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稀代の魔術師  作者: 神山 備
第二部 ガッシュタルト
17/43

象が踏んでも壊れない 1

 やがて、持ちにくそうにプリンを買ってエリーサが戻ってきた。実はビクトールは彼女にプリンを10個買ってくるように言ってあったのだ。

「ねぇ、本当に10個で良かったの? あたしがんばっても2個しか食べられないよ」

車に戻ったエリーサは日本のジャンボプリンとまではいかないがそこそこの大きさのプリンを見ながらそう言った。あの時、ヨシャッシャは2個食べても物足りなさそうだったけど。でも、もしビクが3個食べるのだとしても、あと半分余ってしまうわと、エリーサが思っていると、ビクトールが、

「エリーサ、食べるのは1個ずつですよ。残りはここに入れてください」

と、トランクから茶色い箱を取り出す。それまで見たことのない箱だった。

「彼らが火の魔道具を入れていた箱です。段ボールと言って、紙なのに象が踏んでも壊れないとか」

ふーん、とエリーサが言いながらがそこに8個のプリンを入れる。するとビクトールは、箱にだけアイスの魔法をかけた。プリンそのものにアイスを唱えてしまうとプリンが変質してしまうが、これならばそうはならないし、持っていった先でも冷たいまま食べてもらえる。これは実は、美久たちと入れ替わっていた時にいた治癒所の部屋にあった白い箱-冷蔵庫-の応用だ。

「婚約者のお宅に伺うのに手ぶらではね。それに、物を食べればお小言の一つくらいは減るかもしれませんしね」

家出してらっしゃったんでしょと、言われてエリーサの顔がひきつる。

「大丈夫ですよ、私も一緒に謝ってさしあげますから」

ビクトールは無言になってしまったエリーサの頭をなでながらそう言った。

 

 やがて車はガッシュタルトの城下町へとたどり着いた。無印の馬車は当然ながら城の入り口で衛兵に止められる。貴族たちの自家用の馬車にはたいてい家紋が施されているからだ。しかも、その馬車からは耳慣れない異音が聞こえ異臭までする。衛兵が警戒しないわけがない。

「怪しい奴、何者だ」

衛兵のリーダーは激しく窓ガラスを叩いた。その手がいきなり怪しい馬車の中に吸い込まれる。

「いったぁい!!」

すると中から甲高い少女の声がした。

「窓が開いたのぐらい気づいて手、引っ込めなさい!!」

そして、ちょこんと首を出したその人物の顔を見て、リーダーは蒼ざめる。

「え、エリーサ様!?」

それは行方不明中の自国の王女その人だったからだ。

「し、失礼しました!! ど、どうぞ」

一気に群がっていた衛兵たちが脇に離れると、車は何事もなかったように城内に入り、ビクトールは車寄せに車を止めた。一足先に降りたエリーサが、

「ひっ」

と、軽く声を上げて目線を下げる。それに気づいて、ビクトールもとりあえず降りると、そこにはクラウディア王妃殿下-つまりエリーサの母-がまさに仁王立ちといった状態で立っていた。

「た、ただいま」

エリーサは俯いたまま蚊の鳴くような声で母に帰宅の挨拶をした。クラウディアはそれに対してふっとわずかに口角を上げただけで返事はしなかった。そしてクラウディアは、続いて降りてきたビクトールに、

「ビクトール、久しぶりね」

と、声をかける。エリーサは母がビクトールと旧知であることを知って驚いて再び顔を上げた。







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