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閑話 アレクの闇

大変お待たせしました。今回はアレク中心です。

昨夜、魔物の襲撃があった。


皆が慌てる中、アレクは真っ先に爽香の姿を探す。

だが、いるはずのヴァレリアたちの傍にその姿はなかった。



「なんだこいつら?!いきなりどこから沸いて出やがった?!」


「口より先に手を動かせクレイグ!アレク様!!」


カーティスの怒号にアレクが素早く指示を下す。



「バーニー!結界を!シーラ!ギル!何があっても結界を維持しろ!カーティスとクレイグはヤツラを食い止めろ!」


「アレク様!サヤがいませんっ!」


メリッサの悲鳴に頷き、アレクは一人別方向に走り出した。


「サヤは俺が探してくる!戻ってくるまで誰一人として欠けるなよ!」


背後でバーニーが呼んでいたが、アレクはその声に振り返ることなく暗い森の中に姿を消した。



「くそっ!サヤのやつこんな非常時にどこにいったんだ?!」


思わず口を付いて出てくるのは悪態だが、その表情に余裕はない。

昨日の午後、皆が自由行動をしていたときに爽香は一人宿に残って何かしていたという。

アレクを含めて全員が久しぶりにゆっくりした時間を満喫していたのでその日の夕飯時に爽香の様子が妙に高揚していたことも不審には思わなかった。


そんな中、道を間違え野営することになった今日の夕食時にサヤの様子が変なことに気づいたのは偶然だった。


食後の片付けは男性陣が中心となりさっさと進めていたのだが、ふとアレクが顔を上げると傍にいた爽香が胸元に何かを隠すところだったのだ。


その時は何も思わなかったのだが、アレクに何かを見られたと感じた爽香がそそくさとその場を離れるのが妙に癇に障った。


『あいつ、何を隠してるんだ?まさか、ショーゴとかいうやつの手がかりでも見つけたのか?』


元の世界で爽香の恋人だったというショーゴ。

爽香を召喚した(よんだ)時、一緒にこっちに来たのではないか。

ショーゴのことを話す爽香は本当に嬉しそうで、そいつのことが本当に好きでたまらないという気持ちが溢れている。


その姿を見るたびにアレクは心の奥が疼くのを感じて仕方がなかった。






自分の第一王位継承者という立場。

姉妹のほかに年の離れた弟も一人いる。


いつ帰れるかわからない今回の旅に足かせの多い立場でも参加できたのは弟のおかげでもある。


『俺に万が一のことがあってもネッド(おとうと)がいるから、国は、王家は問題ないものな』



爽香を探す森の中には野営地を襲ったのと同じような魔物が複数いた。

襲ってくる魔物を切り上げ、なぎ払い、突き倒しながらアレクは更に進む。



今年5歳になる第二王位継承権を持つ弟のエドウィン。

常に兄に憧れ慕ってくる誰からも愛される少年。

他国に嫁いだ姉妹たちも、両親も、家臣たちからも可愛がられている。


無論アレクが愛されていなかったわけではない。

それでも幼い頃からこの国(エフェノリア)を継ぐ者として周囲から一線を引かれていたという気持ちは消えるものではなかった。


望めば何でも手に入っただろう。

だが、常に「国は国王のものではない。国王たるものは国のために在れ」と教えられ育てられたが故にむやみに何かを望むことは出来なかった。


必要なものは全て周囲にあった。

家族も、友人も、教師達も。

だが、それは全て「次期エフェノリア国王」の為に用意だてられたもの。

アレクが心を許していられるのは乳兄弟のバーニーたち兄弟だけだった。

しかし、それさえも与えられたものといえないだろうか?


