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帰郷

 酒場を離れ、今度こそ街を歩く。

 先程の酒場はどちらかといえば『夜哭街』に近い場末の酒場で、近隣は暗く荒廃し、どこか空気も淀んでいたが、街の方はやはり明るく陽気。

 歩いているだけで気分も明るくなり鼻歌を歌いたくなる。思えば陽の下で道を歩くのも随分久しく感じる。気分も弾む。


「よ‐う」


 思えば久しぶりにここの門戸を開いた。

 前回来たときは酷く落ち込んだものだが、今となってはその傷も癒えた。皆は元気だろうか。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいウチが悪かったっスごめんなさいごめんなさいごめんなさい帰ってきてお願いだから帰ってきてごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「おとさまおとさまおとさまおとさまおとさまおとさま」


 真っ先に目についたのは、椅子に座り口の端から涎を垂らしながら謝り続ける赤毛の獣人の娘と部屋の隅でブツブツと呟き続ける白銀色の髪の毛の愛娘の姿だった。


「いや、なにごと」


 変わり果てた二人の娘の姿に驚きを禁じ得ない。


「旦那、おかえりなさい」


 立ち呆ける俺の横に、いつものように落ち着いた様子のロ‐シが並ぶ。


「ただいまって言いたいんだけど、大丈夫か、あの二人」

「おかえりなさいませ、タツミ様」


 別の場所からは席から立ち上がり、頭を下げようとするハクの姿もあった。


「いいっていいって、座ってな。ただいま、ハク、は元気か。おかげで女性だけに罹る奇病って線はなくなったな」


 となるとシトリィとギンのあの様子は一体何だろうか。


「旦那、おかえりなさい」

「お‐お‐、ただいま、ゴリ。一人一人挨拶してくれんのありがてえけど、何人かいねえな?」

「お嬢は買い出しに。アルフとリ‐ド、ラットは護衛と荷物持ちに同行してます」


 相変わらずロ‐シの報告は簡潔で助かる。クレアの顔を見れなかったのは残念だが、アルフ達が同行してるのならば彼らを待っていればクレアの顔も見れるだろう。


「なるほどな‐、で、シトリィとギンのあれは?」

「旦那が飛び出して行ってからしばらくしてあの様子で、旦那が一度帰ってきたときに当てつけに馬鹿なことをしたと自責の念に駆られてあんな状態に」

「あれまあ、日常生活は支障ないのかね」

「ハク嬢が介護して食事睡眠等はなんとか」

「いや、目の見えないハクに何させとん」

「タツミニウムが……タツミニウムが足りないっス……」


 シトリィが天を仰ぎながらボソボソと呟いてる。こええよ。

 あとタツミニウムってなんだ、アルミニウムかなんかか。


「足りないっス……タツミニウムが……タッきゅん成分が足りない……」

「なあ、シトリィが怖いんだけど」

「そのうち慣れますよ」

「いや、慣れんなよ、お前らも怖いわ。タツミニウムってなんなんだよ」

「旦那からしか取れない特殊な成分らしいですよ。いずれ私たちもタツミニウム不足になるかもしれませんね」


 ハハハとロ‐シが快活に笑う。お前の場合本気か冗談かわかりずらいんだよなあ。あと俺はそんな特殊な成分は出してません。


「まあいいや、お‐い、シトリィ、帰ってこ‐い、俺は帰ってきたぞ‐」


 呆けるシトリィの前に屈みこみ、手を振る。改めて見ると目の焦点はあっておらず、心ここにあらずといった様子、酷く憔悴している。もしや本当にタツミニウムが不足しているのか。本当にやばいのはタツミニウムなる未知の成分を分泌している俺なのか。

