カノンとシャロンの出会い
シャロンが初めてカノンに会ったのは、
まだ二人が幼い頃だった。
王城の広場。
兵士たちが訓練をしている場所の端で、
子供たちが遊んでいた。
シャロンもその一人だった。
父に連れられて城へ来た日だった。
父は城に仕える騎士だった。
「挨拶をしてこい」
そう言われ、広場に立たされた。
何をすればいいのか分からず、ただ立っていると。
遠くから声が聞こえた。
「わ、綺麗な髪!」
高い声だった。
少女がこちらを指さしている。
栗色の髪。
深い緑の瞳。
まだ幼いのに、どこか堂々としている。
少女は近づいてきた。
じっとシャロンを見る。
「あなた」
少し首を傾ける。
「強い?」
シャロンは少し困った。
「……普通です」
少女は少し考えた。
その時、後ろで大人たちが話していた。
カノンの母と、シャロンの父だった。
「この子が?」
「ええ。腕は悪くありません」
「カノンの側に置くには、ちょうどいい」
シャロンはその会話の意味が分からなかった。
少女は胸を張った。
「わたしはカノン」
まっすぐ言う。
「王女」
それから少しだけ柔らかく笑った。
「あなたの名前は?」
「シャロンです」
カノンは頷いた。
「シャロン」
嬉しそうに繰り返す。
それから少しだけ間を置いて言った。
「……わたしの側にいてほしい」
そして少しだけ視線をそらす。
「ずっと一人で、退屈だから」
シャロンは少し驚いた。
だが父を見ると、小さく頷いている。
シャロンは頭を下げた。
「……はい」
それが二人の始まりだった。
⸻
それからの日々。
シャロンはいつもカノンの側にいた。
広場で走り回り。
城の廊下を駆け。
時には兵士の真似をして木の剣で戦った。
カノンはよく転んだ。
勢いよく走るからだ。
そのたびにシャロンが手を差し出した。
「大丈夫ですか」
カノンは少し恥ずかしそうに笑う。
「大丈夫」
そして立ち上がる。
「ありがとう、シャロン」
それからまた走る。
誰よりも負けず嫌いだった。
ある日、カノンは言った。
「シャロン」
「あなたは強い?」
シャロンは少し考えた。
「普通です」
カノンは不満そうな顔をした。
「普通じゃだめ」
それから少し笑う。
「でも」
「今はそれでいい」
そして言った。
「わたしの騎士になってほしい」
「強くなって」
シャロンは答えた。
「はい」
それから剣を学んだ。
何度も転び。
何度も負けた。
だがやめなかった。
カノンが笑うからだ。
「まだ弱いね」
そう言われると悔しかった。
だからまた剣を振った。
いつからだろう。
カノンを見ると、胸が少し痛むようになった。
笑う顔を見ると、嬉しくなる。
泣きそうな顔を見ると、守りたくなる。
それが何なのか。
シャロンは考えたことがない。
ただ一つだけ分かっていた。
自分はカノンの側にいる。
それでいい。
それだけでいい。
⸻
ある日。
カノンは城の高い壁の上から外を見ていた。
「ねえ、シャロン」
風が吹く。
カノンは言う。
「わたし、女王になる」
まっすぐな声だった。
「だから」
振り向く。
「あなたはわたしの騎士」
シャロンは答える。
「はい」
カノンは少し笑った。
「ずっと?」
シャロンは迷わなかった。
「ずっとです」
カノンは満足そうに頷いた。
「じゃあ決まり」
そして言った。
「シャロン」
「あなたはわたしの剣」
その言葉を聞いたとき。
シャロンは理解した。
自分の役目を。
そして。
自分の気持ちも。
だがそれを口にすることはなかった。
シャロンは騎士だった。
ただそれだけだった。
けれど。
もし騎士でなければ。
きっと、もっと違う名前で
この人の隣にいたいと思っていた。




