魔法?いいえ、違います。
長くなったので分割しました。何でこう説明文的な文章になるのか本人にも謎です・・・orz
久しぶりに何も考えず泥のように眠った翌日。
今日は一日休息日に当てて、出発は明日にするということだったので私を含めてほとんどの人が寝坊気味の時間に起きて食堂に集合した。
「おはようございます、サヤ。だいぶお疲れだったようですね」
「あ。おはようございます、カーティス。遅くなってすみません」
「いえいえ。まだ起きてこない人もいますから大丈夫ですよ」
笑って言ったカーティスの言葉どおりまだ全員の姿は見えていない。
というか、食堂にいたのはカーティスとメリッサ、シーラの3人だけだった。
「あれ?他のみんなはもしかしてまだ寝てるの?」
「ちがいますー。バーニー様は神殿に出かけてますー。もうすぐ帰ってくる予定ですよ。ヴァレリアさんはギル君を連れて買い物ですー。こっちもそろそろ帰ってくると思いますよー?」
その言葉どおりのタイミングでバーニーとヴァレリア&ギルが戻ってきた。
「只今戻りました」
「おかえりなさーい♪」
3人が椅子に座るのとほぼ同時に気を利かせたメリッサの注文していたお茶がテーブルに運ばれてくる。
「バーニー、出かけていたけど、何か新しいことでもわかったの?」
「いいえ。特には。今朝は別件で神殿に出かけましたので。そのことについて食後にお時間をいただけますでしょうか?」
「……いいですけど?」
「ありがとうございます。……ところで、二人足りないようですがどうしたのでしょうか?」
「あー、アレクとクレイグなら…」
「おはよーござーっす~」
カーティスの言葉をさえぎるようにのんきな挨拶をしながらクレイグがようやく食堂に下りてきた。
「おはようという時間ではない気がしますが?騎士たるものがそのように弛んだ生活でよいと思っているのですか?」
起き抜けのクレイグとしては席に着くかつかないかのタイミングで始まったバーニーのお説教も右から左に抜けてしまっているようだ。
「朝から元気ですねぇ…バーニー様。せっかくのおいしいお茶が冷めますから先に飲みましょうよー。どうせまだアレクも寝てるんですし」
それを聞いたとたんバーニーの顔色が変わった。
「………まだ寝てらっしゃるんですか、あの人は………!」
背後にゴゴゴゴゴゴと書き文字が見えそうな勢いのバーニーがカタンと椅子から立ち上がった。
ちょっと失礼します、と言いおいてバーニーが食堂を出て行ってしばらくした後。
頭にでっかいたんこぶを作ったアレクが食堂に下りてきたが、誰もたんこぶについては言及しなかったのは仲間としての優しさだと私は思うんだけどね?
全員揃って朝食を食べた後、バーニーとアレクが泊まっている部屋に全員が集まった。
幸いにしてこの宿自体が一部屋ごとの部屋を広く取っているし、この部屋は二間続きのなので、9人の大所帯でも入りきることができた。
「それで、全員集めてのお話って何ですか?」
私に時間をとってほしいと言って、食堂ではなくわざわざ部屋に戻った上で全員を集めて話をするというのだから相当重要なことなんだろう。
私に聞かれたバーニーはまず部屋全体に防音の結界を張って中の音が外部に漏れないようにする。
ここまでするってことはなんだかやばいぐらいの話なのだろうか?
「わざわざ多重結界張ってまで音漏れを防止するなんてずいぶんと気合が入ってるが、そんなに機密事項なのか?」
たんこぶを冷やしつつ言うアレクの姿は正視しないようにするみんなも同じ疑問は持っていたようだった。
「そうですね。ある意味機密事項だと思います。まず確認しますが、昨日の一件で盗賊を捕らえた魔法は誰が使ったか皆覚えてますか?」
「バーニーじゃないよな?捕縛の詠唱や魔法の波動は感じられなかったぞ?」
「僕も使ってません。シーラと防御魔法にかかりきりでしたから」
「わたしも使ってませんよー。あー、でもあの時サヤが何か呟いてた気はしますけど…」
「あら、でも同じ結界内にいた私たちにも魔法特有の発動波動は感じられませんでしたわ。ヴァレリアも感じなかったでしょう?」
「ええ。だけど、男たちが一斉に動きを止めたのは間違いない。それはみんなも目撃してるんだし」
「その上あんなにいい天気だったのにいきなり複数の落雷があったぜ?それも意図して狙いを少しずらしたかのようにあいつらの脇に落ちた」
「盗賊にしてみれば動けないところに追い討ちですからね。ただ捕まえた中に魔術士もいましたがその者たちも誰一人として戒めを解けなかったのは確かに気になるところですね」
全員に一通り意見を述べさせた後、バーニーが話し出した。
「私もあの時魔法発動波動はまったく感じませんでした。感じたのは純粋な力と圧倒的な意思。この世界において魔法が発動するときには必ず波が生じます。その波を作らずに魔法が発動させることなどできるはずがないのです」
一度言葉を切ったバーニーがひた、と私をまっすぐに見つめている。
別に悪いことをしたわけじゃないのになんだか背中がむずむずするような気がして居心地が悪いなぁ。
「この街の神殿を経由して北の総本山に訪ねました。『魔法発動波動なしで魔法を使える存在はいるか?』と。その回答は『神および神の眷属のみ使うことができる』とのことでした。…サヤ、あなたは昨日いったい何をしたんですか?」
何をした、と聞かれても困る。
だって私は魔法なんて使えない。というか、日本人のほとんどは魔法なんてものは使えないだろう。
もしかしたらこの世界に呼ばれたときに「特別な力」とやらをおまけでつけてもらえたのかもしれないけど、本人的に自覚がないからなんともいえない。
ただ、ふざけるな!と思ったのは確かだ。あいつらは私たちを慰み者にした挙句に売り飛ばすと堂々と言ってのけたのだから。
だから前に一の兄と三の兄教えてもらったとおり『言葉』に強い意思を込めた。
『言霊』
一の兄が大学で研究している世界各地の古代言語においても言葉が力を持つと考えている人々がいたことはわかっている。
三の兄が趣味で調べていた言霊信仰は日本に古くから伝わっている。
『人の口から出た言葉は意味を持ち、力を持つ。だから悪い言葉はなるべく使わないようにね?』
『強い言葉は強い意思を持つ。逆に強い意志を持って口にした言葉は力を持つ。さーやなら意味はわかるね?』
兄たちの忠告に従い今まで悪い言葉は気をつけて言わないようにしてきた。
でも、昨日の男たちは今まで生きてきた中で初めて許せないと思った。
私だけでなく、みんなを貶めることを言ったのだから。
だから初めて『言葉』に『強い意思』をのせて言ったのだ。
2012.6.25 微修正