運転は難しい 1
グダグダしゃべっててもしゃーないんで、とりあえず運転席に乗り込む。すると、ビクトールは、
【私に運転させてくださるんじゃないんですか?】
と不服そうにそう言った。
【もちろん最終的にはそうするつもりってか、そうなってもらわねぇと、俺日本に帰れねぇし。こんなとこで、お前のお抱え運転手なんてするつもりはさらさらねぇからな】
【ならば】
イライラとした口調でまだ口答えをする奴に、俺は周りにある木を指さしながら、
【だからだよ、いきなりこんな木ばっかの所から車転がして、壊したいか? なら、俺は止めねぇけど。とりあえず運転の仕方を説明しながら、広いとこまで出してやっから、お前はそこからだ】
【はい、解りました】
俺の言い分にビクトールは渋々といった様子で、頷く。大体な、普段車をさんざん見飽きるぐらい見てる俺たち日本人だって、免許もらうのに合宿免許でも10日位はかかるんだぞ。ま、学科がない分、ずいぶんと日数は稼げるだろうが、ぱっと見て一回でできるもんじゃねぇよ。ましてやあの、宮本のドッペルだろ? ますます、時間がかかりそうじゃねぇか。ま、魔法で運転できりゃ、それもアリかも知んないけど、あいつ曰く、簡単な魔法を継続して使い続けるのは、大魔法を使うより体力(魔力?)が要るらしい。エリーサがマシューに化けていたとき、それに力を使いすぎて、他の魔法はいっさい使えなかったとも言ってたしな。運転習って、ガソリン作る方がずっと楽なんだと。
【まず、この鍵穴にこの鍵を突っ込んで、ここな、ここを右足で踏みながら右に回す。】
俺は説明をしながらエンジンをかけた。4ナンバーのポンコツのけたたましいエンジン音が辺りに鳴り響く。
【そしたら、このハンドブレーキっつーのキュッと一回上げ目にして下げる。ここまでは、良いか】
【はい】
続いて、道端から道路に出るためにバックして町外れに行く道中を説明付きで車を転がす。最初は余裕こいていた奴も、どんどんと数を増す自動車用語に次第に顔が引きつってきた。
そして、広い道路に出た俺はブンとアクセルを踏む。
【ひっ!!】
と、ビクトールの軽く恐怖におののく声が聞こえた。
【は、早くはないですか……】
【早いって、たかだか時速40kmだぞ。普段はこれの倍ぐらい出してることも多いぞ】
ま、ホントのとこそれは、違反だがな。そう言えば、こいつはエリーサと違って、まだ乗ったことはなかったんだっけか。
【大丈夫か、何ならもうコレを転がすのは止めるか?】
俺は、うっすらと脂汗まで流しているビクトールに向かってそう言った。
【いえ、美久も運転できるんですよね。なら、私だって出来るはずです。善処いたします】
ビクトールは握りしめた拳を震わせながらそう言った。宮本への対抗意識か? それより、エリーサに幻滅されないようにってほうが強いか。エリーサはまだ、宮本の方に惚れてるだろうからな。
俺は、ここでは俺だけが運転していて、エリーサは宮本が運転しているところを見たことがないと言わないことにした。
だからビクトール、お前死ぬ気で修得しろ(ニヤリ)
長くなりそうなので、分けます。