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見知らぬ路地裏で

「ん・・・・()ぅっ・・・」

悲鳴とも取れる声を上げ、俺は体を起こす。

体は寝違えたかのように重く、痛む。

どうにも体が重い・・・。


俺は決して、運動神経は良くはない、むしろ悪いほうだ。

軽快というよりは鈍重である。

それでも、今の自分はいつもよりも更に体の動きが鈍いことがわかる。

それほどまでに倦怠感が凄まじいのだ。

最悪の目覚めだな・・・。


周りの風景がもう少し違っていれば、まだ多少はましな目覚めだったかもしれない。

とにかく暗いのだ。

仄かな月光や星明かりに照らされ、先ほどまで自らが横たわっていた寝床が見える。

石造りの道路。いや、街路と言ったほうがいいのかもしれない。

その道は日本で見られるようなコンクリートではなく、石なのだ。

長方形の白い石を噛み合わせて作られた、堅牢な城壁のような道。


些細な明かりを頼りに、辺りを見やると、赤く煤けたレンガ作りの家が立ち並んでいた。

石畳の道に、レンガ造りの家。

まるで、本で見た19世紀のロンドンみたいだな・・・。

彼自身見たことはないが、本で見たような、時代錯誤な街造りだった。

しかし・・・もう少し明るくならんのか?


見たことのあるような風景なのに、そこには明確な何かが欠けていた。

それは、街灯だ。

写真で見た風景はもっと街灯が立ち並び、冷たさを帯びた石畳にも少なからず温かみを見せていた。

しかし今現在、自らの眼前の風景には街灯がなく、ただただ石畳の冷たさを漂っている。

不気味だし、治安は悪そうだ・・・。


夜目だけを頼りに真っ暗な道を進む。

前なのか、後ろなのか、もはや前後の感覚もなく、起き上がったままの正面を立ち進む。

どこに行くのか、どこに行けばいいのかもわからぬまま、足の赴くままに。


歩き始めて間もなく、道の傍から声が聞こえる。

・・・男、三人ぐらいか?

野太い男の声に、何やらくぐもった声が聞こえる。

近くの壁に手を当て沿うように歩くと、声の聞こえた辺りは曲がり角になっているらしく、路地裏に入るようだ。


薄暗い路地裏に、数人の男、堅気ではなさそうだ・・・。

ことなかれ主義の自分としては聞かなかったことにして知らぬ存じぬを押し通したいところだが、などと考えつつも知らぬ間に足が運んでいた。

どうやら暗い夜道を一人で歩くのは思いの外堪えるようで、人恋しくなっているのか。

そんな可愛いもので済めばいいがな・・・。

どうにも嫌な予感がする。


行くな、行かないほうがいい、と脳内で誰かが囁く。

しかし、不思議と引き返すという考えは浮かばなかった。

立ち止まって事が終わるまで待つか・・・?


