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6.勘違いしてドギマギ

 屋台が連なる通りは、車が一台ずつすれ違えるほど幅を持っている道路だった。歩道には八百屋や本屋などが軒先を並べていて、その店舗の前を埋めるように屋台は出店している。普段は車も入れる通りなのだろうが、今日はお祭りという事で交通規制がされているようで、道路の真ん中を人が往来していた。

 その通りに入った俺たちは、とりあえず歩きながら食べられる物を、という方針の下、まず手近にあった団子の屋台に寄る事にした。そこで俺は磯辺焼きを、貫森はみたらし団子を買い、それを食べながら通りを見て歩いていく。そして出店の案件に出ていたたこ焼きなどの屋台に注目しつつ、俺たちは通りの反対側の入り口まで歩き通した。

「見た感じ、やっぱりたこ焼きとか焼きそばが多いな」

「そうだね……」

 通りへ振り返りつつ、俺は貫森と互いの感想を交換する。

「差別化っていうのも難しいみたいだね。どこも大体同じような感じだし」

「ああ。たこ焼きなら中身を変えるって事である程度はレパートリーが増えそうだけど、焼きそばなんかは塩とソースにするくらいしか出来ないもんなぁ」

「和菓子屋……っていうのは見つからなかったね」

「まぁ……やっぱりそれだけ難しいんだろ、こういうところで売るのは。うどんもなかったし」

「もつ煮とかはあるんだけどね。やっぱり麺は伸びちゃうし。作り置きできるっていうのは大事なとこだね」

 互いに意見を交換し合ったところで、二人して黙り込んでしまう。こうして考えてみると、どの案にもコレといった決め手がなかった。

「ここで考えててもしょうがないし、少し何か食べてみようよ」

「……そうだな、そうするしかないか」

 答えの出ないものを考えていたって時間の無駄だ。俺は貫森の言葉を受けて、再び通りへと足を向ける。

「とりあえず、そこのたこ焼きでも食べてみるか」

「そだね。……ってああ、前園君!」

 と、手近のたこ焼き屋に向かおうとした俺を、貫森の大きな声が止める。

「どうかした?」

「うん、割りと重要な案件があったんだった。あのさ、やっぱりこういうのって数を食べる必要があるじゃない?」

「ん、ああ……まぁ……そうだな」

 参考に出来る物は多い方がいいもんな。

「でしょ? だからさ、たこ焼きとか分けて食べられる物はさ、一つだけ買う事にしない?」

「あー……」

 なるほど、そうすれば多くの物を食べられるし、接待費も少なく出来るな。うん、全体的にいい事ずくめだ。……うん、それは本当にいいんだけど。

(……なんか、二人で一つの物を頼むって、ちょっと恥ずかしいな)

 そう思い、貫森の様子を伺ってみる。

「?」

 どうしたの? と言いたげな表情で首を傾げられた。……どうやらあまり気にならないようだ。変に意識しているのは俺だけらしい。

「……いや、うん、いいんじゃないかな」

 それなら焦って案を却下するのもおかしいだろう。後は俺の勇気次第だ。

「うん。じゃあお願いね」

 貫森はにっこり笑う。そういう笑顔を見せられてしまうと、また変に意識してしまうのだが……。

(いやいや、貫森は別に他意がある訳じゃないし、こんな事で一人相撲をするなよ俺……)

 自分に喝を入れ、そういう気持ちを抱かないようにする。そして俺はたこ焼きの屋台に向かい、たこ焼きを一つ注文し、箸を二つ貰えないかと声をかける。すると店番をしているおじさんは人の良い笑顔を浮かべ、「おうよ、カップルさんにはサービスしちゃうよ!」なんて言って、一玉オマケしてくれたたこ焼きと割り箸二つを渡してくれた。

「あ、ありがとうございます……」

 その勘違いの言葉にどう返していいか分からず、我ながらにぎこちのないお礼を言いながらおじさんにお金を渡す。その反応が受けたのか、「初々しいねぇ!」なんて言って大きな声で笑い出す。その笑い声を背中に受けながら、俺は逃げるような足取りで少し離れた場所で待っていた貫森の元へ。

「お、お待たせ」

「あ、う、うん、おかえり」

 おじさんの声が聞こえていたのか、貫森の顔が赤くなっていた。それを見て更に変な意識が加速し、自分の顔が熱くなっていくのを感じる。ちくしょう、恨むぜおじさん……。

「な、なんだか暑いなぁ、飲み物でも買いに行かないかっ、貫森!」

 とにかくその場から動きたかった俺は、変なイントネーションで提案をする。普通に言おうと努力はしたのだが、どうしても声が上ずってしまった。

「そ、そうだねぇっ、前園君!」

 貫森も貫森で、やっぱりどこかおかしな口調でその提案を受け入れる。

「じゃ、じゃあ行くかー!」

 俺は先導してとりあえず通りの中央へと足を動かす。ふとたこ焼き屋の方を見ると、おじさんが「青春だねぇ……」とでも言いたげないい笑顔でサムズアップしてくれていた。それから視線を外して、チラリと貫森の様子を伺う。

「ぁ……」

「ぅ……」

 すると、俺の事を見ていたらし貫森とバッチリ目が合ってしまう。学校では見た事がない赤い顔で、驚いたような表情をしていた。それを見て俺もますます顔が熱くなる。

「あ、はは……ま、まいったね」

「そ、そうだな……はは……」

 お互いにぎこちない言葉を交わし、それからは黙ってしまう。なにか言葉にしようとするが、こんがらがった頭からはこの場に相応しい言葉なんかが生まれるはずもなかった。

(ああもう……なんだってこんな事に……)

 しかし、そう思いつつも普段見れない貫森の表情を見れて嬉しく思う自分がいた。

(でもこの熱さはどうにかしたい……)

 俺は冷たい冬の風がこの顔の熱を冷ましてくれる事を願いつつ、飲み物を売っている屋台を探すのだった。


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