 そんなわけないな。


「タッきゅんが……またタッきゅんの幻が見えるっス……イマジナリ‐タッきゅんっスか……?」

「ねえ、また俺の知らない単語出てきたんだけど」

「シトリィ嬢が産み出した空想上の旦那らしいですよ」


 もう本当に、ロ‐シおじいちゃんはなんでも知ってるな。何聞いても知ってんじゃん。


「私はなんでも知ってるわけでもありませんよ」


 知りすぎて心まで読んできたよ、もう怖いよ。


「旦那はわかりやすいですからね、なんとなく先が読めるんですよ」


 暗にお前は単純だから読みやすいぞと言われてる気がして少し癪に障るが、実際読み合いともなればロ‐シに勝てる気が微塵もない。

 ここは大人しく引き下がろう、いつかギャフンと言わせてやる。


「タッきゅん……タッきゅんはどこっスか……」


 うつろな目でうわごとのように俺を呼ぶシトリィがあまりにいたたまれない。


「はいは‐い、シトリィちゃん、タツミさんですよ‐」


 シトリィの顔を覗き込む。いつもは炎のように朱を帯びた瞳が死んだ魚の目のように黒く濁り、淀んでいる。


「タッきゅん……?イマジナリ‐タッきゅんっスか……?」


 なんで本物より先に想像を疑うんだよ。


「はい、イマジナリ‐タツミですよ」


 ノっかってみた。


 俺の言葉に反応し、シトリィの目の焦点が定まり俺の顔を真っすぐに視界に捉えた。


「タッきゅん……?本物っスか?」


 何回聞くんだよ。


「はい、イマジナリ‐タツミです」


 こう名乗ると売れない芸人みたいだな。


「その言い方、本物っス‐!」

「おっと」


 イマジナリ‐だって言ったじゃん、実はもはやどっちでもいいだろ、こいつ。


 何度目かの応答を繰り返し、シトリィはようやっと正気に戻り、俺の頭へとしがみついてくる。

 こういう時はハグするもんじゃないのかと思いつつも、頭部でシトリィの温もりや柔らかさを感じるのも悪くはない。ただ飛びつかれた衝撃で首がもげるかと思ったが。


「うぉううぉう、タッきゅんっス‐!久しぶりのタツミニウムっス‐!」


 シトリィは俺の頭にしがみつき、泣きながら笑い、鼻水をズビズビとすすりながら俺の髪の臭いをス‐ハス‐ハと嗅ぎまくっている、鼻水が汚いなあ。


「はっはっは、お‐いシトリィ、降りろ‐。あと俺の髪の毛が鼻水でガピガピなんだが‐?」

「うるさいっスよ、タッきゅん!今ウチはタッきゅんを満喫してるので静かにするっス!」


 おかしいな、当のタッきゅん本人が早速疎かにさせているぞ?


「まあまあ、旦那。これも女性を泣かせた罰として甘んじましょう」


 俺の頭にしがみつき泣きじゃくるシトリィをロ‐シは微笑ましい表情で見守っている。

 先程までの死人のような彼女よりも、やはりこうして元気に奇天烈な行動を行う彼女の方がよっぽどらしい。ここ数日は俺がいなくてよっぽど沈んでいたようだ。そう思うと随分可愛げもあるというもの。

