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暴力か殺害か

ゴリラ男はしっかりと俺を見据え、睨みつけている。

その目には怒りや憎しみ、明確な敵意が見て取れる。


相手は年上で、俺よりも一回りあるいは二回りも大きな体をしており、普段の俺ならば気圧されそうな怒気を帯びている。

しかし、今となってはそれさえも俺にとっての興奮材料(スパイス)にしかすぎない。


(いいなぁ、その目。怒りや憎しみ、って奴か?お前らみたいなクズでも仲間をやられて怒るのか?それともお楽しみを中断されてお怒りなのか?

何でもいい。もっと怒れよ、もっと俺を憎めよ。俺を楽しませてくれよ・・・!)


ゴリラ男は身構えているものの、なかなか動き出さない。

何が起こりこいつの仲間(鼠男と仙人)が倒れ伏しているのか、あるいは俺を警戒しているのか。

これはきっと、前者だ。

何せこいつ(ゴリラ男)の俺を見る目には怒りしかない。俺に対する敵意しかない。こいつは俺がやったと確信している。

(なのに、なぜお前は動かない・・?)


幕は既に下ろされている。

ならばすでに楽しむのみ。

(まだか・・・?まだ、動かねぇのか・・・?チッ・・・)


俺は内心で舌打ちをし、目の前のゴリラ男を挑発する言葉を考える。


「なぁ、俺もその女とヤらせてくれんだろ?

でもさぁ、俺、あんたらの後は嫌なんだよ。だから俺を先にヤらせてくれよ。仮にもし・・・嫌だってんなら、その女、貰うぜ?」


俺は手を広げ茶化しながら、緩やかに近づく。


こいつ(ゴリラ男)はずっと女にご執心で、ヤることしか頭になかった。

それを突然見ず知らずの俺に邪魔をされ、挙句には女を奪うとさえほざいている。

(許せないよなぁ?むかつくよなぁ?だったら立ち上がれよ、俺を殴ってみせろ。お前の力を見せ付けてみろよ・・・!それが男ってもんだろ・・・?なぁ・・・!)


「ぐぅっ・・・!」

ゴリラ男は俺の挑発に一歩仰け反り、怯んだのかと思いガッカリした。

(ここで女を差し出すなら、それはそれでいい・・・。女に害意がないのならば、俺も手はださんよ。・・・興醒めだがな)


しかし、ゴリラ男は踏みとどまったのか、すぐさま「ウオオオオオオ!」と雄たけびを上げ、前傾姿勢のまま突進してくる。


(・・・そうだよなぁっ!男なら抗うよな!女のために戦うべきだ!そうだ、そうこなくっちゃなぁっ・・・!)


俺の見る目は間違っていなかったと声を大にして言いたかったが、後回しにした。

今はただただ強敵(ボス)との戦いを楽しもう。


さぁ、ならばいかに反撃に転じようかと足を止め、思案するために手で口元を覆う。

すると、自らの口元が裂けんばかりに広がっているのを自覚した。

どうやら無意識のうちに笑っていたようだ。


「・・・クハッ!」


そのことを自覚し、さらに笑いがこみ上げた。


「楽しんでね」またしても誰かの言葉が蘇る。

・・・あぁ!最高だっ!最高に楽しいともっ!



「この世界は単なる僕とある人との趣味でね、多分君も気に入ってくれると思うよ」

名も知らぬ、得体の知れない子供の顔と言葉が浮かんだ。

どこで会ったのかも思い出せないが、顔を浮かべてイラッとした。

しかし、今ばかりは感謝している。


・・・あぁ、気に入ったよっ!クソガキッ!最高だッ!

俺の力を存分に振るえる!知恵をふんだんに振り絞れる・・・最高じゃないかッ!

俺はこの世界を気に入った・・・!考えよう、戦おう。この世界で・・・!


