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6歳の俺と天才の弟1

誕生日に師を選び、癖のある二人を迎えてからあっという間に一年と一月ほどが経った。


俺の一日は日の出と共に始まる。


まず、俺が起きるのに合わせて入って来るカレンに身嗜みを整えられる。


中身は二十歳を越えているのだ。気恥ずかしいので自分でやると、何度も言ったのだが……


「朝のレン様の支度をするのは私の仕事です。いいですか?わ・た・し・の!仕事です!……それとも、それとも、レン様は私が嫌いですか?ウザイですか?それならばお屋敷を……」


妙に威圧感のある笑顔で脅迫され、その次は即座に泣き落としだ。


一応、GT(童貞)ではない、ないが……ないがだ。


女性をあしらえる程の女性経験などなく、俺は白旗を上げたのは言うまでもないだろう。


不本意だがいつものように、カレンに動きやすい格好に着替えさせてもらい、屋敷から王都まで走る。


最初は途中までは走り、後は歩くようだったが……回数をこなす事で、途中にダッシュを挟みながらでも、走破出来るようになった。


距離としては片道10キロくらいだろうか?


体感なので正確な距離ではないが…。


それとここら一帯は王都からそれほど離れておらず、冒険者や騎士が定期的に魔物を駆除しているので、危険な魔物はまずいないし、居ても森の奥である。


わざわざ街道に出てくるのは知能が低く弱い魔物だけだ。倒すのはさすがにまだ難しいが、俺みたいな子供でも逃げる事が出来る存在なので問題はない。


その後、屋敷に戻ると木剣で素振りをする。


最初は刃を潰した剣を振ろうとしたが、この幼い体では剣に振り回され、滅多に口を出さず……俺の訓練をほとんど見もしない師の一人である爺さんが「まだ……木の棒で十分」と言うので木剣だ。


七歳には振れるようになるために、木剣で千回素振りをすると腕立て、腹筋、背筋を50回ずつする。


最初は出来るだけやろうとしたのだが………


「レン様。ヘタに筋肉をつけようとすると、成長の阻害になりかねません。年齢に合わせた筋量を付け、筋肉の質を重視して肉を付けるのが良いかと思われます」


とセバスに言われたアドバイスがあったのでやめた。


最近気づいたが……強い人間は立っているだけで体の芯が安定しているのが分かった。


前世で格闘漫画を読んで、良く「重心が樹木のようにシッカリしている」と言う表現を見ていたが、髭面冒険者に何度も投げられたり、身体を崩される内になるほどと最近分かるようになったのだ。


