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事情説明

第八話をお届けします。


これでストックはほぼぜろ。あぁー、もっと書かなくちゃなぁー、と思いつつ今日もカチカチ執筆です。


とりあえず、後三話くらいで物語の導入部分は終わりで、話を展開させていけるようになるかなと思いつつ。

とりあえず、この序章部分だけでも書きあげてしまうつもりです。

それまでは毎日更新を厳守なんだぜ……っ!


というわけで、どうぞお楽しみいただければ幸いです。




「簡単に言えば、私は殿下の正妃になどなりたくないのです」


 顔を知ってから今日までの傲慢さを微塵も感じさせない清楚な雰囲気を携えながら、目の前でイーリスが静かに語りだす。

 隣にいるカイルも少々唖然としているようだ、と空気で感じながら、キースは混乱から冷めやらぬ頭を動かし、これまでの経緯を確認する。

 まず、王子たちとの会議に出席し、目の前にいる令嬢に関する疑惑を上げた。

 そこから宰相が「それならば直に確認すればいい」というような発言をし、王子がそれを認めたのだ。

 そしてキースとカイルは今いるこの部屋までやってきて、イーリスに質問――いや、詰問を行った。

 その場にカイルはいなかったが、いたとしてもやった事は変わらないだろう。

 あくまで白を切る様子に業を煮やし、剣を抜いて脅しをかけた。

 そうすれば、いくらなんでもしゃべるだろうと。

 もし白だったとしても、その場合は自分が責めを負えばいいと、その時は本気で考えていた。

 すぐに王子に事情を話し、自ら死を選べば咎は自分だけで背負えるだろうと。

 剣を向けてもなお白を切る様子に思わず激高した時、自分が何人もの刺客に囲まれている事に気がついた。

 思い出す。

 自分から行動した結果でイーリスの部屋に来たと言うのに、それすらも彼女に謀られたとその時は思いこみ、イーリスが完全に黒だと決めつけ、刺し違えてでも殺そうとしたのだったか。

 周囲からあふれ出す殺気に覚悟を決めた時。

 全てを停止させる一喝で、その部屋にいた者が全員動きを止めた。

 気がつけば自分の刃は相手の眼前にあり。

 自分はそこから少しでも動けば死んでいたと理解した。

 全身に気づかぬ内に付き付けられた、何本もの刃によって。

 その後の事は、まるで魔法で幻を見せられたようにも感じられた。

 間諜たちを下がらせたイーリスは静かな声で説明を始めた。

 自分の事は王と三公が知っており、そしてそれ以外誰も知らぬ事なのだと。

 こうなっては仕方がないから大筋を話すが、他言無用だと。

 確認したければ王か三公に確認しろと、そう言った。

 次いで侍女に化粧落としと化粧道具を持ってくるように指示をすると、すぐに化粧を落とし始めた。

 そしてあれほどまでにドギツかったモノをあっさりと落し、自分の魅力を引き出すような薄い化粧へと変え、雰囲気すらもがらりと変えたイーリスを見て。

 正直な所、キースは見惚れてしまったのだ。

 容姿も、他の候補者と比べれば劣っているのは間違いない。

 スタイルも、正直なところもう少し肉付きがいい方が好みだ。

 だが。

 それまでの印象が最悪だったからと言えば言い訳になるが、その凛とした佇まいや、知性を感じられる相貌の輝き、思った以上に柔らかく優しい声音に、今まで感じた事が無いような美しさを感じたのだ。


「……キース様? 聞いておられますか?」

「――あ、はい、ええ。聞いています」 

「……本当に? では、今私が何を説明していたかをお話しいただけますか?」

「…………申し訳ない、少し思考に入っていて、聞いていなかった」


 はぁ、とこれ見よがしにため息をつかれる。

 気まずい気分を抱えていると、隣でカイルが笑みをかみ殺しているのに気がつく。

 後で覚えていろよ、と思いながらイーリスへ視線を戻すと、彼女は「やれやれ」とでも言いたそうな仕草で首を振った後で、顔を真っ直ぐとキースへと向けた。


「ではもう一度。今度はしっかり聞いていてくださいね?」

「はい」

「私はそもそも、殿下の正妃になるためにこの場に来たのではありません。本来ならば、カミジール家からは誰も候補者を選出しない予定でした。実際、最初のお触れには否の返事を返しましたから」

「……え?」


 その言葉に目を見開く。

 否を出した?

