異世界からの訪問者はなにかが違うらしい。
そんな訳で、バーナビー神官長とアレックス王子に案内されて雲海を渡り、また門をくぐったら何故か地上に到着していた。
私たちが出てきた扉はどうやら神殿の祭壇の間にあるようだった。
だだっ広い部屋の、一段高い場所の壁にしつらえられた扉。
それがこの祭壇の間の重要物みたい。
「この扉は異世界よりの召喚者を求める場合にしか開きません。今回は国王の命により「神」を探すために異世界より勇者を招かねばならなかった為、この扉が開きました」
神官長のお言葉に私は閉じてしまった扉を見つめる。
「バーナビー神官長。一つお伺いしてもよろしいですか?」
「私でお答えできることでしたらなんでも」
「召喚された人は元の世界に帰ることができるのでしょうか?」
私の質問に神官長は少しためらった後告げる。
「私どもがサヤ殿をお呼びしたように、サヤ殿の世界からサヤ殿をお呼びする「声」がとどいたなら」
「そうですか……」
かなり予想をしていた答えだったので特に落胆はしない。
異世界トリップモノの小説や漫画では帰る手段はない。といわれるのは良くあることだし。
それに比べれば、ヒントがもらえただけでもありがたいほうだと思う。
要するに、元の世界とこの世界に何らかのバイパスを作ればいいわけだ。
多分、元の世界では今頃私と省吾さんが行方不明になったのが家族に伝わっているだろう。
そしてその足取りを辿るため、家族が奔走しているのも予想が出来る。
その結果、私が学校帰りに秋葉で鉱石ラジオのキットを購入したことも直ぐ突き止めるだろう。
であれば、あの兄たちのことだ。私が無事であればで電波を受信できる方法を考えていると直ぐに考えつくはず。
そうすれば向こうから呼びかけてくるのは間違いない。
まぁ、問題は異世界まで電波が届くかって事だけなんだけど…。
多分何とかしてくれると期待しよう。
「サヤ、迎えの馬車が用意できた。行くぞ」
アレックス王子の呼びかけに私は扉から視線を外し馬車へと向かった。
「わぁ~~……綺麗な町並みですね」
神殿は郊外の高台にあったのだが、そこから王宮まで向かうまでに見えた風景は絶景としか言いようのないものだった。
右手遠くに紺碧の海、左手に山を背後にして王宮が建っている。
王宮と海の間に広がるのは城下町。
馬車が走る道は丁寧に均されていて、馬車に乗っていてもそれほどガタガタはしない。
まもなくして入った城下町の大通りもきちんと整備されているようだ。
…まぁ、その分裏道に問題があるのかもしれないが表向きはとても清潔である。
街の建物は白壁を基調とした平屋建ての建物が多い。
二階、三階建ての建物は城に近づくと増えてくるという感じだ。
お約束に洩れず城に近い方が身分階級の高いものの屋敷になるということだろう。
そんな街並みを抜け、いよいよ城内の敷地へ入る。
とはいえ、城門をくぐってから実際城の車止めまでは優に20分はかかっただろう。
ようやく馬車を降りたときにはちょっと足元が揺れていたのは仕方ない。
「ほら、掴まれ」
「あ…、ありがとうございます」
そう言って一足先に馬車から降りたアレックス王子が手を差し伸べてくれるので遠慮なく手を借りる。
「「「お帰りなさいませ、アレックス様」」」
私が降りるのと同時に並んで出迎えをしていたメイドさん’Sが挨拶をする。
「ああ。エレーナ」
「はい」
エレーナと呼ばれた女性が一列に並んでいたメイドさん'Sから一歩前に出る。
「こちらが召喚の儀に応えてくれた方だ。名前はサヤ。身の回りの世話を任せる。不自由の無いように」
アレックス王子の指示にエレーナが私の前に来て左拳を胸にあて、軽く膝を折った。
「ようこそお越しくださいました。私は女官長のエレーナと申します。この度サヤ様の身の回りのお世話をさせていただきます。そしてこちらの者が」
エレーナが振り返ると並んでいたメイドさん’Sから新たに3人が進み出ると同じように礼を取る。
「左からヴァリーリア・シーラ・メリッサです。彼女らが部屋付となりますので、何かございましたらお申し付けください」
部屋付の侍女といわれたヴァリーリアは緋色に近い燃えるような赤毛に緑の瞳。ちょっとつり目気味の顔立ちは一見きつそうに見えるが、その瞳の中には優しさが見て取れた。
「ヴァリーリアと申します。心を込めてお世話をさせていただきたいと思いますのでよろしくお願いいたします」
シーラは薄い金髪に茶色の瞳。ヴァリーリアとは逆に少し目じりが下がっているのが可愛い。見た感じ侍女3人の中で一番年下のようだ。
「シーラです。精一杯頑張って勤めさせていただきますっ」
そしてメリッサは薄い水色の髪に青い瞳。3人の中で一番落ち着いた感じがする。
「初めまして姫君。わたくしはメリッサと申します。部屋付侍女兼女官見習いです。至らぬ点がありましたらお申し出いただけますようお願いいたします」
どうやら王子が私のために用意してくれた部屋には女官や侍女さん(こちらではメイドとは言わないようだ)がついて世話をしてくれるらしい。
このあたりも身分の保証の一貫なのだろう。
一応、王子が賓客として招いたということなのであまりびくびくと挙動不審では王子の格を下げてしまうかもしれないので高飛車になり過ぎないよう気をつけて私も挨拶をする。
「丁寧な挨拶をありがとうございます。篁 爽香といいます。こちらのことはわからないことばかりですので色々とご迷惑をおかけしてしまうかもしれませんがよろしくお願いします」
ニッコリと笑い、軽く膝を曲げ、膝丈の制服のスカートの裾を軽くつまみ腰を落とす。
本来は裾の長いドレスでやらないと様にならない礼のしかたなのだがこの際それは言わないお約束ということで。
この世界の挨拶はいくつか見たけれど、どうやらどれも身分の高い相手に対する最高礼のようなので「伝説の人」という最高級の身分で呼び出されたらしい私がするのはおかしいだろうと判断だ。
姿勢を戻し、侍女さんたちを見れば全員がうっとりとした目で私を見ている。
あれ?何か間違ったことしたかな?
周囲の様子がなんだか異様なので慌てて神官長を見るとその神官長すらちょっと目を見張って見つめているではないか。
「あ、あのバーナビー神官長?私、何か変なこと致しましたか?」
小声で問いかけると神官長がハッと我に返ったふうに瞬きをする。
「あ…い、いえ、なんでもありません。ええ、なんでもないのですよ」
そういった神官長の顔がちょっと赤かった気がするのも気のせいなんだろうか?
「で、では殿下は陛下に帰還のご挨拶とサヤ殿のことをご報告に行かねばなりませんね。エレーナはサヤ様を部屋までご案内をお願いします。……サヤ殿、また後ほどお伺いいたしますのでこの場は失礼致します」
少し慌てた雰囲気の神官長は王子をせきたてるように席を外し、私はエレーナさんの案内にしたがって部屋へと移動することになった。
亀の歩みの進みですみません・・・。
でも爽香が魅了の魔法を使ったわけでもないのにあの神官長が赤くなってます(笑)
これから誰を誑し込んでいくのかちょっと不安です。
---------------------------------------------------
2012.6.25 誤字などの修正
神官長のアレックスへの呼び方を王子から殿下に変更