一条恭介――Ⅵ
また暫く書き溜めるので更新止まるかもです。すいません。
何時の間に発言していたのか、チャット欄には優輝が発言していた。
『そいつは、ターゲットに向かって突進してくるから気をつけて。後、あんまり戦闘が長引くと仲間を呼ぶから、なるべく早めに。もし倒すのに苦労したら、チャットで話しかけてくれればすぐに対応するから。それじゃぁ、頑張ってね!』
それを流し読みすると、恭介は再びモンスターのほうに向き直る。
「あ……」
その瞬間、自分のアバターが画面の中で吹き飛ばされた。発言を読みながらも、モンスターの動きには注意していたつもりだったのだが、やはり注意力が散漫になっていた様だ。慣れているとはいえないので、それも当たり前なのだが。
今の動きが恐らく、優輝の言っている突進攻撃だろう。ターゲットに向かって一直線に進んでくる。一発のダメージは大きいとはいえないものの、何度も食らってしまうと危ないだろう。恭介は敵モンスターに集中する。
既に二度目の突進をしようと、予備動作に入っていた。恭介は慌ててアバターを動かして、RushElephantの一直線上から逸れる。すると、予想通りRushElephantはさっきまで居た恭介の場所に一直線に突進していた。
また予備動作に入る前に、恭介はアバターを近付かせて攻撃をする。スキルを使うと、それによってライトエフェクト等の派手な効果が付け加えられる。しかし、デフォルトの攻撃スキルにはそんなものは一切なく、木なのか鉄なのか判別出来ない微妙な乾いた音が鳴るだけ。
しかも、装備している杖を物理的に使うという何とも白けた事になっている。
だが、ダメージとエフェクトは全く関係無いので、いかに弱そうな攻撃でもしっかりとダメージを与えている。
RushElephantのHPは四分の一程削られていた。やはり、優輝から貰った武器はかなり性能が良いようだ。
恭介はまた、相手の予備動作が始まるのを見計らって、一直線上からアバターをずらす。次にRushElephantが突進したらすぐに近付き攻撃が出来るように、直線状に入らないように気をつけながら、なるべく近付く。
すると、恭介の予想に反してRushElephantは突進をしない。その代わりに、一瞬のタメが入った後にその巨体をアイススケートの様にぐるりと一回転させた。ムチのようにしなる鼻が弧を描いて、恭介のアバターに叩きつけられる。
『モンスターの攻撃パターンは一種類じゃないから、気をつけて。って言ってももう遅いか。とにかく、油断しないように』
本当に言うのが遅い。恭介は心の中で嘆息しながら、溜息を吐いた。しかし、これで大体の攻撃パターンは読めた。
まだ他の攻撃方法がある可能性も捨てきれないのだが、恐らくはこの二つの攻撃パターンに気をつければいいだろう。
一直線上に入ると突進。逆に近付きすぎると、回転を使った近距離の攻撃。要は、一直線上に入らないように、近付かないようにして、まるで見当はずれな方向に突進した後の隙をついて攻撃を繰り出せば良いのだ。
恭介はそう頭の中で整理すると、再び真面目な顔で画面に顔を向ける。
暖房が効いた暖かい部屋に、恭介の小さな呼吸音とキーボードの音、マウスのクリック音がリズム良く刻まれていく。
――そして、一分ほどが経つと、恭介は画面の前で小さくガッツポーズをした。
画面に表示されているのは、先ほどまで元気に暴れていたはずのRushElephantではなく、氷の大地に小さく浮かぶ文字列だった。
『おぉ、恭介倒したね! 初戦闘初勝利おめでとー!』
『おう、ありがと! 優輝から貰った武器かなり強かったよ!』
『そりゃ良かった』
そこまできて、恭介は改めてフィールドを見回す。すると、そこには恭介が倒した時に出てきた戦闘の成果を示す表示が数個程点在していた。普通、体のモンスターを倒したときに出る成果表示は一つなのだが、何故か恭介の周りではそれがいくつも浮いている。
『バグか?』
『バグ? あぁ、この表示の事ね。恭介が倒した一体以外は全部僕の成果だよ。最初に言ったでしょ? 戦闘が長引くと仲間を呼ぶって。恭介が気づく前に僕が倒しちゃったからあれなんだけど、大体六十秒が仲間を呼ぶまでの時間なんだよね。それで、恭介がてこずってる間に寄ってきたのを、僕が適当に片付けといたってわけ』
その発言を見て、合点がいった。戦闘に不慣れで、モンスターの特徴も掴めていなかった為、てこずってしまうのは当たり前なのだが、それでも恭介の邪魔にならないようにと、優輝は影ながらアシストしてくれていたのだ。
恭介は心の中で御礼を言うと、また次のモンスターを探し出す。
遠くで蠢く新たな影。
恭介はその方向にアバターを動かすと、ゆっくりと歩行するRushelephantに狙いを定めた――。
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『あ、ごめん。僕そろそろ夕飯らしいから落ちる。恭介は?』
三十分ほど経つと、唐突に優輝がそう発言した。
確かに、そろそろ潮時だろう。段々プレイヤーも増えてきて、ポップされたモンスターを狩ることが困難になってきている。周りには、実に様々なプレイヤーが混在していた。勿論、所属国も違えば職業も全く違う。
流石に、優輝程の上位プレイヤーは居ないのだが、中堅プレイヤーが全体の三割ほどを占めているようだった。遠距離からの攻撃で、他人が弱らせたモンスターを奪っていくプレイヤーもちらほらと見つかる。しかし、そういったプレイヤー達は文句を言われると他のフィールドに移動してしまうので、特に対処法は無かった。
恭介は優輝の力を借りながら何とかレベルを十まで上げた。優輝のレベルが七十オーバーなのを考えると大分見劣りがしてしまうが、それでも今のフィールドのモンスターを一人でそこそこ倒せる程にはなっていた。
『了解。今日は有難う。次はいつ来る?』
『んー、どうだろ。分かんないなぁ。明日からは普通に学校があるから、昼間はあんまり来れないだろうし……。まぁ、とりあえずフレンド登録しとく?』
そういうと、フレンド申請が送られてくる。恭介はこれを受諾した。
フレンド登録をすることによって、ログイン中ならばフレンドと何処からでも連絡を取ることが出来る。これを使えば、二人がタイミング良くログインしていれば、ゲームの中で会うことが出来るだろう。
『よしっと。まぁ、平日は大体夕方か夜中に来ると思うから。もし、僕がログインしてたら連絡してくれれば、一緒に狩りとか出来るよ! それじゃぁ、僕は落ちるから!』
すると、瞬時に優輝のアバターが消えた。ログアウトしたのだろう。
恭介は目を瞼の上からぐっと押した。程よい圧力がかかり、気持ちよい。
「さて……」
恭介もフィールドから出ると、ログアウトのボタンを押した。すると、ゲームウィンドウがトップ画面へと戻る。恭介はゲームウィンドゥを閉じると、パソコンをそのままシャットダウンした。長時間ゲームをやっていたせいか、身体のあちこちが軋んでいるようだった。
恭介は立ち上がり、ベッドに飛び込む。
優輝が言っていた通り、明日は恭介にも学校がある。
あまり行きたくはないので、サボっても良いのだが、それで家にいてもどうしようもない。優輝も学校からゲームにログインは出来ないだろう。
恭介は一つ溜息を零す。
純白のシーツが敷かれているベッドに顔を押し付ける。シーツのひんやりとした感触が、ゲームで体温の上がった恭介には気持ちが良かった。
――不意に、ドアがノックされる。
「恭介君、いますか?」