表情を引き締め、正面を見据える。

ゴリラ男は自らの巨躯を屈めながら俺に走って向かってくる。

ドタドタと豪快に走ってはいるものの、軽快さとは程遠い。

どうやら上半身の筋肉を支えるには、下半身が頼りないようだ。

(上半身だけ鍛えて下半身は貧弱・・・なるほどな)



俺はひたすらに待つ。

ゴリラ男が俺にタックルをかます、その瞬間まで。

速さはないが、その上半身の重量だけでも十分の恐怖と足りえただろう。だけど、あくまでそれだけでしかない。

上半身の筋肉を支える下半身がなければ、避けるのは容易かった。


俺はゴリラ男にぶつかる間際、ひょいと左に避ける。軸足の右足だけを残して。


想像通り、ゴリラ男は俺の右足につまづき、前にころびそうになる。

その背中のわき腹辺りに肘うちを叩き込む。

「ぐうっ?!」足をかけられ、しまいには背中に肘うちをもらったゴリラは苦悶の声を上げて地べたに這い蹲る。

体勢を立て直せないままのゴリラに、俺は力を溜めた渾身の蹴りをまたしてもわき腹に放つ。


「オエェッ!」ゴリラ男は口から血や胃液などを放ち、苦しそうに喘いでいる。

どうやら俺の蹴りは俺の思った以上の威力だったようで、ゴリラの苦しさも想像以上だった。

(あぁ・・・戦いは楽しいなぁっ!)


俺は上半身だけを起こして、地面に向かってえづいているゴリラ男に更に蹴りを放つ。

ゴリラ男は今度は息だけを吐き出し、地面を数回転がり、天を仰いでいる。

俺はゴリラ男を追いかけて、ふと奴の顔が目に入った。


(おいおい・・・やめろよ、そんな顔するの。そんな脅えるなよ、俺が悪者みたいじゃないか。

そんな辛そうな顔するなよ。・・・もっと、|歪ませたくなるじゃないか《・・・・・・・・・・・・》)


俺はゴリラ男を見下ろしながらその顔の横に立ち、とどめを刺さんとばかりに・・・


「だめぇっ!」


ふと女の声が背後から聞こえ、首だけを振り向かせると、ふと背中の辺りにドスンっと軽い衝撃を受けた。


「ぐっ!?」

俺は振り上げていた足をもつれさせて、地面に倒れる。


(熱い・・・なんだこれ、背中が、熱い熱い・・・!)


体が熱く、背中が激しく痛む。

俺は首だけを動かし、先ほどまで自分が立っていた場所を見上げると、男が居た。

血に塗れたナイフを持って、俺を見下ろす冴えない男。


(あぁ・・・そういやこいつ、ナイフ持ってんだったっけか。武器持ちをノーマークとか馬鹿じゃねぇの、俺・・・)


「ったく、どいつもこいつ使えねぇなぁ!なんのためにお前ら集めたと思ってんだよ!これだから冒険者こぼれは使えねぇんだよ!」


冴えない男は辺りに唾を吐き、わめき散らしている。

(・・・アツメタ?ボウケンシャコボレ・・・?)


俺は傷のせいで火照り、まわらない頭で断片的に冴えない男の言葉を拾い集める。

(アツメタ・・・集めた・・・?ゴリラ男じゃなくて、お前が首謀者なのかよ・・・)


「俺様のあとでいいからクレアたんを抱かせてくれるならば、なんて条件で協力させてやったってのに、てんで使えねぇクズばっかだ!

まぁ当然、俺様のクレアたんをてめぇらみたいなクズにヤらせるわけなんてねぇんだけどな!ギャハハハ!」


(クレアタン・・・クレアタン?女の名前か?お前、彼女のストーカーかよ・・・)


「いやぁ・・・いやぁっ・・・!」

クレアタンと呼ばれた女性は男から逃げるように這いずり回っているが、そこは行き止まりでそれ以上は進めない。

冴えない男は彼女をじわじわと嬲るように追い詰めている。


「ンハァ~・・・ようやっと二人きりだよぉ、クレアたぁ~ん・・・。ずっと、ずっと待ってたんだから。

ようやっと君とひとつになれるんだ・・・もう誰にも邪魔はさせないよぉ・・・」


冴えない男のハァハァという息遣いと気持ち悪い言葉だけが静寂の中に聞こえる。

こちらからは男の表情は伺えないが、さぞ気持ち悪い顔してるんだろうなぁ・・・と察しはつく。


(あぁ、あちぃし、痛ぇなぁ・・・。そんな顔でこっち見んなよ、俺だって動けねぇんだからさぁ・・・)


女は相変わらず縋るような視線で俺を見つめている。

(俺だってこいつらの味方ではないにしろ、あんた()を犯そうって言ってたんだぞ・・・?

