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稀代の魔術師  作者: 神山 備
第二部 ガッシュタルト
26/43

天使の休息 前編

あれから約10年後くらいのお話です。

ガッシュタルト城執務室-


(雪か……)

 ビクトールは目を通していた書類から顔を上げて窓の外を見る。温暖なガッシュタルトには珍しく、どうりで今朝から寒かったはずだと。

 まるで今のこの国そのままの天気だなと、ビクトールはこっそりため息をついた。

 ここの所、ミシェルの調子が思わしくない。元々彼が自身で体調管理ができるはずもなく、少しでも気分が良いと動き出してしまう。それでも 起きていられるのは隔日、いや2日おきになってきているのだ。

 魔法は万能ではない。外傷に対しては跡形も消してしまうほどの威力を発揮したりもするが、逆に内から弱っていく症例にはもどかしいほど役に立たない。加えてエリーサは第二子を妊娠中であり、王の体調も優れないため、ビクトールが政務を代行しながらフレデリック・クラウディア・ビクトールの3人が王と王子の二人を看ているという状況だ。

(それでも暖かくなれば……まだ、大丈夫なはず)

結果的に自分に暖かい家族を与えてくれた、花のような存在をまだ失いたくはない。それまで持ちこたえてほしいと祈るような気持ちで机に突っ伏した時だった。

 城の中庭から子供たちの歓声が聞こえてきた。ビクトールが立ち上がって窓の外を見ると、中庭で舞い落ちてくる雪を相手に転げ回っているのは、彼とエリーサとの第一子、アイザックと……ミシェルだ!

 中庭に飛んで出たビクトールを見つけたアイザックは、

「あ、ちちうぇー。雪だよぉ。きれいだよぉ、つめたいよぉ」

 屈託のない笑みを自身の父親に向ける。ビクトールは一瞬何故ミシェルを連れだしたのだと息子を怒鳴りそうになったが、アイザックはまだ3歳になったばかり、ミシェルに誘われればその事の重大さもわからず喜んで外遊びに応じるだろう。ビクトールはぐっと拳を握って、

「そうだね、とってもきれいだ。でも、寒いからもう入ろう、ミシェルもほら、お熱がでるから早く……」

努めて穏やかな口調でそう言ってミシェルの手を取ろうとしたが、ミシェルは

「イヤ、ザックとやくそくした。ゆきがふったらあそぶって」

と、最近の状態を考えるとあり得ないくらい俊敏に掴もうとした彼の手をすり抜ける。そしてアイザックと雪遊びの続きを始める。

(このままでは取り返しのつかないことになってしまう)

<Stop!!>

少し焦りを感じたビクトールは彼が嫌がるので普段は決して使わない拘束の魔法を発動した。だが、ミシェルはそれをまるで蠅でも追うかように周りの空気をかき回すと、その術を跳ね返してしまった。ミシェルには魔力はなかったはず、その彼に何故自分の術が跳ね返せたのか理解できないまま立ち尽くすビクトールに、ミシェルは今舞っている風花のように笑うと、

「ねぇ、さいごだから。いまだけ、おねがいビク」

と言った。

-さいごだから-ミシェルの言うそれが最期だからと脳内で変換されて、ビクトールはその途端、身じろぎもできなくなってしまった。まるで、ミシェルにかけた拘束が反射してビクトールにかかってしまったかのようだ。

 やがて、追って現場に駆けつけたフレデリックはその様子に、

「ビクトール、君は何をしている!」

と怒りを露わにして、ビクトール同様拘束呪文を唱えるが、やはり弾かれてしまう。

「一体、どういうことなんだ」

そう言ったフレデリックに黙ったまま頭を振るビクトール。

 言葉をなくしたまま大の男二人が立ち尽くす中、子供の晴れやかな笑い声だけが響く。

 やがて、ミシェルは満足気に、

「たのしかった。もうおへやはいろ」

と言った。

「えー、まだあそぶ」

とまだ遊び足りないアイザックに

「ぼく、ちょっとつかれたの。ねんねする」

とミシェルは返した。それを聞いてアイザックは、

「じゃぁ、ご本読んだげるね。ボク取ってくる」

そう言って先に城内に飛び込んでいった。そしてアイザックの姿が城内に消えた途端、ミシェルはその場に崩折れた。

「ミシェル!!」

それを合図に、フレデリックとビクトールが金縛りから解放されたかのように彼に駆け寄る。ミシェルの意識は既になかった。

 

一気に書き上げるつもりでしたが、何か書いている間にいろんな思いが錯綜して終わらなかったので、前後編に分けました。


で、次回の後編をもちまして、「稀代の魔術師」完結です。

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