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夏野優輝――Ⅳ

書き溜めておいた分が全て出尽くしました。

また書き溜めるので、少し更新が滞りますが、どうぞこれからもこの作品をよろしくおねがいします。

 マンションのエントランスには暖房こそ付いていないものの、風が入ってこないというだけでも外よりは断然良い。


 優輝は袋に入れてあるゲームをチラリと見ると、エレベーターのボタンを押した。しかし、前に使った人が上の階だったようで中々エレベーターは降りてこない。


 焦りが優輝の行動を急かした。


 優輝はエレベーターの隣にある非常用階段へと出ることの出来るドアを開けると、そこから一気に駆け上がる。優輝の部屋は三階にあるので、今走ってきた運動量から比べれば大した距離じゃない。優輝は焦る気持ちを必死に抑えて、転ばないように階段を丁寧に、かつ敏速に登る。


 そして、三階に着くと優輝は非常階段を出た突き当たりにある部屋のドアに鍵を差し込んだ。少しお洒落な模様が入っているドア。これが都会だったら、友達等に少しは自慢出来るのかも知れないが、生憎この街にはそんな事をわざわざ気にするような人はいない。


 優輝は僅かな開錠音がしたのを聞くと、ドアを開けた。途端に出てきたのは、今日の夕飯であろうカレーライスの香ばしい匂いだった。下腹部の辺りがその匂いに釣られて、音を出す。


 あぁ、良い匂いだ。お腹減ったなぁ。優輝はそんな思いと共に、今までの焦りを一時忘れていた。


 そうして玄関に立ち尽くしている優輝を現実に引き戻すように、奥から優輝の母親が現れた。優輝の母親は若く、まだ三十代の後半だ。それなりに化粧もしていて、正直言うと老いを感じさせる要素はあまり無かった。


 しかし、だからといって特別美人という訳ではなく、むしろ顔は整ってはいるが地味といったところだ。そして、その特徴は優輝にもしっかりと受け継がれていた。少し茶色っ気の混じった髪は父親譲りなのだが、地味な顔の印象は母親譲りだ。


 玄関で立っている優輝に不思議に思ったのか声をかける。


「優輝? そんなところで何やってるの?」


「あぁ……いや、何でもないよ母さん。今日はカレーかな?」


 答えが分かりきった質問だが、優輝は一応確認のつもりでそう質問した。


「えぇ。今日は野菜が安かったから、野菜多めのカレーを作ってみたの。あ、でも優輝が嫌いな人参は入れてないから」


「うん、ありがとう」


 優輝はそう言って微笑むと、靴を脱いで自分の部屋に入っていく。閉めたドアの向こうから、「夜ご飯、もうすぐ出来るからね」という声が聞こえてきた。


 優輝は曖昧に返事をすると、一息つく。


 買ってきたゲームソフトを適当に放り出し、パスワードのついている箱を取り出すと、優輝は机に置いてある黒いパソコンを立ち上げた。すぐにパソコンは立ち上がり、優輝はインターネットを表示させる。お気に入りからBlood Blade Onlineの公式サイトに接続する。



「さてと、藍はもう登録し終わったかな?」


 先ほどのチャットで優輝は藍をこのゲームに参加させる事に成功していた。今までも何回か誘っていたのだったが、今日始めてそれが了承されたのだ。


 藍とはこのゲームの中で落ち合うことになっている。


 約束してから大分時間が経っているので、恐らくはもう登録して待ち合わせ場所で待っている事だろう。


「あ、そういえば名前聞いてなかったなぁ。まぁ、でも多分分かるよね」


 優輝は暗記しているログインIDとパスワードを打ち込み、ゲームにログインする。そして、デスクトップのショートカットアイコンをクリックしてゲームを起動させた。


 流石に、優輝のパソコンはゲームをする為に作られているのでその動作は驚くほど軽快だ。


 何のストレスを感じることなく、自動的に今日されたアップデートファイルをダウンロードし、画面が切り替わる。

 黒の背景に、白銀のいかにも西洋的な剣と、赤い血で彩られている少し悪趣味なスタート画面。優輝は慣れた手つきでマウスを動かして、自分のキャラクターを選択する。


 そして、数秒後にはゲームが始まっていた。


 Blood Blade Onlineは、狩りと戦争を目的としたゲームだ。それぞれの所属国を最初に選び、職業等を選んで自由に遊ぶというのが大まかなコンセプトだろう。


 優輝は設定を少し弄って、ゲームのウィンドウを画面一杯にまで広げる。こうすることで、より臨場感が出るのだ。


 少し長めな銀髪に、切れ長な瞳。腰に携えているのは小さめのレイピアで、服装は鎧のようなものではなく、ファンタジーの中によくある凡庸な皮製の服だ。全体的にシックで軽い装備になっていて、皮服と銀髪が不釣合いだった。


 しかし、優輝はどっちかといえば見た目よりも実用性重視なので、この装備を変えるつもりは無かった。


 ゲーム内の世界は《アリストテイル》と名づけられていて、画面右上に小さく表示されている。


 やはり、評判が良いだけあってグラフィックは建物の細部までしっかりと再現されている。時折吹くゲーム内の風がまるで本物のように、優輝のアバターの髪を揺らしている。それを見ながら優輝は実に不思議に思う。何故、自分と同じで柔らかそうな髪質なのにも関らず、丁度よい具合で髪がなびいてくれるのか。そんな事をゲームの問うても仕方がない事なのだが、自分のコンプレックスには人間は目敏い様で、そんな細かなことすらも優輝は不満だった。


 そんな風に思えるのもひとえに、このゲームが現実に忠実に再現されていると言えるという事だろう。


 優輝はマウスからキーボードに操作を移し、キーを叩いてアバターを操作する。この時間帯は仕事帰りや学校帰り、休日で暇を持て余している人達等、様々な人がログインしている時間帯で、最も賑わっている。更に、この賑わいは時間が経つにつれてどんどんと増えていく。


 今優輝は、アリストテイルの中の、中心街に位置する《advanced town》にいた。前回は、狩りに出かけて戻った後すぐにログアウトしたようだ。このadvanced townは一定の規制が設けられていて、ゲーム内のランキングに入っているプレイヤーしか来る事の出来ない特別な場所だ。故に、ここに居るほとんどのプレイヤーはかなりの高レベルだし、武器や防具も上級なものばかりだ。


 NPCプレイヤーの商店も、他の場所に比べて質が良い。正しく、選ばれた者だけが来る事ができる場所。advanced townに来る事の出来るプレイヤー――ランカープレイヤーは、全部で三百人。そして、この時間帯に来る人も、全員ではなく、多くでも精々百五十人程度。


 なので、他の街よりも幾分雑踏は少なく、比較的道にもゆとりがある。


「…………っと、こんな事してる場合じゃないや。早く藍と合流しなきゃね――」


 




 

 




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