第四の試練 苦痛
第四の試練の扉が開いた。
その先に広がっていたのは――
針山だった。
床一面に、無数の鉄の針。
一本一本が鋭く光っている。
高さは膝ほど。
その針の山を、登り、歩き、越えなければならない。
残っている姫は三人だけだった。
カノン。
ターニャ。
サシャ。
そして三人とも――裸だった。
第二の試練で衣服を失ってから、そのままだ。
冷たい空気が肌を撫でる。
だが誰も、それを気にする余裕はなかった。
「……なるほど」
ターニャが言った。
針山を見上げる。
そして笑う。
「勝つためには、痛みをともなうものさ」
そう言って。
迷いなく針山へ足をかけた。
ぐしゃり。
嫌な音が響く。
針が足の裏を突き破った。
血がにじむ。
だがターニャは止まらない。
もう一歩。
ぐしゃ。
針がさらに深く食い込む。
三歩。
四歩。
進むたびに、足の裏は裂けていく。
血が針を伝い、ぽたりと床に落ちた。
「……っ」
さすがのターニャも顔を歪めた。
だが笑う。
「ははっ……!」
進めば進むほど、針は足を壊していく。
肉が裂ける。
皮膚が剥ける。
足の裏はもう赤く染まっていた。
だがターニャは止まらない。
その背中を見て。
カノンも静かに歩き出す。
「……シャロン」
小さく呟く。
それだけだった。
そして針山へ足を置く。
ぐしゃ。
針が肉に食い込む。
身体が震える。
思わず息が止まる。
だがカノンは進む。
一歩。
二歩。
三歩。
針は容赦なく足を刺す。
踏みしめるたびに傷が増える。
血が針山を赤く染めていく。
やがて。
足の裏の感覚が変わる。
痛みではない。
焼けるような感覚。
皮膚が裂け、肉がむき出しになっていく。
それでもカノンは進む。
遅い。
ターニャより遅い。
だが止まらない。
ただ、前を見ていた。
二人とも足から大量の血を流しながら
這うように針山に縋りつきながら、
それでもただまっすぐに前をみすえて
進んでいた。
その頃。
サシャは入口で立ち尽くしていた。
針山を見ているだけで、足が震える。
想像してしまう。
あの針が。
あの血が。
自分の足に刺さる光景を。
「……むり」
小さく呟く。
身体が動かない。
壁の向こうから声がした。
「サシャ様」
ニーロウだった。
「大丈夫です」
落ち着いた声。
「無理をなさらなくていい」
サシャの目に涙が浮かぶ。
「……でも」
「進まないと」
針山を見る。
ターニャはもう半分ほど進んでいる。
だが。
その足はもう、原形を保っていなかった。
血に濡れ。
肉が裂け。
歩くたびに身体が揺れる。
それでも進んでいる。
カノンも同じだった。
足はもう血まみれだ。
一歩踏み出すたびに、身体が震える。
それでも止まらない。
「姫様」
ニーロウが静かに言う。
「姫様は」
少し間を置いた。
「ご無事であれば、それでいい」
その言葉に、サシャの肩が震える。
涙が落ちる。
でも。
それでも。
サシャは震える足を前へ出す。
「……がんばる」
小さく言った。
「わたし、進む」
そして――
針山へ足を踏み出そうとした。
その瞬間。
壁の向こうから声が響いた。
「リタイアします」
ニーロウだった。
静かな声だった。
まるで当たり前のことを言うように。
「え……?」
サシャが止まる。
王の声が響く。
「騎士ニーロウ」
「リタイアを確認」
その瞬間。
扉が開いた。
「サシャ姫、脱落」
兵士が言う。
サシャは理解できなかった。
「……え?」
「……ちが」
「わたし」
「いま」
「進もうとして」
言葉が出ない。
扉が閉じた。
第四の試練の間から、サシャの姿は消えた。
壁の向こう。
騎士たちの部屋。
ナルタルが小さく呟く。
「……今、進もうとしてたよね」
ニーロウは肩をすくめた。
「ええ」
静かに言う。
「ですが」
少し笑った。
「無理をして怪我をしては、可哀想でしょう」
その声は穏やかだった。
まるで本当にサシャを思っているかのように。




