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8.発想の転換

「さて、どうすっかな……」

 ベンチでたこ焼きを食べた後は、出店の案に挙がっていた焼きそばを食べた。それからその屋台で一緒に売っていた焼きうどんも一応食べてみて、俺と貫森は何となく行き詰まった気持ちになってしまっていた。

「うーん、焼きうどんっていうのは盲点だったけど……そういうの、うどん組は認めてくれるかな?」

「どうだろうなぁ。本場の人の気持ちなんて分からないし」

 うどん焼くとかお前うどん舐めてんの? とか言われたらどうしよう。微妙に怖い。意味が分からなくて怖い。

「焼きそばに関しては特に発見なんてなかったしな」

「ね。塩焼きそばも見当たらないし」

 他に案として出ていた甘味物はそれっぽい屋台が見つからず、どうにも調べようがない。なので、現状はまたしても決定的なものが見つからない、袋小路の状態となってしまっていた。

「……ねぇ、前園君」

「うん?」

 本当にどうしたものか、と頭を悩ませていると、不意に貫森が真面目な表情で話しかけてきた。

「答えが出ない事を考えるのって、ちょっと非生産的だとだと思うんだ」

「まぁ……そうだな」

「だからさ、ここはちょっと発想の転換をしてみない?」

「と、言いますと?」

「文化祭の事とは関係ない物を食べてみる。そういうのもアリだと思うのです!」

 キリッとした表情で、貫森はあらぬ方向へ視線を送る。その先を見れば、クレープを売っている屋台があった。

「……貫森、クレープ食べたいだけだろ?」

「そ、そんな事はありませぬ。私は我がクラスの一層の発展を願って云々かんぬん」

 自分で云々かんぬんとか言う人初めて見た。

「まぁそうだな。行き詰まっちゃってるし、クレープを食べるのもアリかな」

 それはさておきとして、男としてはしょっぱい物のオンパレードでもいいが、やっぱり女の子としては甘い物が欲しくなるのだろう。これ以上考えてても仕方ないし、俺は貫森の提案を受け入れる事にした。

「さっすが前園君、話が分かるー!」

 貫森は嬉しそうな笑顔を浮かべ、瞳を輝かせる。

「そんなにクレープが食べたかったのか」

「だから違うってー。まぁ私が食べたいっていうのもなくはなかったんだけどね、でも大きな部分ではクラスの為なんだよー」

 と、得意気な顔をされる。そんな表情も可愛いな、だなんて恥ずかしい事を思ってしまった。

「さ、行こうか。前園君」

「……ああ」

 その気持ちを誤魔化す為、ややぶっきらぼうに返事をする。そして先導する貫森に続く形でクレープの屋台へ足を向ける。屋台にはショーケースが設置されていて、その中に色々な種類のクレープの見本が陳列されていた。

 貫森はそのショーケースをまじまじと見つめ、真剣な表情をしている。本当に甘い物が好きなんだな、とぼんやり考えながら、俺も並べられたクレープを眺める。

(うーん、どうしようかな。あんまり甘くないのが食べたいんだけど……)

 そう思いながら視線を巡らせる。すると、ツナコーンのクレープが目に付いた。ああそっか、こういう惣菜系のクレープもあるのか――

「あっ」

 ならそれにしようかな、と決めかけたところで、俺はある案を思い付く。

「どうしたの、前園君?」

「あー、いや、後で話す。だから先に買っちゃおう」

 ショーケースに目をやったままの貫森にそう返し、俺はとりあえずツナコーンクレープを注文する。しばらくして、貫森も大仰な名前の付いたクレープを注文した。どんなクレープなんだ、とショーケースを見ると、バナナやらイチゴやらキウイやらがこれでもかと言わんばかりに盛られたクレープが目に入った。

 それを見て唖然としているうちに、クレープが出来上がる。それを受け取り、代金を渡す。そして近場のベンチを指し、あそこに座ろうと貫森を促した。

「うーん、美味しい!」

 ベンチに腰掛け、クレープを口に運んだ貫森が幸せそうな声を上げる。

「うん、美味いな」

 俺も自分のクレープをかじると、ツナマヨとコーンの風味が口一杯に広がる。やっぱりクレープ生地には甘いものもこういうのも合うんだな……。

「ん、そういえば前園君、さっきはどうしたの?」

 しばらく山のようなフルーツと格闘していた貫森は、その山をあらかた平定したところで一端食べるのを止め、俺に話しかけてきた。

「ああ、ちょっと文化祭についての案が浮かんでさ」

「ん、なになに?」

「出店の内容さ、クレープで良いんじゃないか?」

「え、クレープって……これだよね」

 俺の言葉を受けて、貫森はキョトンとした表情をする。

「ああ、それだ」貫森に頷いて見せて、俺は言葉を続ける。「ほら、クレープの中身ってさ、別に甘い物だけじゃないだろ?」

「あーうん、そうだね」

「だから、みんながやりたいって言ってるものをさ、クレープで包んじゃえばいいんじゃないか……と思ったんだ。それなら色んな事が出来るし、それぞれの派閥も納得してくれるんじゃないかな」

「……なるほど。それならみんなやりたい事が出来るし、オリジナリティも出しやすいね」

「だろ。クレープ生地も作り置き出来るっぽいし、潤沢な軍資金のおかげで器具も大量に借りる事が出来る。だから悪くない案じゃないかって思ったんだけど……どうだろう」

「…………」貫森は真面目な表情で少し考えた後、「うん、いいんじゃないかな。ていうかむしろグッドなアイデアだと思うよ!」

 そう言って、グッとサムズアップしてみせる。

「よし、それじゃあ月曜日に、みんなに提案してみるか」

「そうだね。でも、それまでにもう少し細かいところをまとめておかないと」

「ああ。メニューはどれくらいにするか、実際にどれくらいの時間で作れるか、コストはどれくらいかかるか……」

 挙げてみると、まだまだ考える余地が結構あった。しかしそれを面倒だとは感じず、むしろそれを一つ一つクリアしていくのが楽しみになってきた。

「じゃあ早速だけどさ、前園君」

「ん、何か意見があるか?」

「うん。せっかくこんな場所にいるんだしさ、参考の為にもう一個クレープ食べない?」

 そう言う貫森の手には、まだ半分ほど残っているクレープがある。それなのに「もう一個食べない?」とは……。

「……貫森、やっぱりクレープが食べたかっただけじゃ――」

「そんな事ないよ~。私は、そう、前園君のインスピレーションを刺激する為にクレープをだね……」

 胸を張り、何故かドヤ顔をする貫森。その様子が面白くて可愛くて、俺は吹き出してしまう。

「そうだな、それじゃあもう一個食べるか。接待費で」

「そうこなくちゃ!」

 そして嬉しそうに残ったクレープを頬張る貫森。俺もその隣で、どうにも緩んでしまう口にクレープを運ぶのだった。


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