 王城からの、勅命に?


「しばらくしてミゲール様が直接当家にいらっしゃって、父と交渉を行いました。その場に、私たち四姉妹を同席させた上で」


 その説明によれば、宰相は今回の勅命の発端が自分にあると最初に話したらしい。

 そして、その意図も。

 話の中心にいるレンフィールド王子は、端的に言って女嫌いだ。

 勿論女という性別そのものが嫌いなのではない。

 それは、王子と共に何度も城下の花街へお忍びで出た事がある自分がよく知っている。

 王子が嫌いなのは、自分の権力に擦り寄ってきたり、自分の事を綺麗だと優れていると声高に主張したり、他者を悪戯に貶めるような貴族令嬢だ。

 それこそ、つい先ほどまでのイーリスのような。

 だからこそ、王子は今まで正妃を取ってこなかった。

 国の情勢で他国の姫を正妃に迎え入れられなかった為、王子の正妃は必然的に国内から選出する事になる。

 本来、アークジュエル王国の王族は二十歳前までに正妃を決め、世継ぎを成す為に努力をするものなのだ。

 だがレンフィールドは徹底的にそれを拒み、貴族の令嬢たちと話をするのも嫌がった。

 弟であるリンスミートも、兄に感化されたのか軽度の女嫌いに育ち、まだ浮いた噂の一つもない。

 このままでは王国の将来が危ない。

 現王は高齢であり、何かのはずみで死んでしまう事が無いとは言い切れない状態だ。

 だからこそ宰相は無理やりに正妃を決めようと今回の候補選出、ならびに王子との交流を提案した。

 今回の状況を見てもわかるとおり、その提案は通り国中の貴族――爵位持ちの貴族から候補者が集められた。

 アークジュエル王国では貴族を爵位の有無で区別しており、爵位が無い貴族の事を一般的に准貴族と呼んでいる。

 それでも貴族は貴族なのだが、今回は爵位持ちだけが候補者を出す事命じられた。

 現在の爵位持ちは公爵が三家、侯爵が五家、伯爵が九家、子爵が十三家、男爵が十五家の計四十五家となっている。

 宰相が男爵の家に訪問する段階でほぼ全ての爵位持ち貴族からは候補者が推薦されており、厳密な調査の結果十一名だけが正妃候補として決まっていたようである。

 ちなみにその時候補者を出していなかったのは、カミジール男爵家をはじめ、シレット子爵家、ラトナビュラ公爵家、セーイロン公爵家の四家であり、それぞれ宰相が訪れて説得したらしい。


「ミゲール様は、殿下をその気に――つまり正妃を娶る気にさせるために、私たちカミジール家に協力してほしい、と」

「女嫌いの殿下をその気に、ですか」

「ええ。だからこそ、まず私は殿下が嫌いな女性を研究し、その通りになりきりました。まず自分が正妃として選ばれないために。ミゲール様にお願いして、資料の改竄も行いながら」


 その説明に、しかしとカイルが疑問を上げる。


「しかし、それではもし最初のパーティーで帰る組みに入ったとしたらどうされたのです? 今回は残られたので他の候補者たちと接触する機会がありましたが、お帰りになられた場合はどうするおつもりだったのですか?」

「その時は勿論、素直に帰っていましたよ。ただ、帰った後ですぐ王都に引き返し、侍女たちを使って候補者と殿下が親しくなるような機会を設ける予定でした。有力な候補が誰か、というのは初日のパーティーで既に掴んでいましたからね」

