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ターニャとナルタルの出会い

森は朝の霧に包まれていた。


湿った土の匂い。

木々の間から差し込む淡い光。

遠くで鳥が鳴いている。


ターニャは弓を構えていた。


茂みの奥。


鹿の気配がある。


「……」


息を止める。


弦を引く。


その瞬間だった。


――ガサッ


大きな音がした。


鹿が跳ねる。


森の奥へ逃げていく。


矢を放つ前に消えた。


ターニャは弓を下ろした。


そして振り返る。


そこに立っていたのは、一人の少年だった。


黒髪。

少し細い身体。

手には槍を持っている。


だが、その手は震えていた。


「……逃げたよ」


ターニャが言う。


少年は真っ青になった。


「ご、ごめんなさい!」


慌てて頭を下げる。


「ぼく、気づかなくて……」


「気づくでしょ」


ターニャは笑う。


「森であんな音立てたら」


少年はさらに小さくなった。


「……すみません」


少し沈黙が続いた。


やがてターニャが聞く。


「君、誰?」


少年は顔を上げた。


「ナルタルです」


「騎士候補で……」


「……ああ」


ターニャは頷いた。


「ぼくも」


弓を肩にかける。


「ターニャ」


ナルタルは目を丸くした。


「え」


「姫様……?」


「うん」


ターニャはあっさり言う。


「姫だけど」


そして森の奥を見る。


「狩り好きなんだよね」


ナルタルはぽかんとした。


「……姫って」


「普通そんなこと言わないよね」


ターニャは笑う。


「普通の姫じゃないから」


その時だった。


低い唸り声がした。


ナルタルの身体が固まる。


茂みの奥。


黄色い目が光っていた。


狼だった。


一匹ではない。


二匹。


ナルタルの手が震える。


槍を握っているが、明らかに怖がっている。


「……さがって」


ターニャが言った。


ナルタルは驚く。


「姫様?」


「いいから」


ターニャは弓を構える。


狼が低く唸る。


一匹が飛び出した。


弦が鳴る。


矢が放たれた。


狼の肩に突き刺さる。


だが、もう一匹が飛びかかった。


ターニャは弓を投げた。


短剣を抜く。


そしてナルタルの前に立った。


「ぼくの後ろにいなよ」


ナルタルは呆然とする。


ターニャは振り返らない。


狼が飛びかかる。


短剣が閃く。


狼は地面に落ちた。


もう一匹は傷を負った仲間を見て、

森の奥へ逃げていく。


森に静けさが戻った。


ターニャは短剣をしまう。


それから振り返った。


「大丈夫?」


ナルタルは呆然としていた。


「……姫様」


「うん?」


「強いですね」


ターニャは笑った。


「まあね」


それから言う。


「君は?」


ナルタルは困った顔をした。


「ぼくは……」


少し黙る。


「戦い、あまり得意じゃないんです」


正直に言った。


「怖いんです」


「血とか」


「死ぬとか」


ターニャはしばらく黙っていた。


それから笑った。


「いいじゃん」


ナルタルは驚く。


「え?」


「怖いってわかってる人の方が」


ターニャは弓を肩に担ぐ。


「無茶しないでしょ」


そして言った。


「ぼくは勇敢だけど」


「ちょっと無茶するタイプだからさ」


ナルタルは少し笑った。


それから言う。


「……それなら」


勇気を出して続けた。


「ぼくが止めます」


ターニャは振り返る。


ナルタルは照れくさそうに笑った。


「危ないことしたら」


「ぼくが止めます」


「姫様が死んだら困るので」


ターニャはしばらくナルタルを見ていた。


それから言う。


「じゃあ」


弓をくるくる回す。


「君にする」


ナルタルは目を丸くした。


「え?」


「騎士」


ターニャは笑う。


「ぼくを止められる人、必要だし」


ナルタルは慌てた。


「ぼ、ぼくでいいんですか?」


「うん」


ターニャはあっさり言う。


「だって」


少し笑った。


「逃げなかったから」


ナルタルは首をかしげる。


「逃げてない?」


「うん」


ターニャは森の奥を見る。


「鹿より先に逃げる人、いるからね」


そう言って歩き出した。


「ほら」


振り返る。


「行くよ、騎士」


ナルタルは慌てて後を追った。


「は、はい!」


森の中に、二人の足音が消えていった。

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