とある伝承、あるいは伝説
「で、結局その『ギフト』とやらは何なんだ、一体……」
未だ刺さるような視線を背に受け、苦笑いを浮かべたままリードに問う。
「あ、あぁ……」
リードも同じように苦笑いを浮かべ、互いに苦労するな、といった意思疎通を交わす。まったくだ。
「そうだな……。タツミは『ダンジョン』と呼ばれる迷宮は知ってるか?」
『迷宮』。
「確か、踏破したものは富を、力を、この世の全てを得る、なんて奴だったか?」
クレアに聞いた話だとこんなだったろうか。
幾層にも及ぶ階層を乗り切り、最奥に在る財宝を得たものには、全てが与えられる、なんて胡散臭い、眉唾の伝説だと聞いたが……。
「そう、それだ。『迷宮』の奥には宝があるというのは、知ってるか?」
「ああ……。まさか……」
「そう、お前の予想通りだ。『迷宮』の奥にある財宝、それが『ギフト』だ。『賜り物』なんて呼ぶ奴もいる」
「『賜り物』ねぇ……」
一体誰から賜ったものなのやら。
「だが、そうだな……。とある賢者は、こうも言った。
『其の力は人智を超えた超常の力なり。其の力を手にした者は何れ破滅を齎す。其の力は禁忌なり。祝福に非ず。其の力は負の遺産。魔王の残滓なり、とな」
「破滅をもたらす、とはこれまた大仰なこった……」
眉唾の伝説がより一層胡散臭くなったものだ。しかし……
「魔王の残滓……」
「『迷宮』は突如現れる。そして内部に必ず魔物を生み出す。まるでそうあるかのように。そして『迷宮』《ダンジョン》の最奥には必ず扉があり、それを守護するかのように番人となる強力な魔物もな。その扉は決して開かない、番人を倒すまでは。番人を倒した時にだけその扉は開き、その中に鎮座するもの、それが……」
「『贈り物』ってわけか」
「そうだ。しかし、とある昔、突如として現れた最初の『迷宮』に当時名の馳せた冒険者達数人がパーティを組み、潜り込んだ。
彼等は用心を重ね、奥に進んでいった。しかし、何れも武勇に長け、知恵を誇る猛者たちだ。そこいらの魔物達に遅れなど取る事もなく、襲いくる道中の魔物共を返り討ちにし、全十階層にも及ぶ『迷宮』を誰一人欠けることなく、その奥へと到達した。だがしかし……」
リードは古くからの伝説を語る。さながら子供に聞かせる御伽噺のように。だが、その口調は突如一変し、次にはおどろおどろしいものを語るように……。
「彼等は最奥で正真正銘の『怪物』に遭遇した。
ソレは人の形をしていた。だが、ソレを見た賢者は瞬時に悟った。ソレは人ではない、人の形をしたナニカだと。ソレは強かった。ソレを見た戦士は本能で感じた。ソレは人では敵うことのできない、怪物だと。
そして全員が一致し、逃げることを決めたとき、扉の前に座していたソレが尋ねた。何処へ行くのだ、とな。
全員は驚き、目を剥いたそうだ。なんせ、人の言葉を語ったのだからな。
当時の魔物が発する声など鳴き声でしかなく、意思疎通などできるとは思われていなかったのだから。なのにソレは人の言葉を語った。その上に意味を理解していた。言葉は通じていた、しかし対話には至らなかった」
この話はおそらく時代の革新だ。
高い知性を持つ、『怪物』の……。
しかし、対話には至らなかった……?
「……なんでだ?」
「さぁな。冒険者達が何かを語ることもなく、全員がソレに脅え、一同に逃げ出した。歴戦の冒険者達だったにも関わらず、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。それほどまでにソレが異常な雰囲気だったそうだ。それ以上にソレと相対していたくなかったと、そう聞いた。しかし、ソレはその行いを許さなかった。真っ先に足の速かった盗賊を目にも止まらぬ速さで追い抜き、手刀で上下に分断した。脅え、矢を射ようとした狩人より早くに盗賊のナイフを投擲し、狩人の頭を貫いた。仲間を守ろうと立ちはだかった戦士は、掴みあった拳は握り潰され、足は砕かれた。魔法を詠唱していた賢者は、敵わないと察するや逃げようとしたが、それも敵わず……」
リードはその凄惨さを語る。当時は獣と変わらず、一方的に屠られるだけだった魔物。しかし、ソレは当時の魔物の概念を覆した。
上位であったはずの人間は、見下していた魔物に逆襲を受けたのだ。
「それで、そのパーティはどうなった……?」
「それもわからん。全滅したとも言われているし、一人、賢者だけは生き延びたとも言われている。まぁ、でなければ誰が語っているんだということにもなるからな。それでも、賢者はソレに囚われたとも、殺されたとも諸説あるが」
「そうか……」
高い知性と人間への敵対心……いや、ソレに敵対意識などなかったのかもしれない。聞いていれば、ソレには道徳心というものが感じられない。
さもムシケラを殺すかのように残虐に人を屠った。
なぜ殺したのか、それさえも不透明なまま。
「しかし、本当に人々が恐怖するのはこれからだった。これはいわば、人類における恐怖の時代の黎明期」
「な……」
「『迷宮』内で冒険者達が全滅したあと、ソレは考えた。
冒険者達は何者で、何処から来たのか、と。そしてソレは外、『迷宮』の外の世界に興味を示し、本来の役目であろうはずの『贈り物』を守ることを放棄し、僅かに残った『迷宮』内の魔物を伴い、外へと出た。そしてソレは回った。そのあと続々として産まれた『迷宮』を。そしてソレは連れ出した。『迷宮』にいる魔物を……番人を。そしてソレは徒党を組んだ。群れと呼ぶには統率のとられた集団……軍を。
その軍は人類に蜂起した。宣戦布告することなく、それが当然であるかのように人間に敵対した。魔物たちは言った。同胞の恨みだと」
人間と魔物とは膂力が違う。個の強さでは魔物の方が圧倒的に秀でるのだと、クレアからそう聞いた。
例外であるゴブリンなどは魔物の中で最弱に値する種族だと。
しかし、ゴブリンには人間を遥かに勝る繁殖力がある。奴らは数で蹂躙する。
そんな奴らが統率された動きで人類に叛旗を翻した。
その出来事は当時の人間達にどれほどの恐怖だったろうか……。
「そしてソレは『迷宮』の外に、生態系の変化をももたらした。
ドラゴン、ヴァンパイア、デュラハン……伝説や空想上でしかなかった怪物達が出没し始めた。まるで架空や幻想が入り混じったような、悪夢のような現実。
人々はそんな怪物や魔物にいつ襲われるかわからぬ日々に脅え、いつかこの暗黒期が明けることを願い、信じ、その時代をこう呼んだ。『夜』、と」
「『夜』……」
「そしてソレが率いていた軍勢を『夜の軍勢』と呼んだ」
「時代を『夜』、軍を『夜の軍勢』か……」
「そうだ。そして、その軍勢を率いていたソレを人々はこう名づけた。
魔を率いる王、夜をもたらしたモノ……魔王『夜を導くもの』、とな」
主人公が仮面の人(騎士じゃない)の二期アニメにどはまりし、原作のゲームを買えばこれまた好みにドツボ。
三部作目の二作目らしく、その上二作目の製作発表だけでも五年ほど前には既にされていたとのこと。
……三作目はどれだけ待てばいいの!?という行き場のない衝動。
終わってしまった、茫然自失となりそうな衝動を込めて、走れ私の衝動っ!
……やりきりました




