はじめての たたかい
今回本文中に残酷な描写があります。だめな方は飛ばしてお読みいただくことをお薦めします。
とりあえず、エフェノリアの国境までは恙無く移動できた。
国境の検問所ではバーニーが用意した全員分の出国許可証と身分証明書(アレクとバーニーと私の身分は偽造だけど、国王陛下の印があるので証明書としては本物)を見せることでこちらも問題なく出国できた。
そしてここからが探索本番ということで、まずは最寄の街にて馬車を手放し必要人数分の馬を入手した。
しかし以外だったのはメリッサやシーラまでもが乗馬の腕がかなり良かったことだ。
逆にちょっと怪しいのがギル。
もちろん人並みには乗れるのだが、なまじ他のメンバーの腕が立つからかぎこちなさが目立ってしまうのだ。
「ギル君あいかわらず苦手そうだねー。わたしが一緒に乗ってあげようかー?」
「う、うるさいっ!別に一人でも大丈夫だっ!」
シーラとしてはからかうつもりとかではなく純粋な好意で言ったのだろうけど、ギルにとってはまぁ屈辱だろうねぇ…。
真っ赤になって言い返す姿を大人達は生ぬるい笑顔で見守っていたのがなんだかおかしかった。
アスフェンに入ってからの行動としてはまず王都を目指しながら各街にて情報収集。
でもそう簡単に「神」の情報が落ちてるわけではないので空振りも多い。
それでもめげずになるべく人の多い街に立ち寄って地味な聞き込みを繰り返していた。
そんな中、ちょっと気になる噂を耳にした。
なんでも「神」がアスフェンに降臨したとの噂が各国に広がったせいでかなりの数の捜索隊が現在この国にいるということ。
それから、その捜索隊同士が鉢合わせした場合はなんと潰しあいになっているというのだ。
「おい、バーニー。他の捜索隊とであった場合うちはどんな対応をするつもりなんだ?」
次の街へ続く森の中の一本道を並足で歩きながらアレクが問いかける。
この道は近道なのだがあまり幅が広くないから全員が警戒しながらの移動でもある。
「まぁ、できれば穏便に済ませたいところですね。なるべく無駄な殺生はしたくないですし」
そう言って私たち女性陣をちらりと見たからバーニーなりに気を使っているのだろう。
「オレもその意見には賛成だけどな。でも、問答無用でかかってきた時は、しょうがないよなっ!」
アレクは言葉と同時に飛んできた矢を剣で叩き落す。
続いて飛来する複数の矢はクレイグとカーティスが同じように叩き落した。
「ギルッ!シーラッ!」
「はいっ!」
「はーい」
バーニーの声にギルとシーラが素早く防御結界を張る。
「この結界からでないでくださいね~。だいじょーぶですー、バーニーとアレクはすっごく強いんですよー」
女性陣を守る結界を張ったシーラがいつも通りののほほんとした口調で請合う。
森から急襲をかけてきた集団は体格のよい男ばかり20~30人というところだろうか。
見た感じ探索のために組まれたパーティーというよりは単なる山賊かゴロツキにしか見えないのだけど…。
「こんなところを身なりのいいお貴族様が通るなんてなぁ。ちょっと俺らにもおこぼれ分けてもらえないかねぇ?」
にやにやと笑いながら一人が言えば他の男どもも同じような下卑た声を上げる。
ああ、なんか見てるだけでムカムカするヤツラねぇ…
こんな知性の欠片も感じられない話し方をするやつは大嫌いだ。
それでも一生懸命爆発しそうな感情を抑えている私の地雷スイッチを男は見事に踏み抜いてしまった。
「とりあえず有り金と、そこの女どもを置いていってもらおうか。4人とも見てくれはいいから俺らが味見したあと高く売っぱらってやるよ」
ブチッ
それは誰の切れた音だったか。
敵は全員が徒歩だけど何かしらの武器を持っている。
それに対してこちらは前衛が3人。(ヴァレリアも戦えるけど、彼女は最終防衛ラインなので通常は戦闘に参加しないと前もって決めてある)
魔法使い3人は肉弾戦には向いていないのであくまで遠距離攻撃もしくはサポートが中心。
パーティの半分が女子供と侮りきった男たちは真正面からバカ正直に突っ込んできた。
「風の戒め。逃れることは許さない」
シーラの作った結界の中心で立ちあがった私はまっすぐに突っ込んでくる男たちを見据えて呟く。
その途端男たちは何かに足を取られたかのように次々と転ぶ。
ぎりぎりと不可視の戒めに囚われた男たちは立ち上がろうともがくが指一本動かすことは出来ない。
「天よりの雷。己が罪を悔いよ」
何もなかった空から稲妻が囚われた男たちの脇に行く筋も突き立つ。
天よりの無数の光の矢は唯一つとして直撃するものはなかったが、それ故に男たちにとっては恐怖を倍増させることになった。
風に囚われた男どもを前衛組み3人が迷いもなく近づき確実に昏倒させていく。
バーニーも事態の異様さに逃げ出した男を捕縛の魔法で捕らえ引きずり出す。
短時間で仲間のほとんどを失った男は哀れなほど真っ青な顔をしていたが、女性陣を侮辱された男性陣に容赦と言う文字はなかったようだ。
「バーニー、こいつだけは許せない。殺ってもいいよな?」
捕縛魔法で動けないにもかかわらず、クレイグがその腕を更にひねり上げて地面に膝をつかせた男は良く見れば最初に暴言を吐いた男だった。
許可さえあれば直ぐに切り捨ててやるとばかりに剣を男の首筋に当てれば男は見苦しいまでの命乞いを始める。
「た、たすけてくれぇ!もう悪いことはしねぇ!神に誓ってしねぇ!だから…」
「黙りなさい。その舌はこちらの質問に答えるときのみ動かしなさい」
ぴしゃりと言い切ったバーニーの声に男の良く回る舌が止まった。
おお、バーニー、相当怒ってるようですね。
バーニーの考えてることが大体わかる私は止めることもせずにただ見守ることにした。
「こちらの質問は二つ。まず、お前の知っている「神」についての情報を全て正直に話しなさい」
「言う!言うから命だけはっ!「神」はアスフェンの北のほうに現れたって噂だ!あんたらみたいなヤツラが北に移動してったから信憑性はあると思う!」
「…チッ、どうやら出遅れてしまったようですね。何か考えなければなりませんか・・・。では二つ目の質問です。何故私たちを襲ったのですか?」
「俺たちは雇われただけだっ!今日この道をいく黒髪の女を連れたパーティーを痛めつけろって!くそう…騙されたぜ!何が女子供中心の弱いパーティーだよ!今度あったらあの赤毛の女、ぶち殺…」
途中から逆切れをし始めた男の言葉が急に途切れ、不思議そうな顔になる。
「え…?あ…?な、に…?」
不自然な体勢ながら己の腹を見た男はそこにあるはずのないモノを見つけた。
「手………?」
誰のものかわからない呟きが洩れた。
男の腹から生えているのは白く細い腕。
でも、背中側にいるクレイグの手は剣と男の手をねじり上げているから彼の手ではない。
私たちの見つめる中で「手」は握ったり開いたりを数度繰り返した後、何かをひねり潰すような仕草をして唐突に消えた。
後に残ったのは腹の傷など見当たらない男の死体が一つだった。
爽香の言霊が発動しました。そして想像するとグロい部分があったことお詫びします。