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一条恭介――Ⅴ

 そういうと優輝のアバターが動き始め、近くにあった武器屋NPCの前で数秒止まったと思うとすぐにまた恭介のもとに戻ってくる。


 すると、画面右上に並んでいるアイコンの一つが点滅する。恭介がそれをクリックすると、すぐにトレードウィンドゥが開かれた。


 このトレードウィンドゥに渡したいアイテムや金額をお互いに入れると、それをトレードする事が出来る。勿論、無償トレードというのも可能なのだがそれにはある程度制限があり、特定のアイテムしか渡す事が出来ないだとか、千円――千カム以上は渡す事が出来ないなど。


 優輝のトレードアイテム欄に、なにやら武器と防具が入れられた。それを確認すると、恭介はトレードの受諾を押す。


『ごめん。まさか、ブードゥー選ぶとは思わなかったからさ。ランカーしか買えないところで、一応一通りの職業の装備買ったんだけど、予想外だったよ。今渡した奴はそこらへんのショップで普通に売ってる奴だから……。あんまり強くないかもしれないけど、とりあえずそれで我慢して!』


 しかしそうは言うものの、優輝が渡したのは恐らくショップで買える中でも最も高級な武器と防具だろう。今装備している、スモールダガーはATKが一上がるというものなのだが、優輝の渡したオーロラスティックは何と持っているだけで、INTとATKがそれぞれ二十づつ上がるというものだ。


 普通ならば中級者以上が使うものなので、二十といってもそれほど強さに大きな変化は感じないのだが、初心者が使うとなるとまた別。


 二〇上がるだけでも大分、敵を倒すのが楽になる。とはいっても、やはり中級レベルになってしまうと、それも感じなくなってしまうのだが。


『いや、別にこれでも十分。これ、新規登録のステータスにしてはかなり高いしね……』


『そっかぁ、いや恭介がそれでいいならいいんだけどね。それじゃぁ、早速狩りに行こうか! 流石にそのレベルじゃ僕がいつも狩ってるところはキツイだろうし、かといって初心者がやるようなところだと弱すぎるから……』


 そうチャットに打ち込まれると、少しまた会話が止まる。


 恭介はゆっくりと背伸びをし、首を回す。気が付けば、秋葉から帰ってきてからずっとパソコンの前に座っている。ざっと、三時間ほどだろうか。デスクワークに慣れた人ならともかく、普段あまり使わない恭介には、かなりの疲労感が溜まっている。


 本当はもう今日はこれで終わりにして、ゆっくりと休みたかった。明日は別に行きたくもない学校が、恭介を待っている。


 だが、そんなどうでもいい事の為に優輝との関わりを終わらせるわけにはいかなかった。


 恭介は疲れ気味な身体に喝をいれると、もう一度大きく背を伸ばした。


『えーと、それじゃぁ、下の上ぐらいのところに行こうか。そこだったら、ステータス的にも丁度良いだろうからね。でも、下の中といっても初心者にはそこそこ苦戦が強いられると思うよ。まぁ、危なくなったら助けるから、基本は一人で倒してみて。操作方法とかは分かる?』


『基本的なのは分かる』


『了解! 基本的にどの職業も操作方法は同じだけど、スキルだけはそれによって効果とか範囲とか違うから注意してね。といっても、初期だからデフォルトのスキルしか無いと思うけど。それじゃぁ、行こうか。ワープゲートから、Freezing earthってところに行って。先に行って待ってるから』


 そう発言がされると、優輝のアバターが走り去っていく。


 それを見ながら、恭介は装備ウィンドゥを開き優輝から貰った武器と防具を装備していく。数値が大幅に上がるのを見ると、少し胸が高鳴るのを感じた。恐らく自分は今この場所にいる新規の中では一番強いだろう。そんな優越感が恭介の中に溶け込んでいく。


 恭介のアバターは先ほどまでの貧相な装備から、それなりに見栄えの良いものに変わっていた。


 白の黒い魔道服の様なものに、赤のラインが入っている。スモールダガーの変わりに装備したオーロラスティックは、不思議な石が杖の先についているシンプルな杖だ。


 恭介は一応道具屋に寄って、商人NPCに話しかける。お金だけは初期のままだったので、少ない範囲内で買える安いヒールアイテムを選び数個買うと、優輝の後を追いかけてワープゲートへの道を走っていった――。



┣╂╂╂╂╂╂╂╂╂╂╂╂╂╂╂╂┫



「うっわ……これまじでゲームの中かよ?」


 恭介が思わず呟いた。ゲーム画面に映し出されていたのは、まるでハイビジョンテレビのような画質。それに映っている凍てついた吹雪の大地。


 どういう仕組みなのか、アバターに降りかかる雪は時間が経つに連れてゆっくりと薄くなっていき、まるで溶けているかのよう。


 primitive townとは違い、このFreezing earthではモンスターがポップする。今はワープゲートの近くだからモンスターを見ることは出来ない。


 しかし、一度マップを動き回ればあちらこちらでモンスターがポップするのだ。


『恭介、ここは吹雪で視界が悪くなってるから、背景と同化してくる敵には気をつけてね。後、パーティ登録しておく? 全部恭介が倒すならいいけど、もし止めは僕がやるのなら、登録しておいた方が経験地分配されるけど』 


『んー、いや、別にいいや。ヒールだけ頼める?』


『ん、了解』


 そう打つと、恭介はアバターを動かす。吹雪の中を一定の速さで進む。すると、数十秒もしない内に画面右の辺りに、モンスターのシルエットが現れた。


 方向を変えてそれに向かって、アバターを動かす。


 優輝のアバターは初めに言っていた通りアシストが目的なようで、距離は一定を保って付かず離れず。まるでお供の様にして後ろを着いて来ている。数秒経ったあたりで、ようやくシルエットが実体になり、吹雪の中でゆっくりと徘徊するモンスターだと断定した。


 初めての戦闘。恭介は右手のマウスを持ち直し、左手でゆっくりとキーボードを叩いてキャラクターを動かす。右手と左手を同時に使うこのゲームは、慣れないと操作が不安定になりがちなのだが、幸いにも恭介はあまり違和感を感じることなく操作出来ていた。


 図鑑で見たマンモスを感じさせるような、アバターよりも少し大きめのモンスター。その上には、ヒットポイントを表すゲージと、RushElephantという表記。恭介のアバターが近付くと、ターゲットしたのか向きを変える。


 ――――来た……!

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