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稀代の魔術師  作者: 神山 備
第三部 チビビク物語
31/43

移動

 地下壕に向かう少々長すぎる階段を下り、重い扉を開くと、そこは外かと見紛うばかりに煌々と灯りが焚かれ、店が建ち並び、地上にも負けない位の人が歩いていました。

【ま、町が……】

【まさかビクトール君って、地下街も知らないの?】

煌びやかな町並みに私は目をみはって口を開けたまま閉じることができませんでしたが、マスミたちは逆にこの地下にできた町を知らない事に驚いていました。

 

 しかし、マスミたちは、その町で買い物をすることもなく(もっとも立ち並んでいた商店は、衣装や小物類が主で、食べ物を扱う店はみあたりませんでしたが)、すぐに別の階段から地下の町を抜け出しました。どうやら、町に寄るのが目的ではなく、あの戦車の一団をやり過ごすために使ったようです。

 階段を上りきった先にある建物に入ると、マスミは私にきれいな風景の書かれたカードという紙のようなものを私に手渡し、

【自動改札は知ってる?】

と聞きました。

【自動カイサツですか?】

【あ、いい、いいよ。私たちが先に通るから、同じようにすれば大丈夫だから】

知らないとは言いませんでしたが、全く解っていないことをその表情から察したマスミは、慌ててそう言うとその建物の奥に進みました。そこには、人が一人しか通れない幅で、何かの金属でできた仕切りが何本も取り付けられて、たくさんの人が一人また一人とそこを通って行きます。

【はい、ここにさっきのカードをこう入れてね】

チエはそう言うと、仕切りの前の方に付いている四角い穴に私が渡されたのと同じようなカード(ただ、チエのは景色ではなく、見たことのない文字がたくさん書かれているだけでしたが)を仕切りの手前にある四角く縁取られた穴に入れました。するとガーっという音がして、瞬きしている間にチエのカードは10インチほど向こう側の穴から出てきて、チエはそのカードを取って仕切りの向こう側に立ちました。それを見届けるとマスミは、

【次はビクトールくんの番ね】

と言って私のお尻を押すように私をその仕切り板の前に立たせました。

【はい】

私は、恐る恐るその穴にさっき渡されたカードを近づけてみました。チエの時と同じようにガーっという音がしてかなりの力でそのカードを引っ張りますが、私は怖くて手を離すことができません。マスミに、

【ビクトールくん、手を離さないと機械に挟まれちゃうよ】

と言われ、慌ててカードから手を離して両手を頭のところまで上げました。マスミはカードが無事吸い込まれたのを見ると、私の背後から自分もチエと同じ文字だけのカードをその穴に滑り込ませます。そして、私の背中を押して先に仕切りの向こう側に行かせると、私の分とマスミの分のカードをささっと2枚取って、

【出るときも要るけど、これは私が持っておくわ】

と言って自分の鞄の中にしまいました。元々、マスミのものなのですから、私に異論はありません。

 

 それから、私たちは人の波に従いながらまた階段を上り、細長い石造りのテラスのような所に出てきました。そこには既に多くの人がいて、続々と増え続けています。そして、大きな溝を挟んで向こう側にも同じようなテラスが見えました。

 そのときです。何やら淀んだ音の鐘がなったかと思うと、妙に大きな声で男性の声がしました。すると、轟音と共に、先ほどの戦車とは比べものにならないほど大きな金属の塊がこちらに突進してくるのが見えました。思わず私は後ずさりしようとしましたが、マスミにがっちり肩を掴まれていて、身動きすることができません。

 大きな塊は私たちにぶつかることなく、溝の中を這いながら私たちの前に停まり、それと同時にその塊にあるいくつもの扉が一斉に開かれてものすごい数の人・人・人が出てきました。確かに建物と言っても過言ではない大きな塊ではありますが、その大きさでこれだけの人が入っているとは信じ難い数です。マスミたちは、

【どうしたの、これに乗るよ】

とすっかり気後れしている私を押してその『動く建物』の中に入っていきました。

 そして、後から後から来る人に、旅行鞄の中身のように押されて、私は程なくこの『動く建物』にあり得ないほどの人が入っている理由を理解することになりました。

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