本意ではないにしろ、こいつらと同じようなゲスな発言をした俺に頼ろうってのもどうかと思うが・・・。

それに、助けて、助けてばかり言ってないで、自分でも少しは抗ってみたらどうってもんだろ・・・。根性見せろよ・・・)


ジリジリと灼けるような痛みに意識を手放しそうになるものの、何とか堪えて女を睨みつける。

俺の思いが伝わったのか、女は脅えてばかりだった表情に少し変化があるのがわかった。

立ち止まって、キッと冴えない男を睨みつけ始めた。


「だ、誰があなたなんかとっ!死んでもいやっ!」


女は冴えない男が差し伸ばしていた手に飛びつくなり、噛み付いた。


「いてぇっ!?こんの・・・クソアマァッ!人が下手もでてりゃあ調子乗りやがってっ!」


冴えない男は呻き、女を殴り飛ばす。


「きゃあっ」


女は短い悲鳴を上げ、床に寝転がる。


(やりゃあできんじゃねぇか・・・。じゃあ俺も頑張らないとなぁ・・・)


自分のせいで女が殴られたと少し罪悪感を感じたものの、次はもうない。


次こそは必ず止めると自らに言い聞かせ、痛む体に鞭を打つ。


(あぁ、くそっ、刺し傷ってこんな痛かったのかよ・・・)


なんとか立ち上がろうとするが、力が入らない。


(なんか、支えになりそうなもの・・・なんかねぇか・・・?急げ、急げよ・・・)


前を見つめると女は気絶したのか、目を瞑っている。


冴えない男はこれ幸いと女の髪を掴み上げ、首筋にレローっと長い舌を這わせている。


今からでもことをおっぱじめんばかりだったが、


「あぁもう、クレアたんが反抗なんかするからつい殴っちゃったじゃないか・・・。クレアたんが悪いんだからね・・・?

こうなったら、僕のおうちに連れ帰ってじっくりゆっくり調教したげるよぉ・・・。

大丈夫、僕のお家なら二人っきりで、誰の邪魔もなくじっくり楽しめるんだからぁ・・・」


男はクレアタンと呼ぶ女の首筋を舐めながら、彼女を肩に担ぎ上げる。


(クソッ・・・クソッ・・・!なんか、何かねぇのかよ・・・!)


焦りながら周りを見回すと、ふと壁に黒く長い棒を立てかけてあるのを見つける。


(長さは・・・90cmぐらいか?ちょうどいいっ!)


よろよろと近づき、掴み取る。


暗くてあまり見えないが、単なる木の棒だと思っていたが、実際に触るともっと堅く、重たいものだった。


(なんだこれ・・・。なんか出っ張りみたいなの見えるし・・・鍔、か?)


触ってみると微妙にしなりというか、湾曲しているのもわかる。更には棒の下の部分にはざらついた布の感触もある。


(鍔に、柄・・・もしかしたら・・・)


ざらつく布とは反対側の端を少し持ち上げてみると、案の定棒の部分が浮く。


(これは・・・鞘で・・・ハハッ!)


浮いて見えた部分から黒光りした金属が見え、更には薄い刃紋が見える。


(・・・黒い、模造刀?いや、本物か・・・?)


刀は模造刀にしては重く、あまりにも美しすぎた。

刀の造形などには興味がないものの、黒い刀身など聞いたこともない。

それでも、この日本刀は一級品だと思える、それほどに惹きつけられる美しさがあった。


(明らか西洋風に黒い日本刀・・・あまりにもチグハグで現実離れ。ファンタジーここに極まれり・・・ってか。

いいねぇっ、中二心をくすぐられる・・・っ!)


日本刀に興奮しながらも鞘を離すと、「カチンッ」と静かな音が鳴る。


鞘が鯉口とぶつかり、鞘鳴りが聞こえた。

その音が、よりこれ(この日本刀)が本物だと知らしめているようだった。


明らか現実離れした物体が、更にこの世界を「ゲーム」だと実感させる。

しかし、人を殴った感触も、鼻に付く濃厚な血の香りも、灼けるような痛みさえもすべて本物。

「人生のようなゲームなのか」あるいは「ゲームのような人生」なのか。

名も知らぬ少年の「人生ゲーム」という言葉が妙にしっくりときた。


この黒刃を冴えない敵に突き刺せば男は死ぬのだろうか。

切り捨てればどのような悲鳴を上げるのだろうか。

どんな断末魔を上げて、どんな命乞いをするのだろうか。


考えれば考えるほど残忍なことばかりが浮かび、胸糞悪くなって、やめた。


(とりあえず・・・)