師匠二人は無論……セバスも安定しており、俺は実力を隠してるのではと疑っている。……何気にカレンと父も怪しいんだよな。


それら朝の鍛錬を終えると、朝食を食べ終えたら勉強の時間だ。


貴族としての立ち振る舞いや、心構え、領地運営や、王国の法律などを学ぶ。


それの勉強が一段落ついたら、昼食を食べる。


その後、頭と体を休ませる為に少し睡眠をとる。


起きると屋敷の裏手に作った的に弓を引き絞り当てていく。


弓の扱い方はなんとか頼み込んで、髭面の冒険者………ラルフ・ヴィンセントに教えてもらった。


……よくよく考えると教える為に招かれているから、教えるのは当然な話だが、あの二人にそれを言った所で……無駄な話だ。


無駄な事を考えていた所為か、的から矢が逸れて木に突き刺さる。


「ふぅ……」


気持ちを切り替えるように、深呼吸を深く繰り返し集中力する。


感覚を研ぎ澄まして、頭の中で当たる明確なイメージを構築する。


引き絞った弦を放して、矢を放つ。


…ま、まぁ。こうして集中してやると10回に一度くらいは真ん中に当たるから良しとしよう。


結果……うん?何の事。


その後、何度か矢を射ると、俺は地面にヘタり込んだ。


単純な体力でいえば剣を振るう方が消費するのだが……弓は集中力を使う為に精神的に消耗するのだ。


俺がヘタり込んでいると、タオルとレモネードを持ってカレンがやって来た。


「お疲れ様です。レン様」


ニコッと笑うカレンの顔についつい見とれてしまう。


この体が六歳でなければ惚れてるなぁ。と心から思うけど、姉と弟みたいな関係も悪くはないと思い始めてる。


まぁ、嘆いたところで仕方ない。


「ありがとう。カレン」


差し出されたタオルを受け取り、気づかない内にかいていた汗を拭うとレモネードを飲む。


「美味しい……」


カレンのレモネードはハチミツ入りで、入れるバランスがいいのか、甘過ぎず酸っぱ過ぎず、美味しいのだ。


特に疲労した体には染み渡るようで、これ以上ないご馳走だ。


「ありがとうございます♪……ところで今日もやるんですか?」


カレンが嬉しそうな顔から、一転表情を曇らせ、心配そうに聞いて来た。


「うん。俺はやっぱり凡才しか持たない平凡な人間だからね。アルと違って才能が無いから、ひたすら努力するしかないんだよ」


「……ッ!だからと言って無茶ですよ!?あんな外道…」


「おいおい?人を捕まえて外道はないだろう。外道は…」


突然声がしたかと思うと、ニヤニヤと人を小馬鹿にするような笑みを浮かべて、無精髭を生やしたラルフがいた。


「テメェ…!レン様に何か有ったら玉潰してやるからな」


カレンが敵意と殺意をラルフに向ける。


「オォ……最近のメイドは怖いね。どうする?レ・ン・様♪……止めておくか?」


ラルフは愉快そうな笑みを浮かべ、俺に視線を向ける。


「今日もよろしくお願いします」


俺はラルフの目を見て、立ち上がり頭を下げると「ふん……」と鼻を鳴らしてラルフが木剣を投げて寄越した。それを拾って構えるとすでにラルフは構えてこちらを見ていた。


「さぁ?どうした~?早く来いよ」


ニヤニヤと、どこまでも人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべてラルフは言う。


…向かって行きたくとも、体は疲労が溜まって中々動こうとはしてくれない。


基本的にラルフがしてくれる稽古は一つだけ。それが組み手だ。もっとも……一年も経つのにこちらの攻撃が、当たった事など一度もない。


俺が攻撃を仕掛けては、避けられ、往なされ、防がれ、そして、ギリギリの手加減がされたカウンターを喰らわせられるのだ。


ラルフに向かう度にいつものように、身体が痛みと言う悲鳴を上げる。


それでも…。


「ッ…!」


俺は歯を食いしばって、よろける体をなんとか立ち上がせる。


「へぇ~?ここで立つか……」


ラルフは意地の悪い笑みを消し去り、妙な表情する。


「れ、レン様ッ…!」


顔を青ざめさせて、こちらに駆け寄ろうとするカレンを心配をかけて、申し訳ないと思いながらも手で制止する。


「ッ…ら!」


木剣を握り、思い通りに動かない体を叱咤して、ラルフに向かい木剣を振り上げる。


「はっ…!」


振り下ろした木剣を嘲笑うように、ラルフが下から打ち上げようとしたところで。


……今!


俺は木剣の軌道をずらし、真横からラルフに木剣を振るった。


「ちっ…!」


俺のフェイントにラルフは舌打ちすると、簡単に木剣を避けてしまう。


ダメか…。


体に残った力の全てを振り絞った攻撃も、全くラルフには意味が無いようだった。


木剣はラルフの服に多少触れただけ。


この一撃の為に此処暫くは、直線的な攻撃しかして来なかったのだけど、そんな小細工が通用する相手じゃないか。


残念に思いながらも、俺はラルフのカウンターに身構え、ラルフに剣を叩きつけられた所でつなぎ止めていた意識を手放したのだった。



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