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変わってしまった願い

 フラウに連れられ、再び一階へと戻る。

 一階ではいつの間に現れたのか、剣鬼隊の面々がバタバタと駆けずり回り、現場の検証や清掃、遺体の回収等を忙しなく行っており、壁際のゴルド‐とル‐ジュの遺体を囲うように娘達が集まっている。

 その間、ホ‐ルの中心にはアッシュ、アインやいつもの隊服へと着替えたツヴァイなどの幹部連中が固まって話し合いをしていた。


「よう」


 動き回ってる現場の邪魔をしないよう、指揮を執っているアッシュへと声を掛ける。


「すまん、起こしたか」


 すっかり寝てることを咎められるかと思えば、予想外の優しい言葉を向けられた。


「なんだよ、てっきり咎められるかと思ったぜ」

「此度の功労者に、何もできなかった俺達が責める資格などないさ。作戦や指揮の甘さ、情報不足など詰めが甘かった。苦労をかけたな」


 珍しくしおらしく、殊勝な心がけで素直に詫びを入れられる。

 いつものようにこいつの髪の毛のようにチクチクと針を刺されるかと思いきや、毒気を抜かれた気分だ。

 いつもこれぐらいなればこちらとしても無駄に反抗する気は起きないのだが。


「いや、いい。こっちは何とかなったし、そっちも大変だったんじゃないか」

「ビル、いや、ル‐ジュというのだったな。彼女の情報にはまんまと踊らされた。屋敷の見取り図も巧妙に真実と虚構が入り混じり、現場も錯綜した。挙句屋敷には閉じ込められ、やっとの思いで出てきたと思えばチンピラやらゴロツキやらに足止めを食らい、到着が遅れた」

「なるほどな。ル‐ジュの話しも聞いたのか」

「ああ。ツヴァイからおおよそはな」

「お兄さんがゴルド‐を殺したんですか?強かったです?」


 傍らで話を聞いていたアインが無邪気に口を出す。この男はツヴァイ同様、初対面の時に人の首筋に剣を突き付けてくる無礼な奴だ。そんなこともあってか苦手だ。

 ツヴァイはもう許しているが、アインの奴がダストのゴミ野郎を隊へ招いたって話も聞いて更にこの男が苦手になっている。それどころか正直、嫌いだ。

 そしてアインの質問と共に、動き回っている隊員たちのチラチラと様子を伺う視線も感じる。

 隊員の全員と面識があるわけでもないし、今日の俺は動きなれない剣鬼隊の制服よりも着慣れた酒場の制服である燕尾服を着ている。

 見慣れぬ小僧が自分たちの上司と親し気に話しているのを見ると、何者なのかと疑うのも当たり前だろう。


「……ああ。強かったよ。今の俺じゃあ到底勝てなかった。今回は譲ってもらったよ」

「へえ、いいなあいいなあ、僕もやりたかったなあ」

「俺でよければ相手をしようか?」

「いやあ、いいです。だってお兄さん、ゴルド‐に勝ちを譲ってもらったんでしょう?弱い人に興味ないし」


 こいつ、ムカつくわあ……。

 俺達の話を盗み聞いた隊員たちは俺に興味を失ったかのように視線を戻す者や、運のよかっただけの俺を妬むような視線もある。やはり俺の事を快く思ってはいないらしい。


「アイン、こちらはいいから向こうの手伝いをしてこい」

「え‐」


 見かねたツヴァイが口を出すが、アインは子供のようにしぶる。


「アイン、任せたぞ」

「は‐い」


 アッシュが言うや否や、フラフラと他の隊員たちのところへと向かっていった。


「すまないな、タツミ」

「あいつはいつまで経っても隊長の言うことしか聞かない、まるで子供だ……」


 アッシュとツヴァイが辟易とした様子でボヤく。どうやら二人とも相当アインに手を焼いてるらしい。あの様子ならば無理もないとも思うが。


「ところでだ、タツミ」


 アッシュの奴が近づき、他の隊員たちから俺への視線を遮るように立ちふさがると共に、声のボリュ‐ムを抑える。


「ゴルド‐が無手であるのは周知、また配下と呼べるような者もいなかったことが判明した。だが、この場にあるダストや数人の遺体は剣で切られ、また首の切断面の切れ味などから相当な使い手のものだとわかっている」