女を担ぎ上げた冴えない男に鞘に収まった日本刀を杖がわりにして、無言で近づく。


女に夢中で俺に気づかない男の背後で、日本刀を鞘から抜き出す。


「おい」


女の重みで歩みの遅かった男にすぐに近づき、声を掛ける。


「あぁっ?」


興奮状態の男は苛立たしげな声を上げて、此方を見やる。


その瞬間に鼻っ面めがけて全力で鞘での突きをお見舞いする。


グシャリと何かがひしゃげるような感触。


直接殴った感触だけのみならず、武器越しで攻撃する感触さえも、十分リアルだった。


「ぴぎゃああああああああああああああああああああああああああ!?」


男は五月蝿いほどの悲鳴をあげ、女を手放して地面に座り込む。


「うるせぇぞ。とっとと女を置いて消えろ。じゃねぇと・・・次はこっちな?」


泣き喚く男の鼻っ面に今度は黒刀の切っ先を突きつける。

振り下ろした際に男の手を浅く切りつけて、剣筋が走ったのを確かに見た。


(あぁ、やっぱこれモノホンなのな・・・)


本物の日本刀という現代では容易に見ることのできない物に軽い感動と、かなりの衝撃で軽く引いた。いや、実際はかなり引いた。


(殴る蹴ることに抵抗はなかったけど・・・こいつが俺を刺したみたいに俺もこいつ(日本刀)で刺せるのかねぇ・・・。

こんなのどう考えても致命傷だろうよ・・・)


今までのは暴力、あくまで痛めつけるため。

これからこいつ(日本刀)を振るえばきっと、お互いただでは済まない。殺し合いになる。


(さすがにそこまでぶっ飛んではないと願いたいなぁ・・・)


ゲーム開始するなり、女を犯そうとする集団に出くわしそのまま殺し合い。

そんな血みどろの世界で生活ってのはさすがに勘弁願いたいといった気持ちだった。


日本刀を振るってみたいという好奇心と振るって殺し合いは勘弁という良心。

相反する気持ちを抱えながら、複雑な心境だったが、やはり冴えない男にはこのまま消えてほしいものだった。


冴えない男はすっかりガタガタと震えて俺を見上げている。

(なんだ、腰が抜けて動けないのか・・・?チッ)

男に戦う意思がないのを確かめてから、日本刀を逆手で持ち、男の股間を目掛けて突き刺す・・・寸前で止める。


「無様に這ってでも消えろ。じゃねぇとこいつをてめぇの大事な場所にぶっ刺すぞ?」


「ひ、ひいぃっ・・・ま、待ってくれ!腰が、腰が抜けて動けねぇんだよ・・・!」


ふと異臭を感じ、男の股間を見ると濡れていた。

(失禁か・・・。くせぇし、うぜぇ・・・)

より不快感だけが強まる。

このままでは本当に刺してしまいそうな自分がいることがわかった。



「知るか。這ってでも消えろっつっただろ。十秒数えるうちに消えろ。じゃねぇとムスコだけじゃなくてめぇも殺すぞ?

