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忍姫に自覚無し

第十一話をお届けします。


今日は幸い休み……なのですが午前中も夜も出かけたりなんだりと用事があるので、朝に更新です。


とりあえず今回で説明会は終わり。次話からは本格的にストーリーを進めていく予定ですが、やはりプロットも何もないので先行き未定。

プロット作ればいいじゃないかという声が聞こえてきそうですが、作ってしまうと勢いがなくなる気がするんですよねぇ。


困ったことに。

なにはともあれ、第十一話をお楽しみください。





「……とりあえず、これが私たちの秘密です」

「アークジュエル最大の諜報機関、か。馬鹿げていると言いたいが……本当なんだろうな。昨日の事を思うと」

「キースさんが気づけなかったんでしたっけ、懐に入られるまで」

「ああ。頭に血が上っていたと言うのも理由の一つだが、それを差し引いたとしてもまったく気がつかなかった。イーリス嬢が止めていなければ、俺は死んでいた自信がある」

「嫌な自信ですね……。今はいませんが、あの侍女さんも間諜、なんですよね?」

「ええ。アイリスは私の護衛を務めていますし、今は暫定的に王都にいる者たちを統括する立場にあります。今は城内で情報収集に動いていますよ……と、戻ってきたみたいですね」


 イーリスのその言葉に、キース共々疑わしげに入口を見る。

 意識を集中して見ても気配がまるで感じられないからだ。

 

「お嬢様、ただ今戻りまし……た? キース様もカイル様も、如何なさいました? ドアをじっと見つめていらしたようですけど」

「本当に戻ってきた……」

「我々が未熟なんでしょうか……」

「伸ばしてきた場所が違うだけだと思いますよ? あれでもアイリスは優秀な間諜ですから」

「……? その、私が何かしたのでしょうか、お嬢様」

「いいえ、大丈夫。さて、キース様にカイル様。今までの話を知った事で、お二人には今度カミジール家の縁者になってもらう必要があります。具体的に言えば、婿に来ていただきたいんですけれども」


 その言葉に、キースと揃って息をのむ。

 婿。

 家を出る事になる、と言われた時からそれは想像していたが、改めて言われると破壊力があると言うべきか。


(イーリス様の婿に……ですか。それは良いのですが……二人とも?)


「婿にって……イーリス嬢の夫として? それも二人とも?」

「まさかっ! キース様、何をおっしゃってるんですか」

「そうですよ、キースさん。流石に夫を二人持つなんてそんなことは」

「そうですよ。私が言いたいのは、フェリス姉さまと妹のシェリスの夫として、カミジール家にいらっしゃいませんか、という事で」

「……は?」


 男たちの声が揃う。

 どういう事かと視線を先ほど戻ってきた侍女に向けるが、視線があっても疲れたような様子で首を振るばかり。


「ぁ、丁度二人の写真がありますから、見ていってください。シェリスは流石にまだまだ幼いですが、将来有望ですよ? 絶世の美女になる事間違いなしですっ!」


 ほらほら、と嬉しそうな、生き生きとした様子で写真を見せるイーリスに、男二人は引いていた。


「まさか……イーリス様は、既に意中の相手がいるとか?」

「いや、だったら殿下の正妃候補として上がる事は無いはず……」

「いえ、でもどうやら情報操作していたようですし、最初から正妃になるつもりが無かったと言っていますし……」

「……直接聞いてみるか」


 顔を寄せ合ってヒソヒソと小声でやり取りをする。

 少し特殊な趣味趣向を持つ令嬢たちが見れば垂涎の光景がそこにはあったが、幸いにしてその特殊な趣味を持つ者はここにはいなかった。


「その、イーリス様? 少しお聞きしたいのですが」

「はい? なんでしょうか」

「その、イーリス様は既に意中の相手がいらっしゃるんですか?」

「は……? 意中の相手、ですか?」

「ええ。こうして今回は殿下の正妃候補として王城に上がられていますけど、本当はもう将来を誓った相手がいるとか」


 ぱちぱち、と瞬きをするイーリス。

 まるでそんな質問は想定していなかった、という顔だ。


「いえ? 別にそういう相手はいませんが……。それがどうかしました?」

「でしたら、僕たちが婿に入る相手はイーリス様でもいいのでは?」

「あはは、そんな御冗談を。私よりも姉さまやシェリスの方がお二人にはお似合いですよ? ほら、見てください。まだまだシェリスは幼いですが、こんな愛くるしいんですよ? 順調に育っていますし、きっと数年後には誰も放っておかない美少女になる事間違いなしですよ?」


