ナナとルーカスの出会い
王城の庭園は、いつも静かだった。
中央の噴水から、水の音だけが響いている。
その石畳の道を、第二王女ナナが歩いていた。
黒髪を揺らしながら。
白い肌。
整った顔立ち。
165センチの長身で、堂々と歩く姿は、
ただ歩いているだけでも人目を引く。
侍女が言う。
「今日もお美しいです、ナナ様」
ナナは軽く笑う。
「当然でしょう?」
そして言った。
「あたしだもの」
侍女たちは慣れたように微笑んだ。
その時だった。
向こうから一人の騎士が走ってくる。
まだ若い騎士だった。
急いで止まろうとして、石畳で足を滑らせる。
盛大に転んだ。
侍女たちがざわめく。
ナナは腕を組んだ。
「……なにそれ」
騎士は慌てて立ち上がる。
「も、申し訳ありません!」
深く頭を下げた。
ナナは言う。
「あなた誰?」
「ルーカスと申します」
茶色の髪の青年だった。
まだ若い。
鎧も新しい。
任官して間もないのだろう。
ナナはじっと見た。
「新人?」
「はい」
ナナは近づく。
そして言った。
「ねえ」
「はい」
「どう思う?」
ルーカスは困る。
「……何をでしょう」
ナナは言う。
「あたし」
くるりと一回転する。
ドレスがふわりと揺れた。
「あたしは美しい?」
ルーカスは迷わなかった。
「はい」
ナナは少し驚いた。
「即答ね」
ルーカスは真剣な顔だった。
「当然です」
ナナは目を細める。
「どうして?」
ルーカスは答える。
「ナナ様だからです」
ナナは一瞬だけ黙った。
そして笑う。
「変な騎士」
その時だった。
庭園の奥から声が聞こえる。
「助けて!」
侍女の声だった。
ナナとルーカスは振り向く。
小さな侍女が池に落ちていた。
足を滑らせたのだろう。
必死にもがいている。
侍女たちは慌てている。
ルーカスが動こうとした。
だが。
ナナの方が早かった。
ドレスのまま池に飛び込んだ。
水しぶきが上がる。
侍女たちが悲鳴を上げる。
ナナは泳いで少女の元へ行き、腕を掴む。
そして岸へ押し戻した。
ルーカスが引き上げる。
少女は咳き込みながら泣いている。
ナナもびしょ濡れだった。
侍女たちは慌てる。
「ナナ様!」
「ドレスが……!」
ナナは濡れた髪を払い、平然と言った。
「美しいものはどんな姿だって美しいからいいの」
侍女たちは言葉を失う。
ナナは少女に笑いかけた。
「大丈夫?」
少女は涙を流しながらうなずいた。
ナナは立ち上がる。
ルーカスは呆然としていた。
ナナは言う。
「なに?」
ルーカスは答える。
「……驚きました」
ナナは笑う。
「美しい姫は、優しくなきゃ」
ルーカスは静かにうなずいた。
ナナはルーカスを見る。
そして言った。
「あなた」
「はい」
「私の騎士になりなさい」
庭園が静まり返る。
ルーカスは驚く。
「よろしいのですか」
ナナは少し笑う。
「だって」
「貴方は私に美しいと言ってくれるでしょう?」
ルーカスは真っ直ぐ答えた。
「勿論です」
ナナは満足そうに笑う。
「面白い騎士」
その日から。
ルーカスはナナの騎士になった。
王城では誰もが言う。
ナナは美しい姫だ。
そして。
ルーカスは。
その美しさも。
その優しさも。
誰より信じている騎士だった。
だからこそ。
この後に始まるゲームで。
二人が辿る結末は。
あまりにも残酷だった。




