シャロンとニーロウ
扉が閉まる音がした。
ナルタルの身体は床に横たわったままだ。
血がゆっくり広がっている。
しばらく誰も口を開かなかった。
先に話したのはニーロウだった。
「三人目ですか」
静かな声だった。
シャロンは顔を上げる。
ニーロウはナルタルを見下ろしている。
「ルーカス殿」
指を折る。
「ギルベルト殿」
もう一本折る。
「ナルタル殿」
小さく笑う。
「ずいぶん減りましたね」
シャロンは低く言った。
「……黙れ」
ニーロウは肩をすくめる。
「事実ですよ」
「姫のために死んだ騎士」
少し首を傾ける。
「美しい話です」
間を置く。
「ですが」
「死んだら終わりですよ」
シャロンの視線が鋭くなる。
ニーロウは続ける。
「ナルタル殿は」
床を見る。
「姫を愛していた」
「だから死んだ」
シャロンは一歩近づいた。
「貴様」
低い声。
「それを笑うのか」
ニーロウは笑った。
「ええ」
あっさり言う。
「愚かですから」
沈黙。
シャロンの拳がわずかに震える。
ニーロウはその様子を見て、少し楽しそうに言った。
「あなたは違うのでしょう」
「シャロン殿」
シャロンは黙っている。
ニーロウは続ける。
「カノン姫の騎士」
少し笑う。
「あなたも死ぬつもりでした?」
シャロンの声は低かった。
「……必要ならな」
ニーロウはくすっと笑う。
「必要なら」
「ですか」
一歩近づく。
「では聞きましょう」
「シャロン殿」
「あなたは」
少し間を置く。
「カノン姫のために」
「どこまで出来る?」
沈黙。
シャロンはゆっくり答えた。
「すべてだ」
ニーロウの眉が少し上がる。
シャロンは続けた。
「命も」
「剣も」
「誇りも」
少し間を置く。
「すべて姫のものだ」
ニーロウは笑った。
「なるほど」
「騎士らしい」
それから聞く。
「なぜです?」
シャロンはすぐには答えなかった。
ナルタルの亡骸を見る。
そして言った。
「……昔から」
少し間を置く。
「私はあの方を知っている」
ニーロウが首を傾ける。
シャロンは続けた。
「子供の頃からだ」
「庭で」
「よく一緒に遊んだ」
小さく息を吐く。
「姫は」
「よく転んだ」
ニーロウが少し笑う。
シャロンは続ける。
「そのたび」
「怒って立ち上がる」
「誰よりも」
「負けず嫌いだった」
少し間を置く。
「だから」
低く言う。
「私は知っている」
ニーロウは黙って聞く。
シャロンは続けた。
「姫は」
「絶対に諦めない」
静かな声だった。
「どんな場所でも」
「どんな状況でも」
「必ず前へ進む」
拳が少し強く握られる。
「だから私は」
「その隣に立つ」
少し間を置く。
「それだけだ」
沈黙。
ニーロウはしばらく黙っていた。
そして小さく笑った。
「……なるほど」
「それは」
少し楽しそうに言う。
「恋では?」
シャロンの目が鋭くなる。
「違う」
すぐに言う。
「私は」
短く言った。
「騎士だ」
その時。
扉が開いた。
兵士が入ってくる。
「勝者が決まった」
部屋の空気が止まる。
兵士が言う。
「カノン姫」
「女王となられる」
沈黙。
シャロンは目を閉じた。
そして静かに言った。
「……当然だ」
ニーロウはそれを見て笑った。
「ええ」
静かに言う。
「そうでしょうね」




