選択肢の行方
一夜明けて。
バーナビー神官長からの情報で選択肢が一つしかなくなってしまったことで非常に不本意なまま目が覚めた。
「お目覚めですか?サヤ様。ご準備が整い次第バーナビー神官長様がお迎えに来られるとの伝言を承っておりますのでお支度をお願いできますでしょうか?」
部屋の隅に控えていたメリッサさんが窓に近づくとさっとカーテンを開ける。
その途端眩しいほどの朝の光が部屋の中を照らした。
「ん…まぶし……」
思わず片手をかざしたが、メリッサさんはお構いなしで控えの間に声をかけている。
うーん、まぁ、出会ったのが昨日の今日だし急に仲良くなろうとは言わないけど、メリッサさんってちょっとつっけんどんだよねー。
そう思う反面、まだお互いのことを何も知らないのに一方的な評価を下した自分を反省する。
メリッサさんに限らず、侍女さんたちやエレーナさんには今後もお世話になるわけだから先入観を持たずに素直に向き合わないとね。
「サヤ様ー!本日のお召し物はこちらのドレスでいかがでしょうかっ♪」
嬉しそうな声で淡い青色のドレスを持ってきたシーラが私の前に広げる。
「えっと、今日は陛下との謁見があるんですよねっ。なのであまり派手すぎず、地味すぎず、尚且つサヤ様の御髪の色に映えるようにと選んでみましたー♪」
確かに、シーラが選んだドレスは水色よりも濃く、紺色よりも淡い絶妙な濃淡の色合いで、白ではない真珠色のフリルが上品なアクセントとして仕上げてある。
「シーラ、落ち着きなさい。サヤ様、おはようございます。お支度が終わりましたら隣室にて軽い食事のご用意も出来ておりますので」
「ありがとうございます。それと、メリッサさん、シーラさん、ヴァリーリアさんおはようございます。今日もよろしくお願いします」
私がベッドから降りて丁寧に頭を下げると3人とも動きが止まってしまった。
「あ、あの?」
頭を上げると困惑した様子の3人が居るので私も困ってしまう。
何が悪かったのかな?
そんな微妙な雰囲気を救ってくれたのはやはりベテランのエレーナさんだった。
「サヤ様、侍女に謙る必要はありません。逆にそのような態度を取られますと彼女たちが困りますのでおやめください」
「ですが、私のために動いてくれる人にお礼というのは悪いことなのでしょうか?私は自分のために誰かが何かをしてくれたならそのことに感謝の心を持つように。と教えられてきました」
別にそこまで謙ったつもりはないのだけど、多分この世界は厳格な階級社会なのだろう。
「もしかしたら私が皆さんに頭を下げたりするのはこの世界のマナーとは違っているのかもしれません。ですが、実際にお世話になっているのに感謝できなかったらそれこそ元の世界に帰ったときに両親に怒られてしまいます」
私が異世界からの召喚者だということがどのレベルまで広がっているのかはわからないが、少なくともこの場にいる人たちはそのことを知っている。
だからある意味VIPクラスの私が侍女さんたちに頭を下げるというのはこの世界のマナーとしては間違っているのだろう。
でもやっぱり私としてはお世話になっているんだから感謝の気持ちは伝えたいわけで。
そんな風に私が悶々としているとエレーナさんが苦笑した。
「サヤ様は素直な御気性なのですね。仕える者たちのことも考えていただけるとは…。そのようなサヤ様にお仕え出来て私どもはそれだけで十分でございます」
見れば侍女さん3人も感極まった様子で立ち尽くしている。
ああ、シーラさんなんてドレス握り締めて今にも泣き出しそうだ。
「サヤ様のお心遣いは非常に嬉しく思います。ですが、お察しの通りこの世界は階級社会でございます。サヤ様は私どもにしてみれば言わば神の御使いともいえる尊きお方。そのような方が下々のものにあまり親しくされますとサヤ様だけでなく陛下や殿下の評判にも影響が出る恐れがあります」
「御使い云々はさておきますが、私の一挙手一投足が見られているということですね。その結果、私を召喚した陛下やアレックス王子にご迷惑がかかるのは私としても不本意です。ですが…」
エレーナさんの言うことは正しいし、理解は出来る。でもだからと言って納得できるかといえばねぇ…。
そんな私にエレーナさんは片目をつぶって一つ提案してきた
「ですが、それでは息が詰まって仕方がありませんでしょう。そこでこの場にいる者の前ではサヤ様のお国の習慣を使われても構わないということに致しましょう。ああ、でも私どもに敬称や敬語は不必要です。それだけは慣れていただかないとこの先ご不便が出ることが多いでしょうから」
おお!エレーナさん話がわかりますね!
やっぱり人間「挨拶・感謝・謝罪」はコミュニケーションの基本だよね。
そんな訳で改めて皆に挨拶をするとぎこちないながらも皆笑顔を返してくれた。
そしていよいよ陛下との謁見の時がやってきた。
傍についているのはバーナビー神官長。
陛下の隣には王妃とアレックス王子が並んでいる。
「タカムラ、サヤカ殿。既に神官長より聞き及んでいると思うが、現在わが国では異界より来訪されたという「神」を求めている。「神」をわが国にお迎えすることがわが国を救うことになる」
玉座に座ったままの陛下の言葉を私は頭を垂れたまま拝聴する。
「そこで「伝説の人」たるそなたに「神」を探す勇者となるか「神」を祭る巫女姫となるか選んでもらいたい」
言葉上は選択肢があるが、実際のところ一つしか選ぶものの無い私は不本意ながらも顔を上げ、まっすぐに陛下を見つめ返す。
「私は「神」を探しに行きたいと思います」
篁 爽香、16歳の誕生日が勇者誕生の日になった瞬間だった。
シーラはかなり子供っぽいですね。爽香より年下の設定なので仕方ないかもという気がしますが、侍女として大丈夫なのかちょっと心配にもなります(苦笑)
そしてユニークアクセス数が3,000を越えてました!
稚拙な文章ですが見ていただけて本当に嬉しいです!ありがとうございますv
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2012.6.25 微修正