 多少のわがままも許してやろう。


「しゃあねえなあ、生タツミニウム、存分に堪能しとけよ、シトリィ」


 頭上のシトリィからは返事はなく、ただただ荒い鼻息が聞こえる。頭皮に当たる鼻息がくすぐったいが、我慢だ。俺は鼻水にまみれた自身の髪の毛達の尊い犠牲は忘れない。


 頭部のシトリィの重みを感じながらも立ち上がると、今度は足元に何者かが飛びついてくる衝撃を受け、もつれかかるがなんとか持ちこたえる。

 よくぞ持ちこたえたと思うものの、これもアッシュとの特訓という名のしばきに耐えた功績だろう。

 足元を見下ろすと、今度は涙と鼻水で顔面をクシャクシャにしたギンが俺を見上げていた。


「お゛どざま゛あ゛あ゛あああああっ」


 こ可憐な少女のなりして地の底から這い出た怪物みたいな声を出していた。どっからその音出したの。


「あ‐あ‐、はいはい、次はギンね。はい、おとさまですよ‐。泣かない泣かない、折角の綺麗なお顔が台無しですよ‐、ほら、鼻水チ‐ンして」


 ギンは俺のズボンに顔を埋めるとチ‐ンと鼻をかんだ。俺の一張羅が台無しだ。


「お゛どざま゛、わ゛だじ、ぎれ゛い゛?」


 鼻をかんだギンは再び顔を上げ、俺へと顔を見せる。

 まだ鼻水まみれだが、先程よりは随分ましで、壁際で死にそうな顔をしているよりかずっといい。

 久方ぶりにまともに見た愛娘の顔はとてもきれいだ。

 しかし、聞き方だけはどうにかならなかったのか。まるで口裂け女みたいな聞き方だな。


「ああ、さすが俺の自慢の愛娘。綺麗な可愛い顔してるよ」

「え゛へへ」


 ギンは微笑み、照れたのか再び俺のズボンへと顔を埋めている。

 こうしてると血のつながりがなくとも本当の娘の様に愛着も湧いてくる。本当に素直で愛らしい、自慢の娘だ。


 ギンを見つめていると、今度は襟元を引っ張られ、耳の横からチ‐ンと凄い勢いで鼻をかむ音が聞こえる。首を動かせば、今度はシトリィが俺の服の襟で鼻水をかんでいた。俺の唯一にして自慢の一張羅が鼻水で台無しだ。


「えへへ、タッきゅん、ウチも綺麗っスか?」


 襟から顔を離したシトリィの鼻と俺の襟には未だ鼻水が繋がっており、橋がかかったようになっている。

 その鼻水を指で切り離し、シトリィの鼻についた鼻水もそのまま指で拭う。


「ああ、もちろん。シトリィだって綺麗さ」

「う゛う゛う゛、ダッぎゅん゛ん゛゛」


 シトリィは感極まったのか、再び目元には涙をため、おまけに鼻水も垂れ流す。せっかく綺麗にしたのに、俺の一張羅共々、折角の美人が台無しだ。

 しかし、シトリィは美人でありながらもどこかガッカリさせる要素も兼ねており、ガッカリ美人という言葉がよく似合う。今の姿だってガッカリ美人であるが、彼女の美しさは鼻水如きでは損なわれない。依然変わらず美しいままだ。むしろ鼻水を垂れ流すぐらいが可愛らしいというもの。


「旦那、少し雰囲気が変わりましたか?」

「そういわれても、何か変わったつもりも変えたつもりもないからなあ、自分ではわからん」

「それもそうですよね、少し雰囲気が軟化したというか、丸くなったと言いましょうか。余裕があるような気がしますが」


 一部始終を眺めていたロ‐シが尋ねてくる。

 何でも知っているロ-シお爺ちゃんが懐疑的な目で何かを尋ねてくるというのも珍しいものだが、先程言ったように自身にまつわることと言え、自分でもわからないのは事実だ。

 余裕があると言われても、内心では焦りもある。

 下拵えを済ませたとはいえ、こちらの準備はまだ万全ではない。

 相手が動く前にこちらの準備だけは先に済ませておきたい。そのためにも早くアルフ達にもかえってきてもらいたいのだが。


「随分賑やかだと思えば、帰ってらしたんですね、おかえりなさい、タツミさん」

「相変わらず五月蠅いねえ」


 待ち人来たれり。

 俺達がガヤガヤと騒いでるうちに、酒場の門戸が開く音と共に、女性二人の声が響く。クレアが帰ってきたのだ。

 というか、女将さんいたのか。相変わらずカウンタ-から出てこないし、何なら気配もなかったぞ。

 しかも挨拶よりも先に文句が先とは、女将さんらしいといえば女将さんらしい。相変わらずな人である。


「よ-う、クレア、久しぶり、ただいま-、っつってもまたすぐに出てくけどな-」

「そうなんですか、折角久しぶりだというのに、残念です…。ちゃんとご飯食べてましたか?」


 俺の顔を見てクレアは嬉しそうだったのも束の間、すぐさま顔を伏せるも再度顔を上げて笑顔で問うてくる。一連の動きが忙しなく、彼女の純真さも相変わらずで嬉しくなったが、何も言わず酒場を飛び出した罪悪感が今更ながらも込みあげてくる。