「ああ、悪い。俺だ」

「やはりか。何故だ?」

「何故っつっても、まあ仲間割れだよ。あいつら、お前らを売ってゴルド‐に寝返るって目論見だったし」


 実際はお嬢をって話だが、おおまかには隊の全員を裏切ることに間違いはない。


「話し合いは……無駄だろうな。あいつらの性格上」

「よくわかってんじゃん」

「仮にも部下だ。なんとなくの察しはつく。だが、他の部下への示しがつかん、おとがめなしとはいかんだろうな」

「世話になったな」

「おい、まだ判断を下してはないだろう」

「いっそ除隊ぐらいにしといてくれ。やっぱり俺はどっかに所属っつうのは性に合わん。好き勝手やる方がいい」

「本気なのか?」


 それはアッシュではなく、ツヴァイの問い。

 疑いよりも悲哀の色が濃い。短い間とはいえ、濃密な時間だった。共にいる時間はとても良いものだった。手放したくないほどに。


「悪い」

「タツミ、多くは問わん。何故だ」


 アッシュの声が低くなり、視線は鋭く。凄味が増した。茶化すことなく、本当の事を、思ったままを伝えろと明確な意思表示。


「本当に世話になった。恩を仇で返すようで悪いんだが、ゴルド‐の奴と約束した。奴にとっての宝、後ろの娘達を任された。そして約束だけでなく、俺自身がそうしたいと思った。

 あの娘達は自分の身を顧みずに、仲間を守ろうとする優しい娘達だ。ゴルド‐という武力がなくなった今、女のみでとてもこの街でやっていけると思えん。だが、どこかに所属する身では彼女らを守れない。自由な身で、武力がいる。故に『剣鬼隊』のタツミではなく、『夜行』としてのフジ タツミでなければならない」


