マスミとチエ
【で、君の名は?】
【ビクトール・スルタン・セルディオと申します】
「きゃぁ、ミドルネームだなんて、ますますセレブっぽいじゃん」
マスミに聞かれて私が名を答えると、私たちの背後からいつの間にか付いてきたチエがそう叫びました。他は全くでしたが、ミドルネームという単語だけは解りましたので、
【はい、偉大な祖父に肖って】
と答えました。この名は生まれつき強大な魔力を帯びていた私に、父が『稀代の魔術師』の二つ名を持つ祖父のファーストネームを冠したものでした。実はこれが原因で、私は二人の兄から疎まれる事になるのですが、それを話すと長くなるので、割愛することにします。
すると、マスミとチエの二人はまた早口の日本語で盛り上がっています。今度はその祖父とのロマンスに妄想の羽を広げていたようです。とは言え、私は全く解りませんでしたので、マスミに導かれるまま歩くだけでした。
しかし、その私の足が止まりました。マスミに連れられて出た大きな通りには、少し丸みを帯びた馬車のようなものが馬もつけずに競いあいながら一つの方向に向かって突進していたからです。新型の戦車だと私は思いました。こんな兵器を大量に作ることができるニホンの国力はどれほどのものなのだろうと、こんなすごい兵器を作れる国がもしグランディールを襲ってきたら、我がグランディールはひとたまりもないと。
【あ、あの……これから戦さでも始まるのでしょうか】
私は震えながらマスミにそう尋ねました。
【戦争? 変なこと聞くのね。戦争なんてもう65年も起こっちゃいないわ】
【だったら、こんなに……】
なぜ戦車が一つの方向に向かって走らねばならないのでしょう。
【今日はまだ流れてる方だと思うけどな】
すると、マスミは吹き出しながらそう答えましたが、
【そっか、君もしかしたら紛争地帯から、命からがら亡命してきたとか?】
と、気の毒そうに私を見ました。
【亡命とかそんなことはないです。だから、私を先ほどの場所に戻してください】
と、私はそう答えましたが、
【追っ手とか来たらマズいじゃん、ここはとにかく、真澄んちに行って、ご飯。それから考えよう、ね】
「って、千絵も一緒に食べるつもり?」
「当たり前じゃん、久しぶりのおじさんのハンバーグ定、楽しみだわ」
「あんたは金払ってよ!」
「うわっ、守銭奴」
「どっちが!!」
マスミたちは私の話は全く聞かずに勝手に話しを進めます。私は軽くため息をついて、彼女らと共に、マスミの家を目指しました。
するとマスミたちは手近な地下壕に入って行きました。