『何でも持っているか……俺は、俺だけのものなんて持ってなかったんだ』


森を進むほどに魔物の数が増える。

手に持つ剣は数多の魔物の命を散らしたため鮮血に染まり、アレクの服も返り血で黒く染まりつつあった。


一匹魔物を屠るたびに目の前の闇が深くなっていく気がする。

既にアレクは自分がどこを目指して進んでいるのかすらわからなくなっていた。




『『俺は、俺だけのものが欲しかったんだ………』』




『与えられたものではない、望んだのは()を見てくれる存在』


 『ヒトリハ イヤダ』


王子(肩書き)ではなく、アレックス()を欲してくれるもの』


 『サビシイ クライ』


アイツ(サヤ)は最初から肩書きなんて気にしてなかった。俺が誰であろうと気にしなかった。……そんなやつは初めてだった』


 『アタタカナ ヒカリ?』


『だから気になった。気が付けばあの黒髪も、瞳も、その肌も。全てが惹きつけてやまなくなった』


 『ホシイ ホシイ ホシイ』


『サヤが別のヤツに気持ちを向けていても俺にその気持ちを変えさせればいい。俺は、サヤが欲しい。……邪魔をするやつは排除してでも』


 『ミツケタ ミツケタ ワレノ………!』




『『サヤは俺の(ワレノ)ものだ』』




ガサリ


低木の茂みの向こうから声が聞こえた。


「「サヤ?………誰と話しているんだ?」」



自分ではない誰かに向かって爽香がうれしそうに話している。

そのことがアレクの心をどす黒く塗り替えていく。

心が黒く塗りつぶされたとき、アレクの意識が途切れた。






次にアレクが気づいたとき、既に周囲は明るくなりつつあった。

周囲には魔物の気配も爽香の気配もなかった。



「っ……いってぇ……?」


倒れ伏していたことに疑問を覚えつつも立ち上がろうとしたアレクだったが、鳩尾に鈍く残る痛みに思わずまた座り込んでしまった。


「いったい、何があったんだ?」


目の前の立ち木には何故か自分の剣が刺さっている。


「えーと、確か魔物の襲撃があって、俺はサヤを捜しに森に入って……なんだ?何かあった気がするが思い出せん…。なんで俺の剣が木に刺さってるんだ?」


いくら考えても思い出せない。

とりあえず剣を抜くと付いた血糊を拭ってから鞘にしまう。


「アレクー!無事ですかっ?!」


「ここだ!バーニー」



がさがさと低木を掻き分けながら近づいてくるバーニーに声を上げて自分の位置を知らせる。


「無事ですか?!」


「ああ。俺は問題ない。皆はどうした?」


「全員無事です。サヤも戻ってきています」


「そうか…。見つからなかったから心配していたんだが。とりあえず戻るぞ」



バーニーと共に戻る途中でカーティスとクレイグに会う。

二人とも慣れない魔物相手で苦労したらしくいくつもの傷を負っていた。


「アレク様、バーニー様ご無事でしたか」


「ああ、大丈夫だ。俺たちは念のためこの周囲を一周してから戻るからお前たちは先に戻って傷の手当てをしてもらえ」


「わかりました。申し訳ありませんがよろしくお願いいたします」


普段なら見回りなど自分たちでやるといって引かないカーティスがおとなしく引いたところを見るとこちらの戦闘はかなり激しかったようだ。



「バーニー、このあたりに魔物が出るなんて聞いたことあったか?」


「いいえ。初耳です。そもそもこの大陸自体に魔物の数はあまり多くありませんしね。先日の盗賊の件といい今回の襲撃といい何か不穏なものを感じますね」


「………原因に何か思い当たるものは?」


「いえ…。ただ圧倒的な力の残滓を感じます。われわれとは桁違いの力なのはわかりますがそれ以上のことは…」


「それは魔物の力ということか?」


「違いますね。こんな純粋な力をやつらは持ちません」


きっぱりと言い切ったバーニーにアレクは片手を顎に当ててしばし考え込む。



盗賊の腹から生えた謎の腕。

いるはずのない場所に突如現れた魔物の群れ。

桁違いの力を持った謎の存在。


どれもこれも今までの常識とは大きくかけ離れている。



「それよりもそっちはどうしたんですか?」


「どうしたとは?」


唐突なバーニーの言葉にアレクが思考を切り替えて聞きなおす。


「サヤのことです。探しにいくといって勝手に飛び出しておきながらサヤは一人で戻ってきましたよ?何があったんです?」


「何もない。というか、森の中で俺が会ったのは魔物だけだ。サヤには会ってない。……全くあいつにも困ったもんだ。一人で勝手に離れるなんて何かあったらどうする気なんだ」


ぶつぶつと文句を言うアレクに対してバーニーが「それを言える立場ですか」と呆れたようにつぶやいた。




日が完全に地平から離れた頃漸く周囲の安全を確認し終わり、アレクとバーニーは爽香たちがいる野営地へと戻ってきた。



カーティスとクレイグはヴァレリア・メリッサから治療を受けており、爽香は火のそばでお茶を入れているようだった。


「おかえりなさーい。まだ何かいそうでしたか?」


「いえ、もう魔物の姿はありませんでした。とりあえず一難は去ったというところでしょうね」



クレイグの問いにバーニーが答えるのを聞きながらアレクはまっすぐ爽香に近づく。

爽香の姿を目にした途端アレクの中で何かもやもやしたものがムクリと頭を上げた。



「あ、アレク。あの、お疲れ様でした。その、夕べは勝手にいなくなってごめんな…」


パンッ


乾いた音が響く。

誰もが一瞬息を呑んで叩いたアレクと叩かれた爽香の姿を見つめる。


「どこに行ってたんだ…!どれだけ探しても見つからなかった(・・・・・・・・)から心配したんだぞ!」


 『ミツケタ ミツケタ』


「ごめんなさい……どうしても一人になりたかったから……」


うつむいて小さな声で釈明する爽香の姿にアレクは心が痛くなる。

こんな風におびえさせるつもりではなかったのに。


アレクは爽香をぎゅっと抱きしめると安心させるように優しくささやく。


「本当に、心配したんだぞ……。何かあってからじゃ困るんだからな」


 『ソウ ワレノ 巫女。 オマエニ ナニカ アッテハ コマル』


「トイレに行くんだったらそう言ってから行け。俺が近くで護衛してやるから」


アレクのデリカシーのかけらもない発言を聞かされた爽香の鉄拳が炸裂したのは次の瞬間のことだった。



「デリカシーのない人って、さいっっっってい!!!!!!」



乙女の秘密に付き合うなんて!と最低男呼ばわりされたアレクの意識は再び闇へと沈んだ。









 『イセイガ ヨイナ ワガ 巫女ヨ』

 『イマハ オマエヲ マモロウ』

 『ダガ トキガ ミツル トキ』

 『オマエ ハ ワガ モトヘ』


 『ケッシテ ニガシハ セヌ』

ネッドはエドウィンの愛称のひとつです。ちなみに他の家族はエディと呼ぶためネッドと呼ぶのは家族ではアレクだけです。

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