いや、先延ばしにしても、解決にはならない・・・行くか・・・。


やがて路地裏の奥の行き止まりに喧騒の主たちが見えた。

そこにはランタンのような物が置かれ、暗闇に明かりをもたらしている。おかげでこちらからははっきりとそこの様子が伺い知れた。

襤褸切れ(ぼろきれ)のような布、あるいはマントやローブのような一枚の布を羽織った汚れた男達に・・・裸に引ん剥かれた女。

女は男の一人に組み敷かれ、口元を手で覆われている。

そのうえ首筋にはナイフのような鋭利な刃物を宛がわれ、女は涙ながらに恐怖に顔を引きつらせている。

それらを取り囲むように三人の男達。

裸の女に、組み敷く男。更には取り囲む男三人の計五人。

決して、穏やかとは言えない様相だった。

その光景を見た瞬間、脳が沸騰するようにカッと熱くなるのを感じた。


なんだ、この光景は・・・。


ふと脳裏に同じような光景が浮かぶ。

男に組み敷かれて今にも暴力を振るわれそうな女性。

いつかの光景と重なって見えた。

しかし、今は追想に耽る場合ではないとすぐさま脳内の光景を振り払う。


「・・・何を、している?」

平静を装ったつもりだったが、腹の奥から底冷えしそうな声が出る。

自分でもこんな静かな、低い声が出せるのかとすこし驚いた。


男達は不意の声に驚いたのか、一瞬肩をビクリと震わせると、すぐにこちらを振り向く。

「だ、誰だ!?」「どこにいる!?」「出て来い!」と示し合わせたように次々声を上げる男達。

慌てふためき、ランタンを持ち上げ此方に光を向ける。

こうしてみると、間抜けな三流悪役(チンピラ)のような彼らに軽い好感を覚える。

それでも、許せないけどな・・・。


自分でも苛立っていることを自覚している。ただ、それが何故なのかはあまりわかっていない。

大の男達が揃いも揃って一人の女を取り囲み嬲ろうとしている。胸糞悪い。

女とは弱いもの?違う。彼女達は決して弱くない、強かだ。それは男とは違った強さだ。決して守られるだけではない。

数人で一人を取り囲む男達の卑劣さか?違う。それだって戦術の一つだ。この場面でそれが適用されるとは限らないが・・・。


ただただ、苛立つ。

女が男に嬲られる様が。女を嬲る男が、許せなかった。


「な、なんだ・・・ガキじゃねぇか、びびらせやがって」

ランタンを持っていた男の一人が光に照らされた俺の顔を見てホッと安堵するのが見えた。

不意に照らされた明かりに俺は一瞬目を細めるものの、奴の小心そうな顔はしっかりと拝むことができた。

白くなった髪に茫々に伸びた同じ色の髭、それらはもはや一体と化し、境目がわからなかった。

汚い爺だな・・・。


「ガキがこんな時間にうろついてんじゃねぇよ、とっとと帰りな、シッシッ」

次に別の男が声を発する。

男は小さく、150cmほどだろうか。

小さいくせに、態度はでかい。

子供であれば可愛いものだと許せたのだろうが、顔は十分に老けている。

先ほどの白髭の爺が60から70程に見えるので、彼と比べるとまだ若いのだろうが、小さな体に付いている顔はどうもてもおっさんなのだ。

小さな体に40ぐらいのおっさん顔。しかも顔立ちがなんとなく鼠っぽい。

仙人に・・・鼠男。


「ヒヒッ、まぁ待てって。せっかくだし、なんだったら見てくか、小僧?使いたければ、最後ぐらい使わせてやっていいぜ?」

「な、おいっ!」小心そうな仙人が声を上げるが、

「まぁ、いいじゃねぇか。放っておいて警邏を呼ばれるよりかましだろ?それに・・・見られながらなんて興奮するじゃねぇか」

「変態ゴリラが・・・」ボソっと呟いた鼠男。


俺を誘った男は・・・確かにゴリラっぽい。

角刈りの頭に、長く伸びたもみ上げ。

この男は髭はあまりないものの、もみ上げが顎まで伸び、もみ上げが髭のようになっている。

精力の強そうなゴリラだ・・・。

ゴリラはクイクイと親指で女を指している。

使う・・・ようはそういうこと(・・・・・・)なのだろう。

女はまだ若い。長く伸びた眩い金髪、白桃色の薄い唇に惜しげもなく晒された大きな乳房。

少女と女の境目の年齢で、幼げと色気を両立した女、いや少女だった。

場所が場所ならばきっと興奮しただろう、しかし今は薄暗い路地裏に、少女は怯えきっている。

今は情欲よりも、怒りが先立っていた。

ゴリラに指された女は涙を溜めた目で怯えながら俺を見ている。


やめろ、そんな目で見るな・・・。俺はこんな汚い男達とは違う・・・。


「いてぇっ!?」

沈黙は少女を組み敷いていた男・・・単なる冴えない男の悲鳴で打ち破られた。

見れば、男の手からは血が滴っていた。


「お願い・・・助けてっ!」

少女が男の手を噛みついて、必死の形相で叫ぶ。

「てんめっ・・・何しやがる!?」

男が手を振り上げ、鈍い音が響く。

殴った・・・。

男が、女に手を上げた。

それは・・・決定打だ。

殴られた少女は「うぅ・・・」と苦しげな呻きを上げる。見れば口の端が切れたのか、血が見える。

踏み越えてはならない一線、それを奴らは越えた、そんな気がした。


「あーあーあー、何してんだよ、お前は。綺麗な顔を傷つけたら駄目じゃねぇか」


ゴリラ男が少女の元に近寄り、屈んで顎を掴む。

「まぁ・・・でも、これも化粧と思えば・・・」


お前は性欲の権化か、ゴリラ。お前には何でもスパイスになるんじゃねぇのと軽い尊敬すら覚えた。


「ヒッ」と少女の怯えきった悲鳴が聞こえた。

あぁ、もう駄目だ、我慢ならん・・・。


()は四人。

爺に小男・ゴリラに地味男。

爺は骨だらけに小男はチビ、ゴリラは屈強だが、筋肉ダルマ。地味男は俺と変わらない。

脅威は・・・一人だけ。ボスは・・・ゴリラか。

徐々に胸の鼓動が早くなる。


これから俺は人を・・・殴る。蹴る。人に手を上げる。

人を殴ったこと、あったかな・・・?ない、だろうな。

慣れないことへの緊張だろうか・・・?

いや・・・違う。


これは・・・高揚しているのか?

ドクンドクンと早まる鼓動を自覚し理由を考えるが、もはやなんでもよかった。


「さぁ、準備はいいかい?-戦闘開始だ」

誰かの声が聞こえた気がした。

知り合いには文が暗いと言われました。oh...

文さえも暗いのか・・・。

次は苦手な先頭描写になりそうですが、頑張ろう・・・。


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