切な願い
何時ぞやに貴方は私に問いましたね。
「人は争いをやめることができると思うか」と。
私はその時、驚き、からかわれているのかと思ったんです。
だって、初めてだったから。
そんなことを利かれたことはおろか、考えたことすらありませんでしたから。
でも、そう問うたあなたの表情も、まなざしも真剣そのもので。
あなたの問いに、私なりに真剣に考えてみようと思ったんです。
『魔王』と呼ばれた存在と人との争いの爪痕は多く残り、『魔王』を生み出すとされる迷宮さえも顕在していて、人は未だに魔物を忌み、魔物は未だに人を襲います。
私たちと彼らが争う事がなくなると思えませんでした。
でも、今なら言えるんです。
例え、誰しもが夢物語と一笑に伏すとしても、私は貴方に嘘をつきたくありません。
真剣な目を向けてくれた貴方のその問いを、冗談だと笑いたくありません。
だから、ずっと考えてました。
そして、今なら言えます。
「人は争うことをやめることができるか」「はい。できます、してみせます」と。
貴方に、笑っていてほしいから。
自らを化物と吹聴する貴方が、種族も外聞も気にすることなく人間であろうと、例え、そうでなかろうと、笑っていてほしいから。
貴方がいつでも、どこでも笑っていられる。そんな世界になってほしいから。
だから、私は願うんです。
誰しもが笑ってすごせる、平和な世界を。
どうか世界が、あなたが笑ってすごせる、幸せな世界でありますように。
どうか、あなたが幸せでありますように。
それが私、シンクレア・スカーレットのたったひとつの願いです。