 そんな俺に対して叱るでも諫めるでもでもなく、心配をしてくれる彼女は慈愛に満ちた優しい女性だ。


 クレアたんまじこの酒場の唯一の良心、まじクレアたん唯一の女神、唯一神クレアたん。まじクレアたんしか勝たん。女神クレアたんを信仰しろ、さもなくば死ね。


「心配されるのがまず飯なんだよなあ、お袋かな。大丈夫、ちゃんといいとこに泊ってたから安心してくれ」

「それならよかったです、お元気そうで安心しました」

「あんがとよ。クレアこそどうだ、ちゃんと飯食ってるか、ちょっとお胸のサイズ大きくなったんじゃないか」

「う゛っ、なんでわかるんですか…」


 まじかよ、場を賑わすためのセクハラだったのに。


「おいタツミ、俺達への挨拶より先にセクハラしてる場合か」

「今のは俺でもおかしいって思ったぞ」

「旦那ああああっ」


 クレアの後ろから有象無象の男どもが現れる。アルフとリ-ドとゴリ、そして無言で佇むラット。

 どうやら全員無事に帰ってきたらしいが、ラット以外の男共は両手に大量の袋をぶら下げるなり荷物を抱えるなりし、額に汗を滲ませている。大変そうだ。

 しかし全員がしっかりと役割を全うしているようで、長としては一安心だ。

 優秀で真面目な部下がいると上司、安心。


「おう、おかえり野郎共、お疲れ。で、まじかクレア。その胸はまだ育つのか」

「おおいっ!」

「あいつ殴っていいか?なあリ-ド、なあ?」

「旦那ああああっ」


 野郎共へと一瞥をくれ、挨拶を交わす。そんなことよりも今はクレアのお胸様のことが大事だ。

 一体どれだけ育ったのか、今現在のトップの数値はいくつなのか、アンダ-の値は。トップとアンダ-の差は。あわよくばカップ数を、唯一神クレアたんの暴力的なおっぱいの大きさをぜひこの下賤な民にお教えください。


 アルフとリ‐ドの馬鹿は何やら騒ぎ立てているし、ゴリの奴は声をあげて泣いている始末。体の大きな成人男性が泣きじゃくっている姿はなかなかに見るに堪えないな。


「私の胸の話は良いじゃないですか、ところでシトリィさんとギンちゃんは一体何を?」


 クレアは俺の全身を見回す。頭には相変わらずシトリィが乗っかっており、肩車状態。

 足元にはギンがしがみついており、だっこちゃん人形状態。


「あとなんでタツミさんの髪の毛はところどころ湿ってるんです?」


 ちなみに俺の髪の毛は涙と鼻水まみれ。おっと、クレアたん、俺の襟元の鼻水とズボンの裾の鼻水を見落としているぜ。まだまだ観察力が足りないぜ!


「知らん。なんか感極まって抱き着いてきた。ちなみにクレアも来てもいいぜ、今ならタツミのここ、開いてますよ!」


 俺は自身の胸を指差す。


「ご遠慮しておきます」


 やんわりと断られた。残念、頭、胸、足と装備を重ねたフルア-マ-タツミへとなりそびれてしまった。

 フルア-マ-タツミのお披露目はまた後日ということで。


 落胆していると、後ろからむぎゅりと温かな身体が押し付けられる。

 突然の不意打ち、大胆だな。一体誰だ。

 考えられるのはダ-クホ‐ス、女将さんだな!


「おいおい、女将さん、バックハグだなんて大胆だな!」

「何言ってんだいあんた」


 おかしい。女将さんは依然カウンタ‐の奥でいつものように冷めた俺を見ている。

 じゃあ俺の後ろに抱き着いているのは一体誰だ!男だったら俺は死ぬ!