ほら、いーち、にぃー、さーん・・・」

苛立ちを隠す気もなく、凄みを利かせた声で精一杯の脅しをかける。


ゆっくりと三秒数えるうちに男はまたしても「ひぃっ」と脅えながら這いつくばって逃げていく。

なんとも無様だった。


「ふぅ・・・」


冴えない男から不意打ちで刺されたように、またしても不意打ちを食らわぬように辺りを見回し敵を確認する。


見れば鼠男、仙人、ゴリラ男たちは未だに痛みに「うぅ・・・」と呻いている。

今すぐに立ち向かってくる様子はないので、そこまで警戒する必要はないだろうと判断し、黒刀を鞘に収める。

またしても「カチンッ」と音がし、なんともいえぬ心地よさに心が少し落ち着いた。


「女は・・・大丈夫かね?」

刀をまたしても杖代わりにし、女に近づく。

女は顔中の至る所に痣や血が見られるが、俺よりかは幾分かましといった様子だった。


「しかし・・・目に毒だわ、こりゃあ・・・」


女は地面に倒れ伏しており、荒い呼吸で体が不規則に揺れ動いている。

苦しげに眉を歪ませた顔も、少女のような顔には不釣合いな大きな胸に、剥き出しになっている白桃のような大きなお尻。


「童貞には刺激が強すぎますぜ、お嬢さん・・・。誘ってんのかよ・・・」

女には聞こえぬ程度の声でぶつくさと文句を言う。

このままでは本当に襲い掛かりかねない自分のクズっぷりにドン引きしながらあらん限りの理性を総動員して女を壁際に運ぶ。


「あー・・・いててて。ふぅ・・・」


女を壁際に寄せて、自分も壁に背中を預け座り込む。

背中の傷が少し痛むものの、たっているよりかは幾分かましになった。


無造作に転がされた女は未だにうつ伏せで少し苦しそうなので、仰向けにする。

それでも未だに眉を歪ませている。


「なんだい、お嬢さん。枕がかわると寝れねぇクチかい・・・?」

軽口を叩きながらたずねるも、女からは返答がない。


「あぁ、そうかいそうかい。お兄さんの膝枕を貸してあげよう・・・っと」

女が地面の固さに辟易してると勝手に解釈して女の脇の下に手を滑り込ませ、体を持ち上げて膝の上に頭を寝かせる。


「ちょいっと失礼・・・っと。別にお兄さんはお嬢さんのおっぱいを正面から見たかったとか触ってみたかったとかって下心があるわけじゃないんだよ?本当だよ?

だから、そんな目で見ないでくれ。そういうの、ゲスの勘繰りって言うんだぜ、知ってたかい?」


女は寝たままだが、なんとなく咎める自らの良心に聞かせるように言い訳を並べる。

決して彼女のおっぱいが見たかったとかいう下心ではない。決して。決してだ。


見るか、見ないか、と問われれば見る!と即答するが、今回はその問いに限った話ではない。

無抵抗なおっぱいがあり、たまたま目に入っただけなのだ。

先端は少し小さく、綺麗なピンクだったとかそんなのは知らない。


「ふぅ・・・」

女は膝枕のおかげか少し表情が和らいでいるように見える。

できることならば自分にしてほしいものだと思うものの、相手は意識がなく、致し方なしと判断した。

こちらはこれでよし・・・。


次に自分の横で転がっている黒い日本刀に目をやる。

刃の美しさもさるものながら、鞘、鍔、柄も全て黒一色で統一されており、中二心がさらにくすぐられた。

近くで転がっているゴリラ男達のものなのか、あるいはたまたまここにあったものなのか、判断はつかないが、

(なんとなく、これは俺のもの・・・って気がするな・・・。手放したくないっつうか、愛着が沸くっつうか・・・)

刀をしげしげと見つめながら、誰にも渡すまいと自らの懐で抱きかかえる。


(懐には刀・・・膝元には裸の女・・・ハハッ、時代劇みてぇ)

周りは明らかに西洋なのに自分だけが世界から隔離されたような気分で一人静かにごちる。

そう思うと、少しさびしいような気もしたが、膝もとの女の温度が気のせいだと教えてくれる。


ブワッと突如風が路地裏に入り込んだ。

先ほどまで体を動かしており、今となっては少し冷えたのか体がブルリと震え上がる。

「うおぉ・・・夜風が冷てぇ・・・」


体を抱きかがえながら、膝もとの女を見ると、先ほどより体を更に縮こまらせていた。


「はいはい、さむぅございますね。お嬢さん。みずぼらしいですが、今はこれで我慢してくだせぇな」


未だ全裸の女に自らの学生服の上着を被せる。

背中の部分は穴が開き、血に汚れているが、風除けには十分だろう。

小さな彼女は俺の被せた学生服に自らの体を畳み込む。


(別にプリップリのお尻が見えなくなって残念とか思ってないんだからねっ!思ってないんだからねっ!)


ツンデレを装ってみたが、やっぱり少し、いやかなりガッカリした。

せめて脚ぐらいなら・・・とじっくり見つめる。


(これぞ脚線美・・・!)



あほなことを心中で考える。

急速に熱が冷めて(俺、何言ってんだろ・・・)と自己嫌悪に陥るものの、心に余裕ができたと楽観視することにしたらなんとか心の平静が保てた。


ゴリラ男達はまだ立ち上がる様子はない。

そのことにホッと安堵すると、急に眠くなってきた。

敵は寝込んでいるものの、まだ生きているし、女も武器も手元にある。

俺が寝込みを襲われ、全てが奪われたら台無しだ。


(寝んな、寝んなよ・・・俺・・・。

あぁ・・・俺の馬鹿ん・・・寝ちゃ、らめぇ・・・)

眠い目を必死に擦りながらも抗っていたが、抵抗むなしく意識は泥沼へと沈んだ。

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