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自問

 それはさながら、一枚の美しい絵画のようだった。

 美麗の女騎士が悪を討ち滅ぼさんと、刃を突きつける。

 そんな光景。

 美的感覚のない俺ですら、美しさに息を呑んだ。

 しかし、そんな美しい光景に目を奪われることさえままならない。

 なんせ・・・刃を突きつけられた悪、とは他ならぬ俺なのだから。


「あー・・・女帝殿?女帝さん?これは一体・・・?」

 状況整理もままならぬまま、女騎士・・・『女帝』に尋ねる。

「私をその名で呼ぶんじゃないよ。女将と呼びな」

 毅然とした態度で刃を突きつけてくるが、どうやらそのままズブリとはいかないようだ。

 俺の態度次第では無傷で活路を見出すこともできるのかもしれない。

「あー、女将さんや?これは一体どういうことなのでしょう?」

「気安く呼ぶんじゃないよ」

 怒気を孕んだ声で、喉仏の辺りにチクリとした痛みが走る。

 どうやら切っ先が食い込んだようだ。


 前言撤回。ダメだ、この人、とんだ暴君だ・・・!


「随分余裕じゃあないか、化け物(・・・)

 化け物・・・か。

「・・・どういう意味だ?」

「どうもこうもないだろう?それともこう呼べばいいのかい?ヴァンパイア」


 ヴァンパイア。吸血鬼。

 剣と魔法のファンタジー世界だ、それらが居ても今更不思議と思わないが、彼女は俺をそれと勘違いしているのか?


「待ってくれ、女将さん、俺はヴァンパイアじゃ・・・」

「クレアから聞いているよ。背中の刺し傷、それに頭の傷はどうした?

 人並みはずれた回復力・・・私はそれがあんたら、ヴァンパイアの特徴と知ってるよ。

 クサい芝居はよしな、今更私に何のようだい?復讐かい?

 上等じゃないか。私だってただではくたばらないよ、そんときゃああんたも道連れだ。

 何遍だって殺してやる、何度も何度も殺して、殺しぬいてやる」


 俺は彼女の瞳を見て確信する。

 彼女は俺を人間ではないと見抜き、その上で殺すと言っているのだ。

 何度も、何度も、何度でも・・・。

 平穏な日本で生き、無縁だと思っていたが、そうか、これが『殺意』というものか・・・。

 縁のなかった自分でもわかる、わかってしまう程の『殺意』

 それは『女帝』が本物である、確かな証。

 クレアが言っていた、会えばわかるという『女帝』が『女帝』たる由縁。

 俺はそれに僅かに触れた気がした。


 クレアと瓜二つでありながら、彼女にはなかったもの、それは力強い意思、自信の顕れ。

 自らを絶対と信じ、貫き通す揺ぎ無い信念。

 その彼女が言っているのだ、殺す、と。

 彼女ならばやるだろう、何度でも、何度でも、何度でも・・・俺を、殺すだろう。

 初めて彼女と対面し、敵わないと思った根源がきっと、この自信なのだろう。


 俺は・・・彼女に勝てない、敵わない・・・。


「・・・待ってくれ、話を聞いてくれ。

 確かに、俺は人間じゃないのかもしれない、でもヴァンパイアでもないんだ。

 貴女に敵対する意思もなければ、もちろんクレアにも害意はない」

「ほぉ、おもしろいことを言うじゃないか。人間でもヴァンパイアでもないんだって?

 じゃああんたは何なのさ?」

「俺は・・・いや、やっぱり人間だ・・・」

「背中を刺されても、すぐに治るのにかい?頭をカチ割られても生きてる奴がかい?

 信じられるわけがないだろう。

 それならヴァンパイアですって言われたほうが信じられるね。

 奴らは、ずぶとく生きる、銀で止めを刺さなければね。

 あんたはどうなんだい?

 銀の剣で貫かれても生きるのかい?」

「それは・・・多分、死なないと思う」

「これはたまげた。ヴァンパイア以上の化け物じゃないかい。それでもあんたは自分を人間だと言い張るのかい?」


 俺は・・・人間だ。

 不二 巽という一人の人間。

 日本で十数年間、確かに人間として生きてきた。

 だが、その人格を持って、この世界に来た・・・不死の力と共に。

 不二 巽という人格を持った不死の生き物。

 それは果てして本当に人間と呼べるのか?

 俺は、一体・・・


「俺は・・・」

 何者なんだ?



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