「なるほどな、奴との約束、遺言と言ったところか。そしてお前自身もそう望むか。

 ちなみに彼女らはこのままならばこの屋敷を放逐される。帰るべきなどあろうとなかろうと関係なしにだ。

 行く充てのある娘はまだいいかもしれん、だが充てのない娘はどうなるか考えるまでもないだろうな。

『夜哭街』で後ろ盾もない若い娘など体を売るか、食い物にされるかどちらかだ。

 無責任だが、本来我々はこちら側への干渉を禁止されている。今回はゴルド‐という男が危険すぎた、特異過ぎた」


 シトリィと出会った夜を思い出していた。

 彼女は怒りに吠えていた。『夜哭街』を見捨てた、と。今ならうっすらとその意味が分かる。

 街の中に『夜哭街』という街がある。街の一部であって、そうでない、歪な場所。

 行ってしまえばここはスラム街だ。そこにあるのに、ないかのように扱われる見捨てられた場所。


「ゴルド‐という男は確かに危険だった、人を殺めすぎた。

 ある時は貴族の私兵を、辺境の農民を。だが、剣を交え、俺には奴がそんな危険な男には思えなかった。

 奴の拳は重く、振りぬかれた拳は日々研鑽し、努力を重ねた信念ある拳だと思えた。

 他の隊員には到底聞かせられんが、危険どころか俺は好感を覚えたよ。同類を見つけたと、喜びに震えたよ」


 アッシュもまた俺と同じだったようだ。


「だが、俺は組織に属する身として、ちっぽけだ。俺の一存ではゴルド‐を討てと言われればそうするしかない。例えそれが正しかろうが、誤っていようが」


 この男もまた、迷っている。

 ゴルド‐という男が悪だったのか、正義だったのか、今となっては知る由もない。


「喋りすぎたな。今となっては奴がどうだったなどとどうでもいい。

 これからの事を話すべきだった、失言は忘れてくれ」


 よく言う。


「言った通り、本来ならば俺達は『夜哭街』の事には基本関わらない、関われない。

 庇護者もないまま、彼女らをお前は面倒を見る気か?」

「ああ」

「ゴルド‐は略奪者の汚名を着せられた。お前は更にその男から全てを奪った簒奪者と呼べれる覚悟はあるか」

「ああ」

「ならば止めん。お前を除隊する」

「あんがとよ。そういや正式に入隊もしてなかったな」

「お前は何もかもが早急すぎる。ふらりとクレア殿の元に現れたかと思えばあっちへこっちへと。一つ処に留まれんのか」

「耳が痛えなあ」

「……クレア殿はどうするつもりだ」

「どうもこうもねえよ、クレアにゃあ女将さんがいるし、何も縁を切ろうってわけじゃねえ、向こうから拒まれない限り面見せには行くさ」

「……だな。どうにもお前はフラフラと、いつかどこか消えそうで心配になる」

「ガキじゃあるまいし、行き先をわざわざ報告する必要ねえだろ、お前は俺のかあちゃんか」

「せめて父か兄だろう」

「アッシュにいたま(はあと)」

「殺すぞ」


「……ははっ」「くくっ」


 お互い、いつものように憎まれ口を叩きながら、どちらともなく笑う。

 そうだ。俺達はこれでいい。きっとこれでいい。

 上司や部下や師匠や弟子などではなく、こんな関係でいいのだ。


「それでお嬢はどうする?」


 ある時から悲痛な顔をしたと思えば、俺に顔を見せないようにずっと顔を伏せっているツヴァイへと問う。

 本音を言うとついてきてほしい。

 お嬢の武力は頼もしいし、短時間とはいえ娘らと接触し、クリアにはえらく懐かれていた。心根の優しく、家族に強いあこがれを持つお嬢ならば彼女らときっとうまくやれる。

 それに俺との橋渡しも担ってもらいたい。

 理由をいくつも脳内で浮かべる。しかし、いずれもはっきりとしっくりとこない。口に出ない。

 考えて考えて、単純に俺自身が彼女と共に、彼女にいて欲しいだけだと気づき、ストンと腑に落ちた。


「私は……」


 一緒に行く。


「すまない」


 そう言って欲しかった。


「そか」


 俺はうまく笑えているだろうか。


「まあ、そうだよな。お嬢は元々所属してんだし。今回はたまたま作戦で部隊が一緒になっただけだし」


 仕方がない。理由を並べて自分を納得させた。


「……すまない」


 どうかそんな顔をしないで欲しい。

 出会った頃のように、誰が貴様なんぞと一緒に行くかと一笑に伏して欲しい。


「いいのか、ツヴァイ。お前自身、あの娘達に思うところがあるだろう。正直お前に抜けられると痛いが、何よりも自主性を重んじるつもりだ。タツミと共に娘達を守っても」

「いいんです、隊長。隊に所属したままでも、あの娘達の手助けはできますから」


 アッシュの言葉を遮るように、鋭く冷たい声で制する。

 その姿が『冷泉の令嬢』と謳われるような彼女らしくもまた、アッシュを慕う彼女らしくない姿でもあった。


