神官様はお目付け役?
「別に一生神殿に拘束するつもりはありませんよ?」
不意に掛けられた声にビックリして皇子の背後を見ると洞窟内で膝を折っていた白いローブ姿の男性が立っていた。
「お初にお目にかかります。私はエフェノリア国神官長、バーナビー・ルーンと申します。異世界よりお越しくださいました姫君、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
片膝をつき、左拳を軽く胸に当てるのがこの国の礼儀なのだろうか?
それでもすらりとしたバーナビーが丁寧に挨拶をしたので爽香も素直に挨拶をする。
「篁 爽香と申します。サヤとお呼びください」
「サヤ様、ですね。私のことはバーナビーとお呼びいただければと思います」
「こんなやつ、バーニーで十分だ。バーニーで」
ボソッと呟いた王子にバーナビーがニッコリと振り返る。
「公式の場でその名はお呼びにならないように、とあれほど注意いたしましたのに未だに覚えられないのでしょうか?」
ゴゴゴゴゴ………と書き文字が背後に浮かびそうな雰囲気でバーナビーが立ち上がれば未だ座り込んだままだった王子が無意識に後ずさる。
あ、それ以上後ろに下がると落ちるんじゃ…
まずい。とおもって手を伸ばしたが、何故か王子の手は雲海を突き破らず床があるかのように浮いていた。
「え…?」
思わず声が出てしまったのをバーナビーが聞きとめて振り返る。
そしてアレックス王子の浮いた手と引きとめようとした私の手を見て納得したように軽くうなずいた。
「ああ、殿下が何故雲海に落ちないか疑問なんですね?」
「はい。先ほど私が手を出した時は普通にすり抜けてしまいましたので…」
「未知のものに対して確認して無防備に行動しないのは賢明な判断です。確かにこの雲海はそのままでは全てを通過させてしまうただの雲です」
言いながらバーナビーは服の隠しから小さな青い石のついた首飾りを取り出して私の手のひらに置いた。
「この石は特殊な結界を張る魔石です。これがあれば雲海の上に乗ることも可能なのですよ」
渡された首飾りを見ながら疑わしげな目を向けてしまったのは仕方ない。
こんな小さな石一つで宙に浮けるなんてそれどこのラピ○タ?って考えてるのは自然な流れだよね?
私の疑いの目にバーナビー神官長は苦笑いすると、自分の服から同じような石のついた飾りを見せてから雲海の上に足を踏み出す。
するとその足元には床があるかのように普通に雲の上に立っているではないか!
ふと見れば先ほど逃げようとしていた王子も雲の上にちゃんと立っている。
「サヤ殿、改めてお願いを致します。詳細のご説明とそれを知っていた上でわが国を助けていただけませんでしょうか?」
「あ、ああ、そうだな。サヤの身柄はオレが保証する。エフェノリア国の賓客として招待するのでまずは王宮へ来ないか?」
二人の説得に私は暫し考えた後、とりあえず詳しい説明を受けるために王宮へ行く旨を承諾したのである。
しかし、平和な土曜の午後、せっかくの省吾さんとのデートタイムがなんでいきなり異世界トラベルのスタート地点になってしまったのでしょう。
それに突っ込んでる暇がなかったのでスルーしてしまったけど、どう考えてもこの世界で話してる言葉って日本語じゃないよね?
海外赴任中のお父さんや一の兄が大学の専攻で世界各地の遺跡とか文明を研究してるせいでうちの家族はわりと外国語に精通してるとは思うのだけど、異世界じゃ外国語が出来ても関係ないよね。
まぁ、文字はまだ見てないので読めるかどうかはわからないけれど、とりあえずリスニング・ヒアリングに不自由しないのはありがたいことです。
あとは、どうやら怪しげな魔術っぽいものもこの世界にはありそう。
結界張れる石なんて現代日本には存在しないと思うし。
ああ、あとは宗教問題もあるのか…
現代ですら宗教はデリケートに扱わなきゃいけない分野だからあまり首は突っ込みたくないんだけどなぁ。
あ、ちなみに篁家は基本的に無宗教です。
でも、家訓はあります。
「一人では決して生きてはいけないのだから、自分を生かしてくれる全てのものに感謝を」
これは食べ物や環境、人とのつながり、全てを指していると思うの。
だからと言って感謝するだけの受身じゃダメ。
ちゃんと自分からも動いて還元しなきゃいけないとお母さんから昔から言われてきた。
全く持ってその通りだと思う。
だから王子たちがこの世界で私の身を保障してくれると言う申し出に対しては感謝してその恩は返すのはやぶさかではない。
だけど、いきなりこんな異世界に呼び出されたことに対してはきっちりと落とし前をつけてもらわないとね。
「目には目を。歯には歯を」
いい言葉じゃないけど、実は裏家訓だったりする(苦笑)
はぁ、それにしてもなんだか省吾さんを探すのに問題山積みだなぁ。
早く探して家に帰りたいものです。。
次回からは王宮などが舞台になります。
多分、登場人物も増えるはず。
あまり多くなると自分の首を絞めそうなので大風呂敷を広げすぎないように気をつけたいと思います(苦笑)
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2012.6.25 神官長のアレックスへの呼び方を王子から殿下に変更