「な、なるほど……」

「今回は幸いにというか不幸にもというか、こうして候補者の中に残ったわけです。だからこそ他の候補者と一緒になる機会もあり、直接焚きつけたり、自分を出汁にして殿下との仲を親密にする流れを取ったりしました」


 その言葉に、素直に納得する。

 そう言われれば、此方が疑問に思った全ての事に説明がつくから。


「キース様に指摘された戦略遊戯については、今後私たちが使える主の現在の力量を調べるのと、ファミルス様が正妃になった場合にどの程度先を見通す目があるのかを確認するためにああやって回りくどい事をしてました。かなり不遜な事なので、黙っていただければありがたいのですが」

「え、ええ。それは勿論。あれほど訳知り顔で語っておいてなんですが、元々気がついたのは私ではなくカイルですしね。私から殿下に申し上げる事はありません」

「あ、ええ、勿論私も申しません」


 慌てて追従するカイル。

 それにしても、だ。

 まだ肝心な事が聞けていない。

 このイーリス・ミル・カミジールという少女が何者なのか、という事を。


「ああ、それとキース様もカイル様も、私に対してそんな敬語を使う必要はありませんよ? 勿論公的な場所では殿下の正妃候補としての扱いをしなければいけないと思いますので構いませんが、こうして余計な目が無い時は普通に男爵家の小娘だと思って話してください。身分の高い方にそんなしゃべり方をされては、正直戸惑ってしまいます」

「え、あ……そうですね。いや、そうだな。わかった」

「僕も了解しました、イーリス様ただ、敬称を付けるのだけは許して下さいね? どこで誰が聞いているとも分からないですし、とっさの時にボロが出ても困りますから」

「ちなみに、カイルのしゃべり方はこれが素だ。俺にも部下にもたいていこの口調を崩す事は無い。例外と言えば、妹のファミルス様くらいか」

「なるほど……そうなんですね。では、それでお願いします。やはり此方の方が話しやすいですね、私としては」


 ふぅ、とため息をひとつつくイーリス。

 それだけでも今までの印象とずいぶん違うせいで、やたらと愛らしく見えるから不思議だ。


「それで、お二人はまだ質問があるんですよね? 私に。多分……先ほどキース様もおっしゃっていた、私の正体について、だと思いますが」


 此方から切り出す前に、彼女の方から問いかけが来る。

 詰問の時に確かにその言葉は口に出したが、教えてもらえるのだろうか?


「これから私が話そうとしている事は、国家機密に当たるないようになります。知ってしまったが最後、本来であれば死によって口を封じるたぐいの話です」

「……っ!」


 カイルが息をのむ。

 キースは、先ほど似たような事を聞かされている。

 王と三公以外は知ってはならぬ事、と。


「私個人としては、ここまでの事に自力でたどり着いたお二人に話すのは吝かではないと考えています。ただ、私の一存では決められない事ですので、明日の夜までに関係者へ確認を取るつもりでいます」

「それほどまでに……それほどまでに重要な事なのですか? イーリス様の正体というのは」

「はい。直接的な関係者以外は、陛下と、宰相・元帥・参謀長の三公しか知ってはならない話です。ですから、この話を聞いた場合――お二人は完全に此方の身内になってもらわねばならないと思います」

「……身内?」

「それもまた明日説明できるとは思いますが……。何にせよ、先ほども言いましたが聞いたら最後です。今なら聞かなくていいと引き返す事もできます。ただ、その場合二度と触れようとしないでください。私の目的自体はお教えしましたので、今後無用な警戒をする必要はなくなるでしょうし」