「そうか。ならば引き続き今後の事を話そう」

「……だな。フラウ達の面倒見るつもりだが、彼女らに拒まれちゃ元も子もねえから一回フラウを交えて話をしていいか?」

「もとよりそのつもりだ」

「お‐い、フラウさんや‐、ちょいちょい」


 場の空気をかえるため、凹みそうになる自分に檄を飛ばすかのように声を張り上げる。

 声に気づいたフラウはスッとこちらへと歩み寄り、俺、アッシュ、ツヴァイの会話の中に混ざりこむ。


「どうかしたのかい」

「いやあ、改めて今後の話をしようとね」

「今後って言われてもねえ」

「まあ俺自身今後どうするってわけでもないし、正直気になるのはゴルド‐とル‐ジュの遺体がどうなるかってぐらいか」

「こんなこと言えた義理じゃないのはわかってるつもりだけど、あまり雑な扱いはしないでくれると嬉しいね。私らには恩人の二人だからさ」

「話を聞いてわかってはいるつもりだが、難しいところだな。世間では大罪人であるからな」

「前に頼んだように、秘密裏に遺体の処理って頼んでいいか」


 俺が裏路地でブロンを殺した後、アッシュは秘密裏に処理をすると言い遺体を引き取ってくれた。

 その後ブロンの遺体がどうなったかはわからないが、少なくともブロンの遺体や身元不明の遺体が見つかったなどいう話は聞いていない。うまく処理をしてくれたらしい。


「遺体だけならばどうこうする手筈はいつでもできるが、肝心なのはゴルド‐自身の安否をどうするかだな」


 ゴルド‐の遺体として処理するか、身元不明で処理するかということだろうか。


「あ‐、俺としては遺体さえ丁重に扱ってくれりゃあそれはどちらでもいいんだがな。

 だが、できることならゴルド‐は未だ生存してる体でいてくれる方が助かる」

「何故だ。ゴルド‐を討ったとなれば冒険者として名が上がるぞ」

「そりゃあそうかもしれねえけどよ、無名のガキがゴルド‐を討って、その財産やらを総取りしたとなりゃあ次に狙われるのはその無名のガキだろ。まぐれだとかゴルド‐より御しやすいだろとか舐められるのが目に見えてるしな」

「それは確かに、ありえるな」

「ゴルド‐を討つより先にある程度実績を積んで名を上げて、ゴルド‐より箔をつけときたいんだよな」

「なるほど。だがゴルド‐より名を上げるとなると相当骨が折れるぞ」

「超えようとは思いはしねえけどよ、せめてそこらのチンピラに舐められねえぐらいにはしときてえんだわ」


 ゴルド‐がアッシュの襲撃を受けたとしるや否や突っ込んでくるチンピラなどもいるぐらいだ。

 どれほど名を上げた猛者にでも自分ならもしかしら勝てるかもしれないなどと思いあがる奴は絶対にいなくなりはしないだろうが、少しでも挑むだけ無謀だと思わせるような箔は欲しい。


「死んだゴルド‐の威を借りるつもりか」

「ゴルド‐がいてこそ守られた奴らがいるなら、せめてもう少しでもゴルド‐の名前を借りてでも守りたいわけよ」

「長くは持たんぞ。ここにいる部下は信用できるし、緘口令を敷いてもいい。だが必ずゴルド‐の死は公になる」

「わかってるよ、これは悪あがきにしか過ぎない。だけど今少しでも『夜哭街』に秩序があるとすればゴルド‐の威光あってのもんだ。まだそれを失うわけにはいかない」

「……わかった。ゴルド‐はまだ生きている。そのようにしよう」

「いいのかよ、今回の作戦だってお上の命令なんだろ? 討ち漏らしたとなりゃあお前の落ち度だとか信用に関わるんじゃねえのか」

「もちろん信用できる上司には真実を伝えるが、それ以外の奴らにはどうとでも言わせておくさ」

「ありがとよ」

「貴様にはいくつでも貸してやる。いつかでかい借りを返してもらうさ」


 なんだかんだでアッシュには世話になりっぱなしだ。いつか返す借りの大きさに怯えるばかりだ。


「ゴルド‐の遺体はこちらで引き取ろう。財はタツミ、お前が引継ぎいずれ簒奪者と名を明かせ。あまりすぐに派手に使うなよ。出所を疑われる」

「わあってるよ。それにゴルド‐の金を俺個人で使おうとは思っちゃいねえ。あれはゴルド‐がフラウ達のために貯めた金だ」


 ゴルド‐の財産の話しで思い出した。

 ゴルド‐自身に未だ付けられている指輪と、ル‐ジュに贈られた『贈り物』(ギフト)の事だ。


「それとアッシュ、ゴルド‐についてる飾りはもらってってもいいか?」

「構わんぞ」

「あんがとよ。それとル‐ジュの指輪だけは遺体と一緒に送ってやってくれ」


 ル‐ジュの指輪という言葉にフラウがわずかに反応した。

 ゴルド‐に反してル‐ジュに装飾品の類は一切なかったが、今やル‐ジュの左手の薬指にはゴルド‐が送った指輪がある。詳しくは聞かなかったが、これが『贈り物』(ギフト)らしい。