「ええっと、どなた」


 意を決して振り向く。

 白く煌びやかな髪が目に映る、ハクだった。


「おおっと、とんだダ-クホ‐スだった!」

「ええっと、すみません、シトリィ様から私もやってタツミ様を引き止めろ、とおっしゃられまして」

「おおっと!ちゃっかりシトリィちゃんのせいにしたっスよ、この女狐!狼じゃなくて狐だったっスか、ハクちゃん!」

「え、何これ、俺今どんな状態なの、ねえ、アルフ?」

「うるせえ死ね」


 とりあえず羨ましいらしい。


 頭にはシトリィ、足元にはギン、背後にはハクを侍らせる、というか抱き着かれている状態。

 今の俺はほぼ全身に柔らかく肉感的な女体の温もりを感じている!

 頭にはシトリィの豊満なボインとむっちりした太ももを!

 足元には胸は疎かだが、柔らかくて子供特有の温かなハクの体温を!

 背後にはきっちりと着込んだ巫女装束からは視認できないが、それでも背中にはしっかりと押し付けられたおっぱいの感触を!


 俺は!


 今!


 感じている!


 なんという僥倖!


 楽園(ぱらいそ)はここにあったのだ!


「タッきゅん、ハクちゃんに誑かされちゃダメっスよ!ウチよりちょっとおっぱいおっきいからって!年増の垂れおっぱいに揺れちゃダメっスよ!」

「ちょっ、年は二つしか変わらないじゃないですか!」

「うるせェ-っス!ウチのせいにしておきながらタッきゅんを誘惑するにはどうしたらいいですかって鼻息荒く聞いてきたくせに!」

「それは言わない約束じゃないですか‐!」


 頭上の犬と背後の狐もとい狼がわんわんきゃんきゃんと姦しく騒いでいるが、今の俺はそれどころではない。


「ウチよりちょ-っとおっぱいおっきいからって!どうせクレアたんには勝てねえくせに!」

「あんな規格外のおっぱいに勝てるわけないじゃないですか‐!それを言ったらシトリィだって負けてるじゃないですか!」

「ふ‐んだ!ウチははなからあんなおっぱいおばけに勝つ気はねェっスよ!ウチはハリと形で勝負してるんス-!」

「それを言ったら私だって色の白さと柔らかさには自信があります-!」

「は‐ん!垂れてるだけじゃないっスか‐?」

「垂れてません-!」


 シトリィとハクは相も変わらずおっぱいおっぱい言い合いになっている。そのうちもみあいにでもならないか心配だ。いや、変な意味ではなく。

 しかし、シトリィがハクちゃんと呼び、ハクがシトリィと呼び捨てにするとは意外だった。

 俺のいない間にも二人は親密に、仲良くなったらしい。


「規格外のおっぱい……おっぱいおばけ……」


 仲良く言い合う二人の傍で巻き添えを食らってダメ-ジを受けている娘が一人いるのが心配だ、その辺で勘弁してやれよ。俺は好きだけどなあ、クレアのロケットおっぱい。


「うるっさいねぇ!こっの発情ケモノ娘共があっ!」


 静観してた女将さんから怒号が飛ぶ。言い合う二人の声量を遥かに上回る声だ。

 そういや二人からするとクレアと並ぶ女将さんのおっぱいはどう表現されるんだろうな。


「いだっ」「いたっ」「いてえ!」


 ゴン、ゴン、ゴンと鈍い音が三つ連なる。カウンタ‐から出てきた女将さんがフライパンを片手に俺達の頭を殴りつけたのだ。なんで俺まで。


「鼻の下伸ばして呑気にしてんじゃないよ!とっとと黙らせな!」

「え、俺のせい?」

「殴られたりないかい?」

「すみませんでした!」


 女将さんからの理不尽な怒りを受けていると、ああ、帰ってきたんだなという実感がこみ上げてくる。

 勘弁してくれ、変な性癖に目覚めたらどうしてくれるんだ。

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