流石すぎるよ、おにーちゃん。
休憩日の一日を各自ゆっくり過ごした後、翌日にはアスフェンの王都目指しての旅が再開された。
みんな気分転換が出来たおかげか足取りも結構軽そうだ。
「そういえば昨日わたしたちが部屋に帰ってきたときサヤ寝てましたねー。体調悪かったんですかー?」
「ちがうよー。あまりに天気がよかったから窓際で日向ぼっこしてたらうとうとしちゃってね。そのままだと危ないかなーと思ってベッドに転がったらうっかり爆睡しちゃって」
あははは…と笑ってシーラに誤魔化したけど不自然さは無いかな?
携帯のおかげでなんとか元の世界の家族と連絡が取れるようにはなったけど、そのコトはまだみんなには内緒にしてあった。
ああ、その後携帯は異常発熱してたから慌てて裏蓋あけたら案の定電池の色が変わってました。
というか、入れておいた石のかけらと完全に融合してたんだけどこれ本当に大丈夫なのかな…?
それから気になっていた携帯の充電に関してですが言霊能力に期待して「フル充電になるっ!」と目いっぱい期待をこめて言ったら本当にフル充電になりました。
チートパネェです。でもまぁ、おかげで充電切れの危機からは救われましたけどね?
あと異世界と繋がるのであれば同じ世界にいるであろう省吾さんの携帯にもつながるかと思ってかけたのですが残念ながら「現在電源が入っていないか電波の届かないところにあります」といわれてしまった。
さすがにそこまで甘くはなかったようです…。
「まったく。誰かさんじゃあるまいし寝てばかりでは困りますからね?」
「おい、バーニー。まさかその誰かさんってのは俺のことじゃないだろうな?」
「おや、お心当たりがおありですか?」
バーニーの突っ込みにぐうの音も出なくなったアレクに皆思わず笑いを零す。
最初の頃はやっぱり王子様とか神官長とか目上の人に対して四角四面の態度をとっていたみんなだけど、最近はようやく柔軟な態度になってきたみたいだなぁ。
「まぁいいじゃないっすかぁバーニー。アレクだって起きてる時はちゃんとあるんすからー」
…一部、砕けすぎてる人もいるっぽいけどねー(苦笑)
そんな感じで移動してたのだが、気が付くと大きな湖のほとりにぶつかった。
「あれ?こんなところに湖なんてあったか?」
「おかしいですわね?次の街へ向かうまでには無かったはずなのですが…?」
ヴァレリアとメリッサも首をかしげて懐から地図を取り出しバーニーたちとなんだかんだと確認した結果、どうやら街を出発して直ぐに道を間違えたことが判明した。
「困りましたね…。この近くに村などは無いようですし、引き返しても元の街に戻る頃には閉門の時間になっているでしょうし……」
「では仕方ありませんね。今夜はここで野営をするしかないでしょう。まだ日暮れまでは暫く時間がありますし、クレイグと共に安全そうな場所を探してまいります」
「ああ、悪いな。頼んだぞカーティス」
アレクに向かって一つ頭を下げるとカーティスはクレイグを連れて野営に最適な場所を探しに行ってしまった。
ということは、おお、今夜は旅が始まってはじめての野営なのかー。
まぁ、考えてみれば今までが毎日小さい村や街であっても宿が取れていたって方が奇跡的なんだよなぁ。
情報収集の関係があるからその方が合理的ってのもあるんだけど。
でも普通に考えればファンタジー世界で旅をする勇者といえば野営が付き物だよね?