 おそらくゴルド‐が『鉄塊』たりえる由縁の品だろう。


「一向に構わんが、それ以外のは全て持っていくつもりだろう? むしろ何故それだけは残すのだ」

「そらゴルド‐がル‐ジュに送った特別な品だからだろ。それに、あ‐……」


 あれが一代で財をなせるような宝であり、特別な力を与えてくれる宝だと。

 アッシュやツヴァイに伝えるか否か。


 フラウはあれがどういう品かわかっているようで、落ち着かない様子で俺やル‐ジュを見比べている。


「ありゃあどうも『贈り物』(ギフト)らしい」

「ちょっ!」


 うっかり口を滑らすと、フラウが更に狼狽える。


「何?」

「ル‐ジュの指輪が?」

「ああ。俺が触った時に違和感みたいなのを感じてよ、ゴルド‐がそれは『贈り物』(ギフト)だとさ」

「ボスはそこまで言ってたのかい。でも何も今言わなくてもいいじゃないかい……」


 フラウは頭を抑え、はあと深々と溜息をつく。呆れているようだ。


「わり、我慢できんかった。でもまあこのメンツなら信用できるし、くすねるような奴もいねえし、なんなら正体知ってもらってしっかり結末をアッシュに見届けてもらった方がいいだろ」


 もし万が一、誰かがあの指輪を『贈り物』(ギフト)だと何かの拍子に気づき、盗まれでもされ、悪用されるよりも、アッシュに伝え、内々に処理してもらえる方が気をもまずに済むというものだ。


「なるほどな、ゴルド‐の身体の硬質化の正体はそれか」

「それにしても冒険者でもないゴルド‐が何故『贈り物』(ギフト)を?」

「ああ、それは昔、ボスが村を追われて森を彷徨い歩いてるうちに、全身が鉄で覆われたでっかい猪みたいなのに襲われたらしくね。殴っても殴っても死なないもんで、しまいには絞め殺したらしい。で、その猪の化物が死んだ後には塵みたいに消えて、残ったのがあの指輪だったって言ってたよ」


 フラウが笑いながら、懐かしむように語る。その内容はひどくでたらめで荒唐無稽な話だったが、ゴルド‐にまつわる話ならば、それが本当なのだろうと不思議な説得力に満ちていた。


「鉄の猪、か。昔、辺境の農村でそんな化物が田畑を荒らし、人が多く襲われたという報告があったな。

 いつの間にかそんな話は風化し、眉唾物の話しだと思っていたが……」

「おそらくそれが『迷宮』(ダンジョン)から飛び出したボスだった、というわけか……」

「『迷宮』から這い出てきた怪物共は戦いを繰り返すたびに知性を得て、より狡猾に強くなるという話を聞いたことがある。もしそいつが生きていれば、もっと多くの犠牲があっただろうな」

「ゴルド‐の奴、自分は悪人だなんて言ってたが、それでも確かに、ここにいる娘達の他にもきっと奴に救われた人はいたんだろうな」

「しかし、絞め殺した、か。奴の屈強な腕ならば確かにあり得るな」


 言い出したアッシュを含め、気づけば話し合いをしている四人全員が示し合わせたかのように一斉にゴルド‐の丸太のような腕を見る。


「……ふふっ」「ははっ」「ふふふ」「あははっ」


 誰からともなく笑みが零れ、気づけば笑いが溢れていた。

 ゴルド‐は悪人だったのかもしれない。だが、根っからの悪人ではなく、誰かを思いやり、救い、手を差し伸べることのできる優しさを持った男だった。


「……あははっ、あ‐おかしっ、聞いた当時はそんな馬鹿なと口を開けて驚いたもんだけど、今改めて自分の口から話してもバカげた話だねえ。だけど、あのボスならあり得ると思えるんだから、すごい人だったよ、うちのボスは」

「……だな、凄かったよ、あいつ」

「あんたらの前で言うことじゃあないのかもしれないけど、正直私は何が正しいとか間違ってるだとか、悪だとか正義だとか難しいことを考えず、ただただボスと、あの人と一緒にあの娘らと過ごせればそれで幸せだったんだけどねえ……」


 フラウがしみじみと呟く。フラウの事は隠し事や腹芸が得意そうな女だと思ったが、これだけは偽りない本心だと思えた。


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