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その書類は出してはいけない!

 カイさんが翌日の昼過ぎに出頭してきました。

 姐さんは朝イチって言ってたのに…


「おい、なんか用があるらしいな。」


「まずは朝一番に出頭するように申し伝えましたがお聞きになりましたか?」


 姐さんの大きな目がこの時ばかりは細く光ってます。


「あぁ?なんでおめえさんの言うことを聞かなきゃならんのだ。イチバンエライのはこの俺だぞ!」


 二日酔いなのでしょうか。イマイチ迫力がありません。


「質問にまず答えて下さい。その上で理由を言って下さい。そうでなくては明確な意思の疎通が図られません。では、質問を繰り返します。出頭要請はお聞きになりましたか。」


「…聞いた。」


「次回から定められた時間にお越し下さい。こちらも予定がございますので。

 では、本題に入ります。明日、この隣の城、グリン城に進出するためにこの町に100名残し、全軍で発動して下さい。荷駄はすでに用意してあります。

 また途中、ザンク村に寄って下さい。傭兵団に合流した後、城を囲み降伏を呼びかけて下さい。 落城後はそのまま常駐し、この封筒を開けてその中に書かれている指示し従い行動して下さい。

 以上。質問は。」


 カイさん酒臭い口を開けてまた止まっています。

 再起動するのは何時になるでしょうか。


「無いようであれば準備、発令をお願いします。

 …リューイ。昨日の指示は。」


 いきなりこちらに矛先がやって来ました。


「え〜っと。ほぼ終了しましたが、一件だけ。

 買掛が残っていた、街道整備に掛かった費用が足りないとのことです。

 途中に地中障害物が多量にあったために難航したので追加料金が欲しいと。」


「あれは既に仕様書の中に入っていて契約書にも追加は認めない旨を記載していると伝えなさい。

 …これが仕様書と契約書よ。」


 うわっ。エゲツな。裏面に小さく条件を羅列してあるよ。完全にあの業者、やられてます。


「…分かりました。」


「では、以上。明日からは従軍しなさい。」


「…ッ!!」


 言葉になりません。僕は軍人ではなくて文弱の徒です。

 行軍は辛いので辞めて欲しいのですが…


 姐さんが引出しから書類を取り出します。


 ダメだ!あの書類を手にさせてはいけない!!



「何言ってやがんだ〜〜!!」


 おっとカイさんが再起動しました。

 あの書類をしまってくれればいいのですが。


「おい、こっちが黙ってればいい気にベラベラ訳分からんことを喋りくさりやがって。

 城を落とすだと!

 こっちは昨日帰ってきたばかりだぞ!

 しかも俺達は600名しかいない。あの城はこの町と違って3000人の兵士で固められてるって話だぞ!無理に決まってんだろ!

 お前の言うことはもう聞かねえ!!」


 カイさんのこめかみがピクピクして血管はち切れそうです。


「私の言うことが聞けないと。」


 姐さんが冷静に返します。


「そうだ!!」


 姐さんがあの書類を手繰り朗読し始めます。


「カイ・シデン。皇暦203年5月3日生まれ。

 12才の時に神の生まれ変わりと勘違いして道端で説法し始める。”私は神の子です。貴方方は地獄に落ちます。私の言うことを信じて…”と良くわからない事を喋るが母親に頭を叩かる。

 そののち、蛇に噛まれても平気だと錯覚し、毒蛇に噛まれて危うく命を落としかける。

 13才。隣家にすむ女性(45才)に優しくされたことで惚れられたと錯覚し、夢精をする。

 それでも飽きたらず2階の窓を開けっ放しにしたまま”好きだー”と絶叫し、村全員にそれを目撃される。」


「そっ、それは窓を閉めたもんだと思って…」


「14才。川で水浴びをしている女性(62才)を覗こうとして川に落ちて溺れかける。」


 …カイさんっておば専なんですね。


「15才。行商人の娘(6才)に”お兄ちゃんと結婚する”と言われ本気に。少女を騙し股を見ようとするところを行商人にボコボコにされる。」


「同じく15才。仕事の手伝いをした報酬。全財産の30ゴールドを握りしめこの町の売春宿に入り、女を買うが出てきたのは醜女で閉経したとされる老婆が出てきて全額ボッタクられる。親友で現在の副将のタウによれば性別は女なのかもしれないが俺は勃たない。だが”首領のドストライクだと思う”との供述がある。」


「止めろ!!あいつ!俺を裏切りやがったな!」


カイさん冷や汗をタラタラ垂らし始めました。


「ほかにも面白そうなネタがいろいろあるが… 極めつけは…これか。」


「やる。俺はやるぞ!なんでも命令してくれ。よし、明日進軍だな了解!」


 カイさんが回れ右をして部屋から出て行きました。


「素直にやっておけばいいのに。」


 僕は思わず声を出してしまいました。


 姐さんがこちらをみて、クイッと顎を上げてこちらを睨みます。


「指示の程、了解いたしました。」


 頭を下げ、回れ右をして明日の準備するために部屋から出て行きました。


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