ちなみに私は外で寝ることに別に抵抗は無かったりする。
小さな頃から家族でキャンプとかよく行ってたし、二の兄がある意味サバイバルな野生児だったので山も海も川も遊び場として慣れたものなんです。
湖岸から湖を眺めると水も綺麗だし、魚影とかも見える。
うん、これなら魚釣って夕飯の一品にしてもいいだろうなー。
そんなことを考えてる間にカーティスたちが戻ってきて、この先に少し開けた野営に都合のよさそうな場所があるとのことだったのでみんなでぞろぞろと移動をした。
そんなこんなで夕飯は携帯食料と湖で釣った魚とカーティスが広場を見つける途中でしとめたというウサギ肉という野営にしては豪華なものだった。
もちろんこの近辺に危険な動物が居ないことは既にバーニーたちが調べてあったが、念のために虫除け動物避けの結界を張ってもらいその中でみんな固まって寝袋で寝ることになる。
夜が明けたら着た道を戻り、王都へ向かうことになるため食後は早々に寝ることになったのだが、私はみんなが寝静まった頃そっと寝袋を抜け出して少し離れた場所までやってきた。
左右を見渡して誰も何も居ないことを確認すると荷物から携帯を取り出して左の小指に指輪をはめる。
昨日初めて使ったときにわかったのだがどうも携帯にいれた石と指輪の石が共鳴して通信状況が変わるらしい。
なので左手で携帯を持つ癖のある私としては左手に指輪をつけておくと共鳴が一番出やすいらしく電波状況がよくなるのだ。
はめる指が小指なのは深い意味はありません。単純にサイズ的に一番そこがぴったりしてたからです。
とはいえ、常日頃から指輪をはめているわけではなく、普段はひもを通して胸元に隠してある。
そしてその指輪が夕飯を食べているときにほんのり光ったのだ。
そして前回と同じように「意志」をこめて電話をかける。
「あーあー、こちら爽香でーす。どうぞー」
『さーや?聞こえる?こちら晴明。どうぞ』
「せーちゃん?どうしたの?そっちからかけてこれるようになったの」
『ああ。でも詳しい仕組みは略。とりあえずさーやの指輪につけた石の片割れがやっぱり反応するみたいだからこっちでもその石を電話に組み込んだ。なんとかつながるもんだね』
「さすがせーちゃん。一日で作っちゃうなんて凄いね!」
『さーやには早く帰ってきてもらいたいしね。というか、こっちでは前回さーやから連絡貰ってから既に一週間たってるぞ?おかげで兄さんとか母さんとかがやきもきしてる』
あれ?また時間がずれてるらしい。これじゃ元の世界に戻ったときに何日経ってるかわからないなぁ・・・
『とりあえず学校の方には暫く休むって連絡入れたみたいだぞ。父さんのところに行ってるってことになってるから』
「了解。どっちにしろ早く帰らないとだねー。それでせーちゃんのことだから連絡が付くかどうかだけで試したわけじゃないでしょ?どうかしたの?」
私の問いかけにせーちゃんが苦笑したっぽいのが感じられる。
『電波が通るなら映像も届かないかと思って考えてるんだ。そっちに映像を写せるような仕組みってあるか聞こうと思ってね。それがあればちょっといいこと考えたんだ』
うーん、映像を写すものかー。
この世界の文明って地球で言う18~19世紀ぐらいなんだよね。
馬車とかはあるけど電気もなければ当然自動車とかの工業製品なんてない。
代わりに魔法が発達してるので魔法の使えない一般市民でも呪符などをつかったマジックツールでそれなりに豊かな生活をしている。
ちなみに空間転移の魔法もあるけど、基本的に膨大な魔力を使うので個人でその魔法を使える人はほとんど居ない。
その代わりに固定魔方陣が各地に設置されていて誰でも一定料金を払えばそれを使って移動できる仕組みになってるらしい。
多分他の「神」探してる人たちは使ってるのかもしれないけど、私たちは情報を細かく集めたいので使わないことにしている。
「映像ねぇ…。それってやっぱり電波受信して接続できないとダメだよねぇ?」
『まぁそうだね。僕の考えでは最悪映れば何でもいいので鏡とかでもいいと思うけど?』
「何で?」
せーちゃんの意外な言葉に思わず首をかしげる。
『ほら、前回言ってただろ?言霊の力が使えるようになったって。だったら、その力を紙に書いて鏡とかの後ろに張り付けたら対応できるんじゃないかと思ったんだ』
「!!!!せーちゃん、それナイスすぎるっ!」
ガサッ
思わず大きな声が出てしまった瞬間背後の草むらが揺れた。
完全に油断してた私が驚いて振り返るとそこに居たのは。
「サヤ?………誰と話してるんだ?」
赤く染まった抜き身の剣を下げたアレクの姿がそこにあった。
せーちゃん再び登場。でもあまり出しすぎるとアレクたちの影が霞みそうなので出番控えめにしないとですね(苦笑)
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2012.6.25 無線機改め携帯に関する部分を修正。