 見せられた写真に乗っている少女は非常に愛らしい容姿をしている。

 イーリスがここまで進めるからには性格も良いのだろう。

 姉のほうも、確かにイーリスと比べれば姉に軍配が上がるのは間違いが無い。

 あくまで、容姿だけを見るならば、だ。

 だが。


「その、出来れば僕は……。カミジール家に入るならば、イーリス様の婿として入りたいのですが」

「ああ、俺もそう思う」

「……はぇ?」

「お嬢様、お嬢様、声が間抜けですよ?」

「……はっ、え、ええっとですよね? その、私の夫として、ですか? 嫌ですねぇ、そんな冗談を」

「……お嬢様、その、お二人とも非常に本気の目をしていらっしゃいますが。きっと冗談ではないですよ?」

「…………ぇぅ」


 従者の言葉に、イーリスはキースとカイルの顔へ視線を動かした。

 そして言われた通り目に本気の色が混ざってるのを確認すると、少しだけ頬を赤くして困ったような顔をする。

 愛らしい。


「……楽車の術? それとも喜車の術? いえ、それにしては二人とも目の色が本気だし……。でも、私なんかを妻にして利点は無いはずだし……。あぁ、私の地位……? でもそんなものはカミジール男爵領だけの地位なわけで……」


 小声でぶつぶつと呟きだす。

 その内容が全部聞こえたわけではないが、しかし此方を疑っているらしいのは分かる。

 キースと視線をからませて、もう一度意志を伝えようとした所で――タイミングを外すように侍女が言葉を挟む。


「お嬢様、そういえば急ぎで耳に入れておきたい話が一つあります」

「そうよね、だからきっと何か意味があって――え? 何かしら、アイリス」

「時期はまだ正確には分かりませんが、近く現在正妃候補で有力視されている方々を暗殺しようとしている動きがあります」

「なっ――――!?」


 息を飲む。

 少しだけほんわかとしていた空気が、侍女からの報告で一気に引き締まる。

 イーリスも表情を真面目なものに戻し、あごに手を当てながら鋭い目で従者の言葉を吟味している。


「……どこからの情報? 主犯は誰?」

「正確には分かりませんが、中心となっているのはアヴァン法務大臣のようです。情報は、大臣の家にいる鼠からです」





 衝撃の情報がもたらされた後。

 とりあえず陛下に報告してきます、と言ってイーリスは部屋を出て行った。

 その姿を、この部屋に残っている侍女とまったく同じにして。

 侍女――アイリス曰くイーリスは変装も達人なのだそうだ。

 声までも同じに出来るらしい。


「それにしても、暗殺か。法務大臣も思い切った事を……。」

「現在有力視されているのは、三公や大将の娘だというのに、ですね」

「……お二方。この部屋以外でその話題は出さないようにお願いします」


 アイリスの言葉に、分かったと頷く。

 それだけ、機密度の高い情報だったのだろう。

 それを教えてもかまわないと認識されているのは、素直に嬉しいが。

 信用の証と捉えられるから。


「まぁ、もし口に出したらその場で命が無くなると思ってください」

「…………言葉もないですね」

「ああ……」


 信用等などではなかったというか。


「あ、いえいえ、勿論お二人は信用していますよ? ただ、万が一があるので、釘を刺させて頂いただけで。それに、信用していなければお嬢様が大事な家族の婿に、などとは考えませんよ」

