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稀代の魔術師  作者: 神山 備
第一部 元の世界へ
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運転は難しい 2

【基本的にエンジンかけて、シフトをドライブに入れて、アクセルを踏みゃ、車は転がる。後はだな、ハンドルを操ってぶつからないようにするだけだ。要するに、ま、慣れだ慣れ。じゃぁ、やってみろ】

町外れに着いたところで、座席を交代すると、幸太郎氏はそう言って、手を頭の上に乗せてふんぞり返りました。しかし、急に

【あ、忘れてた】

と言うと、自動車オートマティックカーゴなるものの鍵を本体から引き抜き車を降りました。

【お前も降りろ。肝心のセキュリティーを忘れてたぜ】

私が、カー(幸太郎氏がそう呼んでいるので、私も自動車なるものをそう呼ぶことにしますが)を降りると、

【半ドアにならないようにしっかり閉めたか】

と言いながら、ドアを一旦開け、中にある何かのスイッチに手をかけてからドアを何かドアに恨みでもあるのですかと言いたくなるような『バタン』と大きな音を立てて閉めました。しかし、幸太郎氏は車のドアノブに手をかけると、

【よしっと。半ドアだと、鍵閉まんねぇからな、ビクトール。パニクるなよ】

と言いました。鍵を閉めるためだとはいえ、私もあんな乱暴な扱いをせねばならないのでしょうか? 大切なたった一台しかない車だというのに。そう反論したいのをぐっと堪えて、私は続く説明を聞きました。

【開けるきにはエンジンと同じでキーを入れて右に回す。このポンコツにキーレスなんてないが、ま、あったって電池交換しなきゃそのうちアウトだろうしよ】

幸太郎氏は、そう言いながら鍵を一旦抜き、私に渡して、

【自分でやんなきゃ意味がねぇ、キーからやってみろ。左に回しながら、ドアを開けるんだぞ】

と言いました。確かにセオリーは大事ですが、私も森では一人で暮らしているのです。鍵ぐらいかけます。とは言え、遠くにいかない時にはとられる物もないので、(大切なものと言えば魔道書ぐらいですが、魔力のない物には読むことの出来ない本を持っていく者は誰もいないですから)あまりかけてはいませんけれども。


 車に乗り込んだ後、シートベルトと言うもので体を固定しました。これをしないと、ニホンでは警備隊につかまるそうです。そんな法律がないここでは説明をしただけで、幸太郎氏はさっさとそれを外してしまいましたが、私は先ほどの恐ろしい速度で走っていたことを思い出し、そのままでドアを開けた鍵を車の真ん中にある鍵穴に差し込みました。

【その足下の左側の……そうそれだ、それを右足で踏みながら鍵を右に……よしかかったな。そしたら、今度は左手でハンドブレーキを、一旦あげて下げる。そうそう。んじゃギアを、そのロッドみたいなやつだ。それを手前に引いて、Dを光らせるようにする。これでOK。後はアクセルを踏み込みゃ……ん? おい、ビクトーリオ、お前いつまでもブレーキに足置いてんじゃねぇよ。アクセルに踏み替えなきゃ走んねぇだろ】

【えっ、ああ、こちらですね】

私は言われたとおりに右足を右隣のスイッチに置き替えました。すると車は恐ろしい勢いで前に走り出したのです。私はびっくりして足を離しました。しかし、幾分緩んだものの、依然勢いは変わりません。

【ブレーキ、ブレーキ! さっき踏んでた方を踏むんだよ!!】

幸太郎氏にそう言われて私は先ほど踏んでいた方にまた足を戻しました。キーッツっという音がして、車は前のめりで止まり、幸太郎氏は前の部分(ダッシュボードと言うらしいですが)で胸を打ちました。私も前の方につんのめりましたが、シートベルトをしていたおかげで、ハンドルで身体を打ち据えることはありませんでした。法律になっているだけのことはあります、シートベルトは絶対に必要だと思いました。

【ったく、お前いきなり全開で踏んでどうすんだよ! ああ、教習車みてぇに助手席にブレーキほしいぜ】

幸太郎氏は胸をさすりながらプリプリと怒ってそう言いました。

 その後、すっかりアクセルを踏むことが怖くなってしまった私は、実はD状態でブレーキから足を離してさえいれば、アクセルなど踏まずとも進むのだと言うことを知ったのもあり、その状態で(クリープと言うそうです)30分ほど走り続けました。隣にいた幸太郎氏はしまいに、

【俺んとこにアクセルつけてほしい】

と言っていましたが。

 でも、隣の席にアクセルもブレーキも付いてしまったら、私が運転するんじゃなくなってしまうじゃないですか。

 


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