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稀代の魔術師  作者: 神山 備
第三部 チビビク物語
39/43

言葉の壁

 マスミは私を連れて先ほどマスミの家へ来た時の道を戻り始めました。たぶん、私を元の世界に戻すために、私を拾ったあの場所に戻ろうというのでしょう。闇雲にオラトリオを目指そうとするより、その方が第三の場所に着くなどのアクシデントは少ないでしょう。チエが時折興奮気味で叫ぶ『ファンタジー』というのがどういうものかは解りませんが、ニホンの人々は魔を纏っている人はないのに、魔法に関する知識はかなりあるようです。

 マスミの表情は依然硬いままです。チエに聞いたところによれば、基本このニホンでは男女は自由に婚姻できるのですが、マスミを欲しているのはこちらで言う王族のような方だとか。

 さすがに夜も更けてきたので、行きほどの喧噪はありませんが、それでも道は昼のように明るく、やはりニホンの国力は非常に高いようです。そんな国の王族に匹敵する方との婚姻ともなれば、マスミが後込みするのも解るような気がします。

 そんなマスミの足が後少しであの『動く建物』が来る所まで行くと言うところで止まりました。私が覗き込むと、マスミは唇を震わせて泣きそうな顔になっています。

「ソウタ……」

マスミはかすれた声で確かにそう言いました。ということは、彼女の目線の先にいるのが彼女に求婚しているソウタという男性なのでしょう。ソウタは、満面の笑みで

「マスミさん、◎△※〒↓☆♪」

とマスミの手を取ろうとしましたが、私にはマスミの名前以外ちっとも解りません。マスミはソウタの差し出した手を払いのけ、二人はそのまま口論を始めてしまいました。

 ああ、二人は何を話しているんでしょう。ニホン語が解っても何も私が力になれることはないでしょうけれど、それでも彼らが何を話しているかだけでも知りたい。

 

 そのとき、私はソウタの歩いてきた方向から来た一人の子供に眼を瞠りました。その子が非常に強い魔を背負っていたからです。それに、俯いているので顔は判りませんが、よく見るとその口元は小刻みに動いています。覚えた詠唱文言を復習しているのだ-そう思って私の胸は高鳴りました。

【ねぇ、君……】

そして、私の呼びかけに上げた顔に、私はまたびっくりしました。そこには私そっくりの顔がありました。

【あなたは私の映し身ですよね。今、詠唱していたのは何の魔法ですか。と言うか、あなたのような魔法使いは他にもいるんですか。界渡りをした人の話は聞いたことがありますか、それから……】

映し身と出会った嬉しさに、私はつい興奮して彼に矢継ぎ早に質問してしまっていました。しかし、彼は私のことを迷惑そうに見て、マスミたちになにやら話しかけています。

【トール、ニホンの小学生には『その言葉えいご』は解らないわ】

なんという事でしょう。折角出会えた映し身と、言葉の壁で意志疎通できないだなんて! 

 ああ、この子と話したい。そして、マスミやソウタの言葉も理解したい。そう強く思った私は、

<この子の言葉が全部解るようになりたい。対等に話したい、Trance!!>

と、無意識にそう叫んでいました。それを聞いた映し身は、一瞬ぶるっと身体を震わせた後、

「何なの、変なの……この。僕、遅くなるとママに叱られるから行くね」

と言い、

「なんか頭痛くなってきちゃったよ」

と呟きながら先を急ぎはじめました。

「待ってください! ちょっと伺いたいことがあるんです!!」

と、私は必死で叫びましたが、彼は首を小さく竦めただけで振り返りもせず、歩いていきました。ああそうか、彼にはオラトリオの言語は通用しなかったんだと私ががっくりとして落とした肩を、マスミはガッチリと掴んで言いました。。

「ちょ、ちょっとトールっ!!」

見上げるとその眼は怒りで震えています。

「あんた、ホントは日本語が解ってるのね。何でしゃべれないフリなんかしてたのさ!!」

「フリなんかしてませんよ」

それに対して、私はそう答えてハッと口を押さえました。私が今答えているのはまさにニホン語です。

「いえ、たった今までは話せなかったんですよ」

 本当に今の今まで何も解らなかったというのに、私はマスミたちの言葉が解るだけではなく、道ばたに貼ってある紙の内容まで読めるようになっていたのでした。

 

 ……一体、どうして??

いやぁ、ついに美久登場で、ビクトールいきなり日本語話せるようになってしまいました。


実は、このとき美久は私立中学受験のための塾の帰りで、宿題の歴史年表を必死で覚えていたんですね。未知の言語はまさに『呪文』であります。


で、美久がチートな言語スキルを持つのもこのとき。ビクトールの魔法だったというオチでした。


ちなみに、物語とは全く関係ありませんが、美久はこの中学受験には失敗し、公立中学・高校と進み、楽しいオタクライフをすごすことになります。


※でも、このときのことをなぜ美久が覚えていないのか。

ずばり、美久はビクトールを女の子だと思っていたし、あまり顔よくみていなかったんです。(この娘っていうのは誤植ではないんです)

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