 此方にとって最悪、あちらにとって最善が口を封じる事。

 だがキースもカイルも、今の地位が高すぎるのだ。不用意に、口を封じられない程には。

 これが戦時中だとしたら、迷わず最前線に送られ口封じされてもおかしくは無いのだろう。

 それだけの話なのだと、先ほど自分に付き付けられたいくつもの刃を思い出し、身震いする。


「猶予は明日の夜までです。それまでに、話を聞くかどうかを決めてきてください。ただ、今ここで話した事も他言無用ですので、本当にご自分だけで考えてください」


 もしも、と。

 言葉を続ける彼女の瞳は、冷徹な寒気がする程の光を宿していた。


「もしも他言した場合は……申し訳ありませんが、その場で聞いた相手も含め口封じを行う事になると思いますので、気を付けてくださいね」


 それは世間一般的には脅迫と呼ばれるような文言ではなかったか。

 実際、脅迫されているのだろう。


「それでは、本当によく考えてください。ある意味今後のお二人の人生に関わる話、と言っても過言ではないので」


 厭な言葉だ。

 だが、それ以上に此方を気遣っているのだと分かる。

 先ほどまで冷徹だった瞳に、心配の色が宿っているのだ。

 心優しい娘なのだろう。

 そう、すとんと心の中に感想が落ち着いた。


「それでは、申し訳ありませんがお二人には外へ出ていってもらいたく。これから食事を取って湯浴みをして、寝ようと思いますので」


 気がつけば、もう時間はだいぶ遅い。

 そもそもこの場に訪れたのが夕方近かった。

 女性の、それも王子の正妃候補の部屋に男がいる時間ではない。

 分かりました、と二人は慌てて部屋を出ていく。

 無論慌てているからと言って、礼儀作法はきっちりとこなしていく。

 とりあえず宰相に報告しよう。

 通路に出てその方針だけカイルと決め、二人で連れだって歩いていく。

 その、最中。


「……ねぇ、キースさん」

「なんだ、カイル」

「イーリス様って……あんなに美しい人だったんですねぇ」

「な……っ!」


 隣の男からの言葉に、目を見開く。

 心なしか、声に熱がこもっている気がする。

 慌ててカイルの顔を見れば、そこには隠しきれない熱が見てとれた。


「確かに顔の造形はお世辞にも絶世の美女とはいえないかもしれないけど、それでもあの魂の輝きとでも言うんでしょうか? 雰囲気から来るものだと思うのですけど……。上手く表現できませんね。でも、あの人は美しい。そうは思わないですか?」


 これは、どうしたのだろうか。

 これほどまで熱を持って女性を語るカイルを、キースは見た事が無い。

 だが――。


「そう、だな。その言葉には、同意する」

「ええ、キースさんもやっぱりそう思いますよね? そうですよね……」


 カイルの言葉に、キースもまた頷いた。

 思い出すのは、間諜たちを一喝したイーリスの声だ。

 あの時はまだ酷い化粧をした姿だったが、それでもあの声には魂が震えた。

 王と、王子以来だろうか。

 その声に、覇気に――無条件で従いたくなるよな、王者の気質を感じたのは。


「……それはともかくとして。ともかく、明日の夜までに考えを纏めておかねば。そのためにも早くミゲール様に報告しよう」

「そうだね。今後の事も含め、本当によく考えないと」

「ああ、そうだな……」


 今日は、本当に色々な事があった。

 密度が濃いとでも言えばいいのだろうか。

 本当に、本当に――色々な事が、あった。

 明日もまた同じように色々な事が起こるのだろうか。

 そんな事を考えつつ、キースはやや歩くスピードを上げ、宰相の執務室へと向かっていくのであった。




第八話、読んでいただきありがとうございました。


これでとりあえず色々暴露第一段階終了。


この後さらにばらす話がもう一話入って、その後に次章に入る予定。

相変わらず王子様の出番ほとんどなし。というか、作者ですらイーリスが誰とくっつくかわかりません、というのが一番の問題のような……。

とりあえず、次はクッション会。イーリスとアイリスの漫才みたいなやり取りをかければいいなぁ、と思っています。


それでは。


P.S 春桜花様、感想ありがとうございました! 本当にうれしいですっ! 励みにして頑張りますっ!

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