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第一の試練 恐怖

扉が開いた瞬間。


腐った匂いが流れ出した。


血と肉が混ざったような、生々しい臭いだった。


それはただの腐臭ではない。


まだ新しい血の鉄の匂いと、

腐り始めた肉の甘ったるい臭気が混ざっている。


思わずナナが顔をしかめる。


「……なにこれ」


王の声が背後から響く。


楽しそうだった。


「第一の試練」


「恐怖」


扉の向こうは闇だった。


灯りはない。


だが。


闇の奥から聞こえる音があった。


ブン……ブン……


虫の羽音。


カサカサ。


何かが這う音。


ぐちゃ。


何かが潰れる音。


ターニャが笑う。


「嫌な音だな」


アリーシャは一歩踏み出した。


「くだらない」


足を踏み入れる。


ぐに。


足元で何かが潰れた。


ぬるい。


柔らかい。


靴底の下で、ぐにゅりと潰れる。


足をどけると、そこにあったのは。


裂かれた内臓だった。


豚の頭と腸が床一面に広がっている。


ねじれた腸。


裂けた胃袋。


血に濡れた肝臓。


ぬめぬめとした臓物が、暗闇の床に散らばっている。


その間に。


白い骨が転がっていた。


人の骸骨。


肋骨。


腕の骨。


砕けた頭蓋骨。


眼窩の空洞が闇の中でぽっかりと開いている。


そして。


そのすべてに群がる虫。


黒い虫。


羽のある虫。


白い蛆。


内臓の裂け目から、無数の蛆が湧き出ている。


ブン……ブン……


羽音が耳元をかすめる。


ナナが言う。


「……最悪ね」


ターニャが内臓を踏む。


ぐちゃ。


腸が潰れる音。


「王は本当に趣味が悪い」


アリーシャは歩き続ける。


骨を踏む。


バキ。


頭蓋骨が砕ける。


虫が飛び立つ。


ブン……ブン……


カノンは静かに歩いていた。


虫が足を這う。


内臓を踏む。


ぬるい感触が靴底に広がる。


それでも顔色を変えない。


サシャは入口で立ち尽くしていた。


闇の床を見ている。


内臓。


骨。


虫。


匂い。


吐き気が込み上げる。


「……いや」


ナナが振り返る。


「サシャ」


サシャは震えていた。


「無理……」


一歩踏み出す。


ぐに。


足が内臓に沈む。


ぬるい。


ぬめる。


靴の隙間から肉の感触が伝わる。


ぐちゃ。


腸が潰れる。


「いや……」


虫が足を這う。


ドレスの裾から中に入る。


ブン……ブン……


羽音が耳元で鳴る。


骨を踏む。


バキ。


サシャの呼吸が荒くなる。


「いや……」


匂いが強くなる。


腐臭。


血。


肉。


吐きそうだった。


「いや……」


しゃがみ込む。


「無理……」


涙が溢れる。


「怖い……」


その時。


サシャの手を、誰かが取った。


カノンだった。


「行こう」


サシャが驚いたように見る。


カノンは静かに言う。


「大丈夫」


「前だけ見て」


サシャの手は冷たく震えていた。


カノンはその手をしっかり握る。


そして歩き出す。


ぐちゃ。


骨を踏む。


バキ。


虫が舞う。


サシャは目を閉じたまま歩く。


カノンが手を引く。


ターニャが言う。


「出口まで競争だ」


ナナが言う。


「早く終わらせたいわ」


アリーシャは止まらない。


そして。


闇の奥に。


かすかな光が見えた。


出口だった。


姫たちは進む。


骨を踏み。


内臓を踏み。


虫に囲まれながら。


第一の試練。


恐怖。


それを越えたのは。


五人全員だった。


出口に出た瞬間。


サシャがその場に崩れ落ちた。


「……怖かった……」


涙が止まらない。


ナナはドレスを払いながら言う。


「最悪ね」


「でも」


少し笑った。


「こんな場所でも美しい姫って素敵じゃない?」


ターニャは肩を回す。


「はは」


「これくらいなんともない」


カノンはサシャの手をまだ握っていた。


「大丈夫」


静かな声だった。


「もう終わったよ」


サシャは震えながら頷く。


アリーシャは振り返りもせず言った。


「この程度で震えているようでは」


「女王など夢のまた夢ね」


五人の姫は。


それぞれ違う顔をしていた。


ゲームは。


まだ始まったばかりだった。

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