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稀代の魔術師  作者: 神山 備
第二部 ガッシュタルト
16/43

どっちが年上?

 ビクトールは順調に車を走らせ、美久がガソリンを作り置いてある(放置してあるが正解なのだが)場所、スイフトにたどり着いた。

 彼は魔法を使って軽々と(もっとも樽の中身は最初からは半分以下に減っているのだが)ガソリンの入っている樽を持ち上げてガソリンタンクに注ぎ入れる。その表情にはいつものような笑みがない。そして、

「有機物を地層に堆積させ、圧縮して時を進めて液状化させる。しかも、それを中身にだけ発動させる……Ston・Press・Still」

ぶつぶつとガソリン製作の手順をシミュレーションした後、

「ふう、よくもこんな込み入った複合魔法を考えつくものですね、美久は。これじゃ私にだって荷が重い。倒れるはずです」

とため息をついた。

「あのとき、日本語だからあたしは解らなかったんだけど、後でヨシャッシャに聞いたらそのガソリン? っていうものができるプロセスを忠実に再現しただけなんですって」

するとそれを聞いていたエリーサがビクトールにそう言った。

「『その物質ができあがるプロセスを再現』ですか。まさに『無知の知』ですね。自分の力量を知らないからこその暴挙だ」

「そんなに大変なのなら、とりあえずセルディオ様がトレントの森に戻ったら、車は使わない方が……」

「ビクです。エリーサ様」

だが、エリーサが大変と聞いて言いかけた言葉をビクトールは唇の前に指を指しだして遮ると、

「私の方をビクと呼んで下さるのでしょう? 違うのですか? じゃぁ、そんな他人行儀な事を言う唇は塞いでしまいましょう。もちろん私の唇でね」

と、言って口角を上げる。遠回しに言われている意味を理解したたエリーサは茹で蛸のように真っ赤になった。そして、

「じゃ、じゃぁビクもさ、様はなしにして」

と返すエリーサに、

「はい、解りました。では、お言葉に甘えて」

頷くが、その表情にはまだ含みがある。さらに、

「ですが、時々は間違えるのもいいですね」

と続けたビクトールにエリーサは首を傾げた。

「どうして?」

「そうすれば、あなたからお仕置きしてもらえるでしょう? ね、エリーサ様」

と、背中に羽を背負ったような笑みを浮かべる。もちろんその羽の色は黒だ。

「ビク!!」

「そ、そんなんで、あたしは絶対にお仕置きとかしないんだからね!」

と、しどろもどろで叫ぶエリーサに、ビクトールは

「遠慮なんかしなくて良いんですよ」

と、不適な笑みを浮かべている。

(あっちにもあたしのそっくりさんがいるみたいなことを言ってたし、ビクがあっちに連れてってくれないんなら、あたし自分で界渡りをして、ヨシャッシャの方のあたしと入れ替わっちゃおうかしら)

弱冠11歳のエリーサが思わずそう思ってしまったのも無理からぬことかもしれない。


 それから再び走り出した車はリルムにさしかかった。ビクトールは当然のようにリルムに寄ろうとする。

「ねぇ、ビク、リルムに寄るの? ダメよ」

「え? どうしてですか?」

「だって、前にコータロとヨッシャッシャが」

「ああ、あの火の魔道具の一件ですか。大丈夫ですよ、この車はもう馬車にしか見えませんし」

「違うわ、大事なこと忘れてない? ビクって……」

ヨシャッシャと同じ顔だから、というエリーサに、ビクトールは首先だけで頷く。

「ですが、ここまで来たんですから、Mom Puddingを食べなければ始まらないでしょう」

と言う。

「あたしだって、ホントは食べたいけど……そうだ、あたしだけが行けばいいんだわ」

口をとがらせてそう返したエリーサは、自分がそのとき大男に化けていたことを思い出して、顔を輝かせた。

「あなただけに行かせるんですか? 心配です」

「大丈夫よ、プリンを買うだけだもの」

「そうですか? じゃぁ、殿方からお声をかけられても絶対に返事なんかしてはいけませんよ。すぐに帰ってきてくださいね。それから……ああ、やっぱり私も一緒に行きます」

「ビク! すぐに帰ってくるから大人しく待ってて!!」

本当は一人で行かせるのは甚だ不本意だと言わんばかりにまくし立てるビクトールをエリーサは思わず怒鳴りつける。ホントにどちらが年上だか分からないわ、とエリーサがそう思っていると、

「それから、紐があれば買ってきてくださいね」

とビクトールが言った。

「紐?」

首を傾げるエリーサにビクトールは、

「決まってるじゃないですか、鮎川様が言っていた、『魔除け』を作るんですよ」

と、真顔で言う。魔除けってこの車の後ろにプリンの入れ物をくくりつけるっていう、アレ?

「買ってきません! もし、この先の町でご自分で買いに行ったりしたらあたし、即この車降りますからねっ!!」

エリーサは、それを聞くとそう言って、バタンと大きな音を立ててドアを閉めると、

「あたし、そのうち絶対に界渡りの呪文を修得してヨシャッシャの所にいくんだから!!」

とぶつぶつ言いながらリルムの町に入っていったのだった。

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