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稀代の魔術師  作者: 神山 備
第三部 チビビク物語
38/43

あーあ、地雷踏んじゃった 3

「か、考えさせてください」

爽太にプロポーズされた私は、そう言って逃げるように店を出た。何だか返り討ちにでもあったような気分だ。

 断るとなれば、今度こそ本当に仕事を辞めなきゃならないだろうなと思った。もうどうしたらいいのか判らない。 私は幼なじみの千絵に相談した。千絵とは小学校の頃からお互い何でも相談していたし、爽太がペーの頃、ドジって落ち込んでいたとき3人で飲みに行ったことがあり、面識もあった。

「何よ、チキンだなぁ、向こうからそう言ってくれるんだったら喜んで受ければいいのよ。真澄って昔から姉御肌のクセに肝心なとこで意気地がないんだから」

私がそのことを話すと、千絵はそう言って笑った。私が、

「んな事言ったって、あのYUUKIの社長の息子だよ。両性の合意なんて言葉で絶対に済まされないよ」

だって、私6歳も年上なんだよと言うと、

「面倒な子」

という言葉が返ってきた。

「惚れるのに年なんか関係ないじゃない。あんたいい加減自分の気持ちに気づきなさいよ。そりゃ、職場の上司だから一緒にいる時間は長いだろうけど、そんなこと抜きにしたって、あんたの話題は爽太くん一色じゃない」

「一色だなんて、そんなことないわよ」

「あるわよ。大体、6歳差くらいどってことないじゃん。逆に平均寿命の差から考えたらちょうど良い年の差加減だと思うけど」

「そんなこと言ったって、女の方が早く老けるわ」

「そんなもん、努力次第だって。いつまでもキレイでいたいと思えば結構大丈夫なもんよ」

女優を見なさいと、千絵は言った。私は、あんた当事者じゃないからそんな暢気なことが言えるんだわと思った。

 そして、そんな不毛な言い合いをしているときに、私たちはトールを見つけた。あの時、私はトールに託けて一方的に会話を終了させたんだけど、まさか千絵が家に帰ってまでそれも両親の前で蒸し返すとは思わなかった。やっぱり、千絵を家まで連れてくんじゃなかったと思って、ふと千絵の方を見ると、

【社長というのは王のような者なんですか】

【日本に王様はいないわ。でも、会社を国に例えればそうかもね】

千絵はこそこそ小声で爽太の事をトールに説明している。

「千絵っ! トールにまで、んなこと説明すんじゃないっ!!」

「いいじゃん、でないと一人おミソでかわいそうじゃないのさ」

だからって、6歳下の彼の話なんて気分良くな……いこともないか。トールは千絵の説明を目を輝かせて聞いている。心配して損した。そうよね、他人のゴシップは蜜より甘いものかも。

「おう、不安があるんだったらそんなもん、受けなくて良いんだぞ。んで、一緒にいるのが気まずいんだったら辞めてここ手伝え」

すると、今まで黙っていた父さんが笑顔でそう言った。でも、

「何言ってんだい。あんたがそんな風に甘やかすから真澄はいつまでも一人もんなんだよ。まったく、男親って奴はどこまで娘を囲い込みたいものなのかねぇ」

と、すかさずそこで母さんがそう言い放つ。その後母さんは、

「とりあえずその阪井くんって子を連れてきな。あたしがしっかり品定めしてやるよ」

とありがたくない品評会を強要した。爽太の外面は最高に良いから、そしたらきっと私の退路は全部断たれるわ。

「そんなのいらないから! トール行こう」

とりあえず今はどこかに逃げ出したかった。私は、強引にトールの手を取って、彼を椅子から引きずり下ろすと、店の外へと向かった。

「真澄、どこに行くのよ」

そんな私を千絵が呼び止めた。で、私はうっとおしいなと思いながら、

「トールが元いた所よ」

と素っ気なく言う。その言葉に首を傾げながら、

「渋谷に? なんで?」

と言った千絵に、

「異世界に戻るには元いた場所に戻るのがファンタジーの王道でしょうが」

と返す。千絵は、

「王道ってねぇ……にしたって、今何時だと思ってんのよ。今から行って何時に着く? それで縦しんばうまくトールを元の世界に戻せたとしても、それから真澄一人でここに戻ってくる訳? 危ないわよ」

と言って呆れるが、私は

「煩いわね、あんたはもう自分ちに帰ってテレビでも見てなさいよ。そろそろ愛しのソン様の番組が始まる時間じゃないの?」

と言うと、千絵や両親の方を不安そうに見つめるトールを引っ張って店の外に出た。

「そんなの当然、録画してるに決まってんじゃん。その上オンエアで見る……あ、ちょっと待ちなさいよ、真澄! 真澄!!」

私は千絵の声を無視してズンズンと歩き進んだ。それに対して、トールは何も聞いてこない。ホント、11だって言うけれど、それにしちゃぁ、人の気持ちの機微を解りすぎてない、この子。心の中でそんな八つ当たりをしながら私はトールの手を引いたまま無言で駅に向かった。

 だが、商店街から駅への近道の細い路地に入った所で、私の足は止まった。

「真澄さん!!」

 なぜかそこには爽太がいて、私を見ると満面の笑顔で走ってきたからだった。

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