいいとか、雷の魔法は雷の性質を伴って高いところに落ちるのどうかどかか・・・?!」


俺が思いついたことを次々言うと、死んだ魚のような目をしていたクソガキの目は徐々に光を取り戻し、最後には爛々と輝かせ、食い入るように聞いている。


「そうそうそう!そういうことだよ!こういうファンタジーを紐解きたいと思ってたし、実際作り変えてたんだよ?!言語だって本来なら独自の言語を用いていたんだけどね!?

だけど・・・GM、ゲームマスターがね・・・圧力をかけてきてだめだってさ・・・」


「なん・・・だと・・・?!さっきの、男のロマンは聞かせたのか!?」


「もちろんさ・・・。だけど「女の私にはわからないので却下☆」とにこやかに返して来るんだよ・・・・」


「なんたる愚考!なんたる暴挙!男のロマンがわからないとは・・・!」


「ひどいよね・・・。火の魔法の温度なんて「すごいあつい」だよ?子供じゃないんだから・・・」


「それは・・・」

センスやらなんやらと色々ひどすぎる・・・。

目に見えて肩を落とす少年に同情を覚える。


「だからね、僕はあの世界での魔法はあまり好きじゃないんだ・・・。

「デス」という魔法はあるんだけど、効果は「相手は死ぬ」だからね・・・」


・・・おい、テキスト、働け。

エ○ーナル・○ォース・ブ○ザード!相手は死ぬ!


「それは同情するわ・・・。折角色々考えたのにな・・・」

俺はなぜか動けるようになった体を動かし、少年の肩をポンポンと叩く。


「・・・ありがとうっ!だから、君には戦士職として頑張ってもらいたい!

刀を振るい、存分に戦ってくれたまえ!

不死身の戦士!かっこいいじゃないか!」


「不死身の・・・戦士・・・!」

なんともいえぬ響き・・・!

ださいはずなのに、熱に浮かされた今では一周回ってかっこよく聞こえる・・・!

その場のノリって怖い・・・!


「まぁ、不死身でも痛みはあるんだけどね?ナイフとか刺されてどうだった?痛かった?ねぇ?今どんな気持ち?」


クソガキは俺の顔をちょろちょろと覗き込んでくる。うぜぇ。


「・・・くっそ痛かったわ、ボケ!」


「生きてたかよかったじゃないか」


命あってのものだね、ってか、ルーズすぎるわ!


「よし!じゃあ・・・そうだね。

タツミ君、君は「言霊(コトダマ)」って信じているかい?」


「言葉には力があるってやつか?」


「そうだね。言葉には力が宿るとか力があるってやつさ」


「まぁ・・・うん、あるんじゃねぇか?」


「ありがとう」と言われて嬉しく思う気持ち。

こういった人の感情に変化をもたらすもの。

そういうのを昔の人間は言葉の力としたのではないかと俺は思う。


「よし!わかった!僕はあの世界の魔法は気に入らないから、僕なりでいこう!

タツミ君!よく聞いてくれ!」


「・・・おう」


「『君は不撓不屈だ。どんな困難、どんな強敵が立ちはだかろうと君は決して怯まず、挫けない。君の心はその刃と同じく、決して折れることはない。君の目的を達するまで 』!よし!」


「・・・なんだ?」

少年の言葉を聞き終えると、体に何かが染み渡るように、熱くなるのを感じた。


「言霊だよ。さっきの言葉は君に行き渡った。

魔法をろくでもないものにされたせめてもの意趣返しとして、あの世界でも言霊はあるよ」


「まじか!」


「まじもまじ。言葉は強い力になる、忘れないでくれよ!」


「さんきゅー!」


「・・・それじゃあ、もういいかな?」


「うん・・・?何がだ?」


「君を帰していいかな?」


「どうした、お前の用が済んだなら別にいいぞ?

あ、でもだな・・・」


「なんだい?」


「もしゲームマスターに魔法のことで文句言いにいくことがあったら俺も連れてってくれ。一緒に文句言ってやるから」


「・・・ありがとう。ただ・・・」


目の前の少年が節目がちに何かを言おうとする間際、俺の意識はまたしても眠りに落ちた。


「その必要はないよ。もう伝わってるからね・・・。だから郁ちゃん、僕の脛を蹴るのをやめてくれないか!?

痛い!痛いっ!痛いってばっ!?」


男のロマンなるよくわからぬもので散々文句を言われた少女はしばらく無言で少年の脛を蹴り続けたとか、いないとか・・・。

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