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アリーシャとギルベルトの出会い

城の大広間には、

数えきれないほどの灯りが揺れていた。


天井から吊るされた無数のシャンデリアが、

黄金色の光を落としている。

磨き上げられた床には、

音楽と笑い声が滑るように広がっていた。


舞踏会だった。


この国の貴族たちが集う、華やかな夜。


その中心に立っているのは――


一人の少女だった。


背筋を伸ばし、堂々とした姿で立つ。

長い金髪はゆるく巻かれ、

宝石のような青い瞳が人々を見下ろしていた。


アリーシャ。


第一王女。


「……」


彼女の周囲には、何人もの貴族の青年がいた。


しかし。


誰も彼女に触れようとはしない。


理由は単純だった。


怖いのだ。


彼女は美しく、気高く、そして――

あまりにも高慢だった。


「アリーシャ様、本日は一段とお美しく……」


「当然でしょう」


アリーシャは、あっさりと言った。


「わたしは第一王女なのよ」


青年は苦笑するしかなかった。


そのとき。


広間の扉が開いた。


ざわり、と空気が揺れる。


入ってきたのは、一人の青年だった。


背の高い男。

鍛えられた体。

まばゆい金の髪。

凛々しい青い目。


そして――


武人の空気。


「……」


貴族たちの視線が集まる。


だが男は、誰も見ていなかった。


ただまっすぐ歩く。


そして。


アリーシャの前で止まった。


「姫」


男は言った。


低い声だった。


「一曲、踊っていただけますか」


周囲が凍りついた。


誰もが思った。


――無礼だ。


普通なら。


普通の貴族なら。


もっと遠回しに頼む。


もっと丁寧に媚びる。


しかし。


この男は違った。


アリーシャは、しばらく黙っていた。


青い瞳で、じっと男を見る。


「名前は?」


「ギルベルト」


「爵位は」


「ない」


ざわり。


周囲がざわめく。


平民。


騎士候補。


あるいは武人。


どちらにしても。


王女と踊る身分ではない。


だが。


アリーシャは、ゆっくりと微笑んだ。


「いいわ」


周囲が凍りつく。


アリーシャは手を差し出した。


「踊りましょう」


ギルベルトはその手を取った。


音楽が流れる。


二人は踊り始めた。


静かなワルツだった。


足取りは正確だった。


ギルベルトの動きは無駄がない。


まるで戦場の剣のように、まっすぐだった。


「……」


アリーシャは言った。


「あなた、怖くないの?」


「何がです」


「わたしよ」


ギルベルトは即答した。


「なぜ」


アリーシャは少し笑った。


「みんな、わたしを怖がるのよ」


くるりと回る。


ドレスが広がる。


「わたしが王女だから」


「……」


「わたしが強いから」


「……」


「わたしが、正しいことしか言わないから」


音楽が少し強くなる。


ギルベルトは言った。


「それの何が悪い」


アリーシャは少し驚いた。


「悪いわ」


「なぜ」


「嫌われるもの」


ギルベルトは答えた。


「それでも」


「……?」


「正しい方を選ぶ」


彼の目は真っ直ぐだった。


「それが誇りだ」


アリーシャは黙った。


少しだけ。


ほんの少しだけ。


彼女の顔から、王女の仮面が外れた。


「……」


アリーシャは小さく言った。


「ねえ」


「はい」


「みんな、私に嘘をつくのよ」


音楽がゆっくりになる。


「綺麗だって」


「優しいって」


「立派だって」


「……」


「でも」


彼女はギルベルトを見た。


「あなたは?」


ギルベルトは即答した。


「美しい」


アリーシャは少し笑った。


「嘘じゃないの?」


「違う」


「どうして」


「強いからだ」


音楽が止まる。


二人の踊りが終わった。


アリーシャは言った。


「ギルベルト」


「はい」


「わたしの騎士になりなさい」


周囲がざわめいた。


王女の騎士。


それは名誉だった。


しかし。


ギルベルトはすぐには答えなかった。


「理由を聞いても」


「いいわ」


アリーシャは微笑んだ。


「あなた、正しい方を選ぶんでしょう?」


「……」


「それなら」


青い瞳が光る。


「わたしを選びなさい」


沈黙。


そして。


ギルベルトは片膝をついた。


「おれは」


低い声。


「おれの誇りで、あなたを守る」


アリーシャは言った。


「当然よ」


少しだけ笑う。


「わたしは第一王女なんだから」


――こうして。


アリーシャとギルベルトは出会った。


この時。


まだ誰も知らなかった。


この二人が。


第三の試練で、波乱を呼ぶ事を。


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