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第五の試練 勇気

第四の試練を越えた時。


カノンとターニャの身体は、

もう原形をとどめていなかった。


全身が血にまみれている。


足は裂け。


皮膚は剥がれ。


肉が露出していた。


だが。


腕も同じだった。


針山を登るために石を掴み続けた手は、

すでに傷だらけだった。


爪は割れ。


皮膚は裂け。


乾いた血が黒くこびりついている。


扉が開く。


第五の試練だった。


その先にあるのは――


一本道。


石の細い道。


幅は、人一人がやっと這えるほど。


その両側は奈落だった。


底は見えない。


そして石は――


血で濡れていた。


第四試練で流れた血が、ここまで流れ込んでいる。


乾いた血。

新しい血。


それが石をぬめらせていた。


風が奈落の底から吹き上げる。


身体が揺れる。


「……なるほど」


ターニャが言った。


「勇気ってわけだ」


だが次の瞬間。


膝が崩れた。


足はもう限界だった。


「……はは」


ターニャは苦笑する。


「歩くのは無理だな」


カノンは何も言わない。


ただ前を見る。


「……シャロン」


小さく呟く。


それだけだった。


ターニャは笑う。


「じゃあ」


「這っていくか」


両手を石に置く。


その瞬間。


激痛が走った。


「……っ」


思わず息が漏れる。


腕の傷が開く。


血が石に落ちる。


だがターニャは進む。


腕で身体を引く。


ずるり。


腕が震える。


石が血でぬめる。


もう一歩。


腕を伸ばす。


身体を引く。


そのたびに腕の傷が開く。


「……くそ」


息が荒くなる。


カノンも這い出した。


腕を石につく。


激痛が走る。


それでも声は出さない。


ただ進む。


腕で身体を引く。


血が石に広がる。


壁の向こうから声が響く。


「姫様!」


ナルタルだった。


必死な声。


「もうやめてください!」


だがナルタルには見えない。


姫たちがどれほど傷ついているのか。


どれほど血を流しているのか。


ただ声だけが届く。


ターニャは笑う。


「やめないよ」


息を吐く。


「勇気の試練だろ?」


腕を伸ばす。


身体を引く。


だが。


石が崩れた。


ぱきっ。


小さな音。


ターニャの身体が傾く。


「……っ!」


必死に石を掴む。


だが腕が滑る。


血だった。


自分の血。


腕がぬめる。


もう一度掴む。


滑る。


身体が奈落へ落ちかける。


「姫様!」


ナルタルが叫ぶ。


だが何も見えない。


ターニャは足掻く。


腕で石を掴む。


激痛が走る。


指が裂ける。


それでも掴む。


だが。


腕の力がもう残っていない。


その時。


別の手が腕を掴んだ。


カノンだった。


二人の身体が奈落の上で止まる。


だがカノンの腕も震えていた。


血が流れる。


腕の傷がさらに裂ける。


ターニャはカノンを見る。


少し笑った。


「……ありがと」


カノンは何も言わない。


ただ手を握る。


だが。


ターニャは奈落を見た。


それからカノンを見る。


「でもさ」


静かに言う。


「ぼくじゃ、勝てない」


カノンの目が揺れる。


ターニャは笑う。


「君が行きなよ」


カノンは首を振る。


だが。


ターニャは自分の手を動かした。


カノンの手を外す。


「――勝てよ」


それだけ言った。


次の瞬間。


ターニャの身体は奈落へ落ちていった。


風が吸い込む。


声も。


身体も。


闇に消えた。


奈落は静かだった。


カノンはしばらく動かなかった。


そして。


何も言わず。


再び腕を伸ばす。


激痛が走る。


それでも進む。


腕で身体を引く。


一歩。


また一歩。


奈落の上を。


黙々と進み続けた。


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