「あ、そうです、その事で貴女に聴きたい事があるのですが」

「……お嬢様のあの態度についてですね?」

「はい。……ぁ、いえ、勿論言えないのであれば無理には」


 渋面を作るアイリスの姿に、踏み込んではいけなかったかと言葉を付けたす。

 しかし、いえ、と首を振った後で彼女は口を開いた。


「キース様も、カイル様も、お嬢様を気にかけて頂いてありがとうございます。カミジール家の使用人を代表して、お礼を申し上げます」

「い、いえ。そうまで言われるほどの事では」

「ああ。俺もカイルも、イーリス嬢を気に入ったからああ言ったんだ」

「ふふ、ありがとうございます。しかしお嬢様はあの調子ですので、その、地道にしていただけると……。色々ありまして、自己評価が低い方ですので」

「色々、とは?」

「それは従者の身では口に出せない事でございますから。お知りになりたければ、イーリス様の口から直接お願いいたします」

「……わかった」


 カイルも分かりました、と頷きを返す。


「でも、私たち使用人一同はお二人の事を応援していますので! 是非とも、どちらかの方がお嬢様の伴侶になっていただければ、本当に嬉しいんです」

「はい、わかりました……というのも少し変ですけれども。何とかイーリス様に振り向いてもらえるよう、努力してみます」

「俺もだ。カイルに負ける気はしないけど、それでも……。やっぱり、実際あった事が無い相手よりはイーリス嬢と一緒になりたいからな」


 自分だってキースに負けるつもりはない。

 もっとも、態々それは口に出さない。出さなくても、此方の気持ちは分かっているだろうから。


「……お嬢様にはもったいないくらいのお言葉ですねぇ。その、参考までに、お嬢様のどこが気に入られたのかお聞きしても良いですか?」

「……そうだなぁ。俺は、あの度胸と胆力が気にいった、かな」

「度胸、ですか?」

「ああ。話を聞いて改めて度胸があるとは思ったが、やっぱり昨日の一幕だ。俺がイーリス嬢を意識したきっかけは。ある意味、一目惚れと言っても良いかもしれない」

「昨日で、度胸というと……。キース様が剣を突きつけていた時のことですか?」

「ああ。あの時……。イーリス嬢は、まったく恐れていなかった。俺の剣を。怯えた演技をしながらも、真っ直ぐ俺の目を見ていたんだ。だからこそ疑惑を深めたし、殺気も出してしまったんだが」

「……そんな事になってたんですねぇ、あの時は」

「そえでも。普通の女性なら……いや、男でも新兵レベルだったら恐怖で硬直するような物をぶつけたにも関わらず、彼女はその目の色を変えなかった。そして、あの一喝だ」

「私を止めようとした、ですね」

「ああ。正直、心が震えた。元帥と陛下以外に、唯の一喝で魂が揺さぶられたのは彼女だけだ。無条件で膝を吐きたくなるような、そんな威厳があった」

「……女性に威厳なんて言っても喜ばないと思いますけどね、僕は」

「うるさいぞカイル。まぁ、そう言うわけで……。昨日の一件で、俺は彼女を気に入っている」


 なるほど、と頷き、アイリスは視線をカイルへと向ける。


「僕ですか? 僕は、昨日説明を受けている時のイーリス様の目がとても美しく輝いていたので……。キースさんじゃないですが、ある意味一目惚れですね。それまでの印象が良くなかった所から、あそこまで鮮烈で凛々しい真実の姿を見せられたんです。一気に印象が変わりました」

「……お嬢様も罪作りですねぇ」

「まったくもって。まぁ、そう言うわけで……。戦略遊戯の時から気に放っていたんですけどね」

「あ、そういえば……カイル様だったんですか? お嬢様が戦略遊戯でしていた事を見抜いたのって」

「ええ。後でキースと話した所、キースも途中から手が少しおかしいと気づいていたようでしたから、元帥と参謀長、そして父に相談してみました。勿論、お三方の戦略遊戯とは伝えずに、ですが」

「なるほどなるほど。ふふ……それで、どうでした? お嬢様の手は」

「そうですね……。率直に言えば、全力がどこにあるのかを確かめてみたい、とは思いました」


 きっと、知略の限りを尽くした戦いが出来るのだろう。

 その事を想像し、頬を緩ませる。


「はぁ……。綺麗に微笑まれますねぇ、カイル様。大丈夫です、その頬笑みならきっとお嬢様も陥落させれますっ!」

「陥落って、お前な。主だろうに」

「仕方が無いじゃないですか。お嬢様はそりゃもう強引にでも愛されているという自覚がわかない限り、そして自分から好意を持たない限り、一生独り身です。ええ、昨日本気でそんな事言ってましたし」

「本当か!? それはまったく……。難敵だ」

「そうですね……。お互いに頑張りましょう、キースさん。負けませんが」

「そりゃ俺もだよ、カイル」


 そんな風に笑いあう。

 アイリスも一緒になって微笑んだりして。

 その後も普段のイーリスについてアイリスに質問などをしていると――不意に勢いよく、ドアが開いて閉められた。


「お、お嬢様!? どうしたんですか、そんなに息を切らして!」


 入って来たのは、部屋の主であるイーリス。

 アイリスそっくりの顔をして、アイリスと同じ給仕服を着ているが、それはイーリスだ。


「はぁ、はぁ……。アイリス、ごめん」

「は、はぁ。えっと、何がでしょうか」

「……殿下に、口説かれてしまったわ。貴女の顔で」


 沈黙が降りる。

 イーリス以外の全員が一様に顔に疑問を浮かべ。

 同時に納得し。


「口説かれたぁ!?」


 声を揃えて、その言葉を反復した。






お読みいただきありがとうございました。ご感想、お待ちしております。


明日更新できるかは少し未定ですが、第一部に当たる話が終了したので、一度過去の物語を見直して加筆修正を行う予定です。

更新はその後になるかと。


連日更新はストップしてしまうかもしれませんが、どうぞ気長にお待ちいただければと思います。


それでは。

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